第三十五話 月詠さんに会いに行きました
今日は紗由理様に休暇を戴いたので、近所にある神社へと足を運びました。
「月詠さん、いらっしゃるのでしょ? 出てきてくださいッ!」
私が御堂に向かって話しかけると後ろから男の子の声が聞こえてきました。
『心雪、君が今日ここに来る予定なんて、僕の記憶にはない。どうしてここにいる?』
「それは私が未来から来たからです。それに、ここに来れば月詠さんにも会えると思ってましたからね」
私は後ろに振り返って月詠さんと対面します。月詠さんは少々戸惑ってる様子でした。
『み、未来……?』
「はいっ、実は━━━━」
私は湊二郎様のことや私の身に起きたことなど、全てを話しました。信じて貰えないかもしれないので、月詠さんのことも全部バラしてあげました。
月詠さんはコレでも一応神様(笑)です。それなりの威厳を保ってないといけないはずなのですが……
「紗由理、お前は俺様のもんだ。絶対離さないからな?」
『うぎゃあああぁぁぁあああッ!!!! お前やめろぉぉぉぉぉおおおッ!!!』
この通り地面で頭を抱えながらゴロゴロとして石畳に頭を打ち付けています。月詠さんは未来を詠むことはできますが、自分の力では変えることができません。
つまり、月詠さんは未来で私の言った恥ずかしいセリフを言わなければならないという運命が待っているのです。こればかりは少しだけ可哀想に思えてきますね……
「それで月詠さん、私を未来に返してくれませんか? 紗由理さまと居るのも楽しいのですが、やっぱり私は……」
『……できるかわからないけど、努力はしてみる。くれぐれも余計なことはしないでくれよ?』
「はいっ、了解ですっ! ではよろしくお願いしますね」
私は頭を下げて神社を出ようとしますが、何故か月詠さんに呼び止められました。
……なにかご用でしょうか?
『供物がない』
「……あとで買ってきます」
蒟蒻でもやっとけばいいですよね。さて、折角の休日ですので、今日はアレを買いに行くとしましょう。
◇◇◇
「あっ、ありました!」
私は青い花の付いた髪飾りを手に取り、値段を確認します。
「高っ……」
なんと驚くべきことか、初給料のほとんどを使ってしまう金額でした。
当時の私はよくコレを買いましたね。今ならお金の無駄だと思って絶対買いませんよ。まあ、若かれし頃の私です。きっとお金の価値観を知らなかったのでしょう。他にお金を使う予定もないので、買ってしまいましょう。
「ありがとうございました!」
ふふんっ! 買ってしまいました! あとで紗由理様に見せてあげましょう! あっ、蒟蒻買わないといけませんね。あとちくわも買って行きましょう。
「蒟蒻とちくわをください!」
「あいよ!」
私は懐から別の財布を取り出して蒟蒻とちくわを購入します。これは紗由理様の家計に使われてるお財布です。あとで家計簿に記入しておかないといけませんね。
それから一旦家に戻り、家計簿に書きます。その後、買ってきた蒟蒻を三等分にしてそのうちの1つをお皿に乗せます。残りは冷蔵庫に保管します。
「月詠さん、お供物ですよ」
『……こんにゃく?』
「蒟蒻です。どうぞお食べください。それでは私はこの辺で」
私は月詠さんに蒟蒻を渡して、文句を言われる前に神社からそそくさと逃げていきました。
「あっ、髪飾り買ったんだね。似合ってるよ。かわいいね」
「ありがとうございますっ!」
私は買ってきた髪飾りを紗由理様に褒めてもらい、今晩の夕食を作り始めたのでした。




