井上 寧子
最終話です。
最後は『花火大会』。
夏の最後の思い出の時に、揺れる心は……?
どうぞお楽しみください。
「……江川君、今週末の花火大会、……一緒に見に行かない?」
それは私の中の勇気を全部絞り出して言った言葉。
『あぁ、いいよ』
電話の向こうで、江川君は普通に答えてくれた。
それが嬉しいけど不安にもなる。
早川君と茜ちゃんのお陰で、遊園地には行けた。
二人きりで色々なところを回る事もできた。
……でも江川君にとっては、やっぱりただの友達なのかな……。
私だけがどきどきしてるのかな……。
……だったらこの花火の時に、意識してもらえるよう頑張ろう!
……もし雰囲気が良かったら、そのまま告白……!
高三の夏だもん!
卒業したら会えるかわからない!
思い切っていかないと……!
うん! 頑張ろう!
「悪い、待たせた」
「う、ううん、今来たところだから……」
「そっか。じゃあ行くか」
「……うん……」
渾身の浴衣、スルー!
うぅ、私やっぱり魅力ないのかなぁ……。
でも二人きりでの花火に来てくれるって事は、嫌いじゃないんだよね……?
「花火の時間まで屋台回らない? 俺たこ焼き食べたくて」
「う、うん、いいね。私も食べたい」
……やっぱり友達としか思ってないのかな……。
「いい場所取れたな」
「うん、そうだね」
「そろそろか。楽しみだな」
「うん」
屋台巡りをして、花火会場に。
花火を待つ人で、会場は混み合ってる。
自然と私と江川君の距離が近くなって……。
「お」
「あ」
大きな音と共に、花火が上がった。
赤に、青に、紫に、花火の色と共に私達の色も目まぐるしく変わる。
江川君の横顔に目を向けると、静かに空をじっと見つめてる。
「……」
この横顔をずっと見つめていた。
三年間同じクラスで、何をやるにも前向きで一生懸命。
体育祭、文化祭、合唱祭。
何でもない毎日の授業も、真剣に取り組んでいた。
そんな姿を見ていたら、自然と好きになっていた。
江川君が好き。
私の事をどう思っているかわからないけど、そんなの関係ない。
私が好きな気持ちを、正直に伝えよう。
「……江川く」
「井上さん。綺麗だね」
「!」
きゅ、急に何!?
「去年一昨年と見れなかったから、一段と綺麗に感じるね」
「う、うん、そうだね」
び、びっくりした……。
花火の事かぁ……。
「来年もこの花火、一緒に見に来たいな」
「!」
それって、卒業してからも会いたいって事……?
だったら、私……!
「……そうだね! 来年もまた一緒に見ようね!」
「あぁ!」
この夏で終わりじゃないなら。
次の夏がやってくるのなら。
まだこの気持ちは、胸の中で暖めておこうかな……。
読了ありがとうございます。
井上 寧子……高校三年生。口数が少なく、物静か。成績は優秀で運動は苦手という、お淑やかを絵に描いたような女の子。男女問わず人気があるが、突然話しかけられると怯えてしまう。
江川 真司……高校三年生。何事にも真面目で一生懸命だが、変な熱や押し付けがましいところがないので、男女問わず信望が厚い。あまり見せない笑顔が可愛いとの噂。
夏の焦れ恋、いかがでしたでしょうか?
これは元々拙作『冷たくて、甘い』(https://book1.adouzi.eu.org/n6275hs/)のサイドストーリーとして考えていた短編ネタでした。
登場人物のほとんどが高校三年生なのはそのためです。
そして全編を通していくつかネタを仕込んでおります。
わかった方はメッセージにて送ってもらえたら、何かいい事があるかもしれません。少なくとも私は喜びます。
それではまた別の作品でお会いしましょう。




