紺野 至
第六話です。
今回は夏の定番『帰省』で書いてみました。
どうぞお楽しみください。
田舎は嫌いだ。
何があるわけでもない。
だからしばらく帰省しないで済んでた夏は、本当に楽だったのに……。
「……つまんね」
もう山とか虫とか川とか魚とかではしゃぐ歳じゃないんだよ。
する事もなくごろごろする日々。
あー、早く帰りたい……。
「至にーちゃん!」
「!?」
急に縁側から声をかけられ、跳ね起きる。
……誰だ?
中学生くらいの女の子で、俺の名前を知ってるって事は……。
「お前、陽子か!?」
「良かったぁ! 今年は来てくれたんだね!」
「お、おう……」
いとこのはしゃぎっぷりに、俺は曖昧な返事を返す。
会わなくなって三年。
最後に会った時小四だったから、今中一か……。
「ねー! 遊びに行こー!」
「遊びにって、どこに……」
「川!」
「川って……」
小学生じゃあるまいし、川に行って何するんだ。
水着もないし。
「暑い時は川だよ! ほら行こう!」
「わかった! わかったから引っ張るな!」
「とーちゃく!」
「おぉ、変わらないな、ここは」
昔よく遊んだ川原。
水が綺麗で魚や沢蟹もよく取れる。
昔は我先にと飛び込んだもんだが……。
「わーい!」
!?
何で躊躇なく飛び込む!?
水着じゃないのに!
Tシャツとハーフパンツなのに!
「ひゃー! 気持ちいー! 至にーちゃんも入りなよー!」
「いや、ジーパンで水に入ったら、重くて動けないだろ」
「じゃあ脱げばいーじゃん」
「は?」
脱いだら下はトランクスなんですが?
「昔はパンツ一丁で遊んでたじゃん! 水着と一緒だよ!」
「いや、そんな事ないだろ」
「あるって! ほら!」
いやお前何でTシャツ脱ぐ!?
ああ! ハーフパンツまで!
「ほらー! 水着と一緒じゃん!」
「……いや、その、お前、いくら何でも……」
……確かにグレーのスポーツブラとショーツは、水着に見えなくもない……。
でも! 年頃の男子高校生には! 水着でも十分な刺激なの!
「さ、至にーちゃんも脱いで脱いで!」
「え、いや、その……!」
やめろ! その格好で近寄るな!
くそ! こうなったら!
「……ちょっと待ってろ!」
急いでポケットの中身を出して、靴と靴下を脱ぐと、
「とう!」
俺は川へと飛び込んだ。
「おー! さすが至にーちゃん! でもズボン脱がないで良かったの?」
「……これでいいんだ」
冷たい川の水が全身を冷やす。
これで俺の頭も冷え
「じゃあ魚何匹捕まえられるか競争しよう!」
「うぉ!? わ、わかった……」
ない! 陽子に近寄られると、また心臓が高鳴る!
上流側に向かう陽子を見ないように、俺は川の中へと視線を落とした。
読了ありがとうございます。
いつからでしょう。
水に入る前に着替えの心配をするようになったのは……。
これが大人になるという事なのですね……。
紺野 至……高校三年生。ややインドア派。外に出ないわけじゃないけど、携帯の圏外ばかりの田舎に辟易している。
愛野 陽子……中学一年生。近所に同じくらいの歳の子がおらず、学校がないと大人ばかりの生活になるので、至が来た事でハイテンションになっている。
次話で完結となります。
よろしくお願いいたします。




