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夏の焦れ恋  作者: 衣谷強
6/7

紺野 至

第六話です。


今回は夏の定番『帰省』で書いてみました。

どうぞお楽しみください。

 田舎は嫌いだ。

 何があるわけでもない。

 だからしばらく帰省しないで済んでた夏は、本当に楽だったのに……。


「……つまんね」


 もう山とか虫とか川とか魚とかではしゃぐ歳じゃないんだよ。

 する事もなくごろごろする日々。

 あー、早く帰りたい……。


いたるにーちゃん!」

「!?」


 急に縁側から声をかけられ、跳ね起きる。

 ……誰だ?

 中学生くらいの女の子で、俺の名前を知ってるって事は……。


「お前、陽子ようこか!?」

「良かったぁ! 今年は来てくれたんだね!」

「お、おう……」


 いとこのはしゃぎっぷりに、俺は曖昧な返事を返す。

 会わなくなって三年。

 最後に会った時小四だったから、今中一か……。


「ねー! 遊びに行こー!」

「遊びにって、どこに……」

「川!」

「川って……」


 小学生じゃあるまいし、川に行って何するんだ。

 水着もないし。


「暑い時は川だよ! ほら行こう!」

「わかった! わかったから引っ張るな!」




「とーちゃく!」

「おぉ、変わらないな、ここは」


 昔よく遊んだ川原かわら

 水が綺麗で魚や沢蟹もよく取れる。

 昔は我先にと飛び込んだもんだが……。


「わーい!」


 !?

 何で躊躇なく飛び込む!?

 水着じゃないのに!

 Tシャツとハーフパンツなのに!


「ひゃー! 気持ちいー! 至にーちゃんも入りなよー!」

「いや、ジーパンで水に入ったら、重くて動けないだろ」

「じゃあ脱げばいーじゃん」

「は?」


 脱いだら下はトランクスなんですが?


「昔はパンツ一丁で遊んでたじゃん! 水着と一緒だよ!」

「いや、そんな事ないだろ」

「あるって! ほら!」


 いやお前何でTシャツ脱ぐ!?

 ああ! ハーフパンツまで!


「ほらー! 水着と一緒じゃん!」

「……いや、その、お前、いくら何でも……」


 ……確かにグレーのスポーツブラとショーツは、水着に見えなくもない……。

 でも! 年頃の男子高校生には! 水着でも十分な刺激なの!


「さ、至にーちゃんも脱いで脱いで!」

「え、いや、その……!」


 やめろ! その格好で近寄るな!

 くそ! こうなったら!


「……ちょっと待ってろ!」


 急いでポケットの中身を出して、靴と靴下を脱ぐと、


「とう!」


 俺は川へと飛び込んだ。


「おー! さすが至にーちゃん! でもズボン脱がないで良かったの?」

「……これでいいんだ」


 冷たい川の水が全身を冷やす。

 これで俺の頭も冷え


「じゃあ魚何匹捕まえられるか競争しよう!」

「うぉ!? わ、わかった……」


 ない! 陽子に近寄られると、また心臓が高鳴る!

 上流側に向かう陽子を見ないように、俺は川の中へと視線を落とした。

読了ありがとうございます。


いつからでしょう。

水に入る前に着替えの心配をするようになったのは……。

これが大人になるという事なのですね……。


紺野こんの いたる……高校三年生。ややインドア派。外に出ないわけじゃないけど、携帯の圏外ばかりの田舎に辟易している。


愛野あいの 陽子ようこ……中学一年生。近所に同じくらいの歳の子がおらず、学校がないと大人ばかりの生活になるので、至が来た事でハイテンションになっている。


次話で完結となります。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今話、めっちゃ好きです! 男の子はこうやって男性に変わっていくんですよねー 完結話も楽しみです!
[良い点] ハイテンションになってる陽子ちゃん、至くんと別れて暫くしてから、やっちゃったぁ!と赤くなり……そうにないくらい無邪気で可愛いですね(笑) 少し前まで小学6年生だった訳ですし、まだまだ恋には…
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