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第三十二話 こんなの知りませんよッ!?


 私がクラスのモルモットと化した日の夜、紗由理様が少し不機嫌でした。


「紗由理さまっ、おかわりは……」

「いらない。今日はもう寝るから」


 紗由理様が居間を出て離れ屋へと行ってしまいました。

 ……どうかしたのでしょうか? 紗由理様が不機嫌になるような理由…………あっ!


「ちくわ入れてないッ!」


 明日はちくわを与えましょう。紗由理様がこれ以上不機嫌になられるのは困りますので。



 ◇◇◇



「紗由理さまっ、今日はちくわおにぎりですよ」

「そう、ありがと」


 紗由理様のご機嫌は直ってませんでした。今も不機嫌そうにちくわおにぎりを掴み、まるでリスさんかと思わせるぐらいちまちまとちくわおにぎりをかじっています。

 かわいくて少しきゅんとしてしまいました。


 私は紗由理様と朝食を済ませると学舎へと向かいます。ですが、登校中に紗由理様は一言も話して戴けませんでした。

 いったいどうしたというのでしょうか?


「あのっ……」

「なに?」

「い、いえっ、なんでもありません……」


 思わず紗由理様から目を逸らしてしまいました。とても気まずくて、私は学舎に着くまで紗由理様に話かけることができませんでした。

 なんか非常に気まずいです……。一体どのようにしたらよいのでしょうか?

 

「おはよー」

「おはようございます」


 紗由理様のクラスに入るとクラスメイトの皆様と挨拶をかわしましたが、紗由理様は挨拶もせずに黙ってご自分の席に座りました。

 さすがに挨拶を返さないのは失礼です。少し注意しなくてはなりませんね。


「紗由理さまっ、折角挨拶して戴いたのに返さないのは大変失礼ですよ」

「ほっといてよ」


 私はこれ以上踏み入れることができず、紗由理様は挨拶をすることもありませんでした。

 それから時間が過ぎていき、お昼休みの時間となりました。


「紗由理さまっ、一緒に食べましょう!」

「1人で食べる……」

「紗由理さまっ! ━━━━ひゃあっ!?」


 私が紗由理様の腕を掴むと、紗由理様は私の手を振りほどきました。すると私は振りほどかれた勢いで尻もちをついてしまいました。

 私はクラスメイトの方に支えてもらいながら立ち上がります。


「紗由理……さまっ……?」

「来ないで!」


 私が紗由理様に近付こうとすると、紗由理様からの命令が入りました。ですが、私の気が弛んでいたのか、私はその命令に従わずに前へと進んでしまいました。


「ニ"ャア"ッ!?」


 すると私の首につけてある銀色の首輪から電流が流れてきて、私は立ってられずに倒れました。


「ーーっ!?」


 紗由理様はそのまま教室を出て行きました。私は紗由理様を追いかけようとしますが、電流の余韻で立ち上がることができず、紗由理様を見失ってしまいました。

 こんなの私、知りませんよ……紗由理様はどこに行ってしまったのですか……?


「紗由理さまっ!! どこですかッーー!!」


 とりあえず学舎の知る限りの場所を探しますが、紗由理様は見つかりませんでした。

 その時でした。私の頭の中に1つの映像が浮かび上がってきたのは。


『心雪、私はもう大丈夫だから好きにしなさい。心雪はもう縛られなくていいの。ほら、行きなさい』

『いやですッ! 心雪は紗由理さまのものですっ! 紗由理さまから離れたくありませんっ!』


 これは……紗由理様の結婚式の……。……そういうことですか。確かにあの場所はこの近くでしたね。紗由理様のお気に入りの場所だと聴いたことがあります。あそこならきっといらっしゃるはずです!


 私は学舎の裏から坂を登り始めました。そして、坂を登り続けると頂上はすぐ近くにありました。

 そこには1本の大きな木があり、紗由理様のお姿が見えました。


「紗由理さまっ!」

「心雪……? どうして……?」

「全然見つからないので心配したんですよ!」


 私は紗由理様を抱きしめると涙が溢れました。すると紗由理様は私の頭をゆっくりと撫でて、あの歌を歌い始めました。


「蒼い空の中でっ♪ 全てを護るせかいっ♪

 さあ、その錆びた鍵で次の扉を開けよう♪

 雲の空へと広がる未来 桜の下であなたと共に進むよ♪」


 私は紗由理様に泣きすがり、気づいたら夕方になっていて午後の授業も終わっている時間でした。


「心雪、ごめんね。私、心雪のこと全然考えてなかった。勝手に学舎に来るし、誰とでもすぐに馴染んじゃうし。本当に羨ましい」

「それは紗由理さまが一緒だからできるんですよ。1人だったらできませんよ」


 私だってそんなに強い人じゃありませんからね。そろそろ戻らないと教師たちが騒ぎ出すでしょうし、校舎に戻るとしましょう。


「心雪、ちょっと待って」


 紗由理様に呼び止められた私はなにかと思って首を傾げるとガチャリという音がして首輪が外れました。


「紗由理さまっ……?」

「さっき苦しかったでしょ? 心雪が苦しむ姿なんて見たくないから。代わりに……」


 紗由理様が私の腕に桜色の腕輪を嵌めました。

 私がその腕輪を眺めていると紗由理様が話始めました。


「この木ね。春になると桜が咲くんだ。ここは人も来ないし、桜がとても綺麗なんだ……って言っても心雪は桜とか見たことないよね?」


 ……それぐらい知ってますよ。だって私は未来から来たのですから━━━━━━


 

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