連雀 伊織
第五話です。
青春の王道『部活』を絡めてみました。
どうぞお楽しみください。
『凄い汗。努力の証って感じだね』
その言葉は魔法だったんだと思う。
その日から練習が全然辛くなくなったんだから。
『伊織ちゃんなら勝てるよ、きっとね』
あんなに心強い応援があっただろうか。
お陰で遥かに格上の選手に勝つ事ができた。
「木村君……」
名前を口にするだけで。
顔を思い浮かべるだけで。
身体中に力がみなぎるのを感じる。
……だからこそ怖い。
高校最後の大会。
応援に来てくれたら、優勝だって夢じゃないと思う。
でも誘って断られたら……!
「……で、俺に誘って来いと」
「お願い! クラスメイトの鬼崎だったら木村君の事呼べるでしょ!?」
「……まぁ、呼べなくはないけどよぉ……」
鬼崎は頭を掻きながら溜息をつく。
な、何か問題があるのかな!?
「じゃあ去年の夏の大会は優勝したのに、冬の大会は二回戦負けしたのって、琢磨の応援あるなしだったのか?」
「……うん」
真剣にやれって怒られるかな。
でもしょうがないじゃん!
木村君の応援があるだけで元気になれるんだから!
「……そういう事は早く言えよ……」
鬼崎は更に深い溜息をついた。
え、言っておけば冬の大会でも木村君を呼んでくれたのかな!?
惜しい事したー!
「……確かにそんなに強くないうちの卓球部が全国行けたのは、連雀の努力と成果に依るところが大きい」
「そ、そうかなぁ……」
だとしたらそれは先輩方とか先生の教え方の賜物だと思う。
私は高校で初めてシェイクとペンの違いを知った素人なんだから。
「しかしその原動力が琢磨だったとはなぁ……」
「ご、ごめんね……」
鬼崎は小学校から卓球をガチでやってたから、ぽっと出の私の事は気に入らないだろう。
しかもそのやる気の源が、部員でもない男の子の応援だったなんて……。
「……わかった。俺達の最後の大会、できるだけいい成績で後輩につなげてやりたいからな」
「じゃあ!」
「ただし! 条件が一つある」
「条件?」
鬼崎はにやっと笑うとラケットを手に持った。
「俺と勝負だ。一ゲームも取らせず勝って見せろ」
「えっ……。一ゲームもって、それは流石に無理があるんじゃ……」
「お前が琢磨さえ呼べば勝てるって言うなら、そんぐらいの実力を見せてみろよ。じゃなきゃ呼んでも呼ばなくても変わらないって事だろ」
「!」
そうだ。
これで勝てば木村君が応援に来てくれる。
それを思うだけで力が湧いてくる!
「……本気で行くよ!」
「はっ! 返り討ちだ!」
部活と恋。
青春の全てが詰まった白球を、私は高々と放り上げた。
読了ありがとうございます。
連雀 伊織……高校三年生。動体視力がずば抜けていて、極限まで集中力が高まると時速百キロ近い球の回転まで見えるレベル。身体能力も高く、百年に一人の逸材。
鬼崎 大知……高校三年生。小学生の頃から鍛え続けた実力は全国レベルなのだが、この勝負では一ゲームどころか一点も取れず完封負けを喫し、涙を押し殺して琢磨に連絡を取った。
木村 琢磨……高校三年生。イケメン、スタイル良し、気配り良しの、こいつがモテなきゃ誰がモテるんだ、と言いたくなる男。ただしあくまで普通のイケメンであり、他人の能力を上げると言った能力はない。伊織の能力向上は、本人の気合の賜物。
次話もよろしくお願いいたします。




