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夏の焦れ恋  作者: 衣谷強
3/7

野田 華子

第三話です。


ちなみに主人公は女子・男子と交互になってます。

これで性別不明な名前が出ても大丈夫、なはず。


どうぞお楽しみください。

 野田のだ 華子はなこ、十八歳。

 私は今、恋をしている。


「あ、華子はなこさん」

「いらっしゃいませ」

「今日も花束お願いできるかな」

「勿論です」


 このイケメン大学生、九条くじょう 盛仁もりひとさんに……。


「いつものようにヒマワリベースで女の子向けに。夏らしくクルクマを入れてみましょうか」

「お願いします。やっぱり女の子に贈る花は、女の子に選んでもらうのが一番いいですね」

「……アリガトウゴザイマス」


 叶わぬ恋だと知っていても……。




 九条さんが初めてうちの店に来た日、私は配達に行った父の代わりに店番をしていた。

 日曜の午前は滅多にお客も来ないので、私は花の在庫のチェックをしていた。

 そんな時だ。


「すみません」

「はっはい!」


 すらりとした高身長のイケメンに嬉しくなるも、


「女の子に贈る花束を作ってもらえますか?」


 一瞬で胸の高鳴りは消え失せた。


「……ワカリマシタ。ゴ予算ハ……?」

「三千円くらいでお願いします」

「ドンナ感ジニシマショウ……」

「落ち込んでる子が笑顔になるような明るい感じで」

「っ! か、かしこまりました!」


 にこっと笑う九条さんに胸のときめきが復活するのを感じて、私は慌ててヒマワリをメインに花束を作った。


「すごい! これで三千円なんて! ありがとうございます!」

「い、いえ、喜んでもらえたなら良かったです!」


 笑顔で花束を抱えて出て行く九条さん。

 その姿を見送りながら、胸に込み上げる喜びと苦しさに、私は恋に落ちた事を自覚したのだった……。




「今日の花も素敵だ。いつもありがとう」

「いえ、喜んでもらえて嬉しいです」


 私の花束が九条さんを笑顔にしている事は誇らしいけど、それを共に喜ぶ彼女さんを思うと、胸が燃えそうになる。


「で、これ、迷惑じゃなかったら」

「え?」


 差し出されたのは取手付きの紙箱。

 行列のできるスイーツ店の箱だ。

 え、私に……?


「いつも素敵な花束作ってくれるから、ちょっとしたお礼」

「え、そ、そんな……。こちらこそいつもありがとうございます……」

「嫌いじゃなかったら食べてくれると嬉しいな。じゃあまた」

「あっ……」


 九条さんはそのまま帰っていった。




「……わ」


 箱の中身はゼリーパフェだった。

 メロン味であろう緑のゼリーにさくらんぼ、上にはクリームとデンファレ……。

 デンファレの花言葉は『お似合いの二人』……。


「……ぅ……、ぐすっ……」


 彼女がいる人にこんな気持ち持っても仕方ないのに……!

 視界が歪む。

 パフェがクリームソーダみたいに、ゆらゆら揺れて見えた……。

読了ありがとうございます。


野田のだ 華子はなこ……高校三年生。小学生の時から店を手伝っていて、すでに店はほぼ一人で回せるレベルまで到達。将来の夢は自分のアレンジした花に囲まれた結婚式。


九条くじょう 盛仁もりひと……大学三年生。三歳下に妹がおり、夏休みを利用して持病の手術をするために入院しているところに、花を持って行くのが毎週のルーチン。妹は間もなく退院できる模様。


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 定番の兄弟姉妹を恋人と勘違いする系ですね。 この後、退院した妹さんと歩く姿を見てますます打ちひしがれてみたり、妹さんがいつも素敵な花をありがとう、と店に来て実は妹だと分かったりと、今後の…
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