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夏の焦れ恋  作者: 衣谷強
7/7

井上 寧子

最終話です。


最後は『花火大会』。

夏の最後の思い出の時に、揺れる心は……?


どうぞお楽しみください。

「……江川君、今週末の花火大会、……一緒に見に行かない?」


 それは私の中の勇気を全部絞り出して言った言葉。


『あぁ、いいよ』


 電話の向こうで、江川君は普通に答えてくれた。

 それが嬉しいけど不安にもなる。

 早川君と茜ちゃんのお陰で、遊園地には行けた。

 二人きりで色々なところを回る事もできた。

 ……でも江川君にとっては、やっぱりただの友達なのかな……。

 私だけがどきどきしてるのかな……。

 ……だったらこの花火の時に、意識してもらえるよう頑張ろう!

 ……もし雰囲気が良かったら、そのまま告白……!

 高三の夏だもん!

 卒業したら会えるかわからない!

 思い切っていかないと……!

 うん! 頑張ろう!




「悪い、待たせた」

「う、ううん、今来たところだから……」

「そっか。じゃあ行くか」

「……うん……」


 渾身の浴衣、スルー!

 うぅ、私やっぱり魅力ないのかなぁ……。

 でも二人きりでの花火に来てくれるって事は、嫌いじゃないんだよね……?


「花火の時間まで屋台回らない? 俺たこ焼き食べたくて」

「う、うん、いいね。私も食べたい」


 ……やっぱり友達としか思ってないのかな……。




「いい場所取れたな」

「うん、そうだね」

「そろそろか。楽しみだな」

「うん」


 屋台巡りをして、花火会場に。

 花火を待つ人で、会場は混み合ってる。

 自然と私と江川君の距離が近くなって……。


「お」

「あ」


 大きな音と共に、花火が上がった。

 赤に、青に、紫に、花火の色と共に私達の色も目まぐるしく変わる。

 江川君の横顔に目を向けると、静かに空をじっと見つめてる。


「……」


 この横顔をずっと見つめていた。

 三年間同じクラスで、何をやるにも前向きで一生懸命。

 体育祭、文化祭、合唱祭。

 何でもない毎日の授業も、真剣に取り組んでいた。

 そんな姿を見ていたら、自然と好きになっていた。

 江川君が好き。

 私の事をどう思っているかわからないけど、そんなの関係ない。

 私が好きな気持ちを、正直に伝えよう。


「……江川く」

「井上さん。綺麗だね」

「!」


 きゅ、急に何!?


「去年一昨年と見れなかったから、一段と綺麗に感じるね」

「う、うん、そうだね」


 び、びっくりした……。

 花火の事かぁ……。


「来年もこの花火、一緒に見に来たいな」

「!」


 それって、卒業してからも会いたいって事……?

 だったら、私……!


「……そうだね! 来年もまた一緒に見ようね!」

「あぁ!」


 この夏で終わりじゃないなら。

 次の夏がやってくるのなら。

 まだこの気持ちは、胸の中で暖めておこうかな……。

読了ありがとうございます。


井上いのうえ 寧子ねいこ……高校三年生。口数が少なく、物静か。成績は優秀で運動は苦手という、お淑やかを絵に描いたような女の子。男女問わず人気があるが、突然話しかけられると怯えてしまう。


江川えがわ 真司しんじ……高校三年生。何事にも真面目で一生懸命だが、変な熱や押し付けがましいところがないので、男女問わず信望が厚い。あまり見せない笑顔が可愛いとの噂。


夏の焦れ恋、いかがでしたでしょうか?

これは元々拙作『冷たくて、甘い』(https://book1.adouzi.eu.org/n6275hs/)のサイドストーリーとして考えていた短編ネタでした。

登場人物のほとんどが高校三年生なのはそのためです。


そして全編を通していくつかネタを仕込んでおります。

わかった方はメッセージにて送ってもらえたら、何かいい事があるかもしれません。少なくとも私は喜びます。


それではまた別の作品でお会いしましょう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)主人公はそれぞれに違うんですが、それぞれの焦れ恋がそれぞれの個性に合わせて書かれていたのがとても好印象でした。寧子ちゃんの話で終わったのにくいですね。めちゃめちゃロマンスが止まらない…
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