第三十三話 らぶれたーってなんですか?
あれから数ヶ月が経ちました。紗由理様もすっかりクラスに馴染んでしまいました。
そして、ある日の早朝のことでした。私と紗由理様が席に座ると紗由理様が机の中から1枚の手紙を取り出しました。
「紗由理さま? それはなんですか?」
「ラブレターかな?」
「やぶれたす?」
「ラブレターね」
らぶれたーですか? 結構長生きしてるはずなんですが、聞いたこともありません。それでらぶれたーというのはなんですか?
「うーん……恋文って言えばわかる?」
「こいぶみ?」
また新しい単語が出てきましたよ。らぶれたーとやらの仲間ですか?
「……なんて言えばいいかな? あなたのことが好きですって伝える手紙?」
紗由理様が丁寧に説明してくださって、ようやく理解しました。つまり、らぶれたーというのは光源氏? とかいう人たちが使っていた古代の告白方法なんですね!
「ずいぶん古典的な告白方法なんですね」
「うん? まあ、そうだね……」
紗由理様は手紙を開けて私にも見えるように見せてくれました。するとそこにはこう書かれてました。
『如月紗由理さん。僕はあなたのことがずっと好きでした。放課後、体育館裏で待ってます。そこでお返事を聞かせてください』
……なんですかこの糞みたいな駄文は。そもそも紗由理様に告白するだなんて二十億光年早いですよ!
「心雪、落ち着こ? 一旦落ち着こ?」
「えっ? あっ、はい……」
私は気がついたら手紙を破ろうとしていました。紗由理様に言われて手元を見ると手紙には若干シワがついてしまいましたが、その原形は留めたままでした。
「授業を始めるぞー」
授業が始まり、いつも通り授業を受ける紗由理様を横からジッと見詰めて寝かさないようにします。ですが、普段なら眠そうにしてるはずの紗由理様が何故か今日はふわふわとしていました。らぶれたーというのにはそれなりの効力があるようです。恐るべし、らぶれたー!
それから時間が経って放課後になりました。私は紗由理様にふざけた文章を送ってきたヤツがどんなのかを確認するため、こっそり紗由理様についていきました。
「如月さんのことが好きでした付き合って下さい!」
告白した青年はクラスでも知らない方でした。別のクラスの方でしょうか? 私が首を傾げているといつの間にか終わっていて、青年が泣きながら立ち去って行く姿が見えました。
私は紗由理様に見つからない内に校門へと向かおうとすると、紗由理様以外誰もいないはずの体育館裏の方から複数人の足音が聞こえてきました。
「おい如月。心雪ちゃんだっけ? アイツのご主人様だからって随分調子こきやがって。俺たちがしばき直してやる」
金髪の如何にも問題児っぽい格好をした複数の人たちが紗由理様を囲っていました。
誰だかわかりませんが、紗由理様に危害を加えるのであれば私はあなたたちを排除しますよ。
「おらよッ!」
不良の1人が紗由理様を蹴ろうと、足を前に出しました。その瞬間、私は紗由理様を護るために後ろからその不良を蹴り飛ばしました。
「心雪……?」
「紗由理さまに変なことしないで貰えます?」
私は紗由理様の前に立ち塞がって不良たちに取り掛かります。
紗由理様を護るのは私の務めです!
「この野郎ッ!」
不良たちが襲いかかってきます。私は不良の手を掴みそのまま投げ捨てます。蹴りを入れたり、刃物を使ってくる人たちもいましたが、所詮は学生です。プロではないので、私でも対応することができます。
そして、わずか3分足らずで不良たちをボコボコにしました。
「クソッ! 覚えてろよっ!」
━━━━と、よく漫画や小説で見るのと同じセリフを吐いて、不良たちは逃げていきました。
私は紗由理様に手を差し伸べて、座り込んでいた紗由理様を起き上がらせます。
「帰りましょ。紗由理さまっ!」
「心雪、ありがとね」
「いえっ、これぐらい朝めし前ですよ!」
私と紗由理様は手を繋いで家へと帰ったのでした。
「紗由理さまっ、またお味噌汁が……」
「うんうん、こういうのがあるから心雪はかわいいんだよ。気にしないでいいからね」
「ううっ……」




