第二十九話 暗黒物質を生成しました!
「どうだ参ったか!」
「お、おしょれいりました……」
紗由理様に耳をはむはむされ続けて立ち上がれなくなった私は、紗由理様のお膝の上で伸びてました。
すると紗由理様は小さく笑って私の頭を撫でてきました。
「心雪って変な子だね。さっきまでは凄い堅い子だと思ってたのに」
「……ただの甘えん坊ですよ」
すると紗由理様が私を抱きしめて頭をわしゃわしゃと撫でてきました。
ちょっと変な感じがしますが、気持ちいいです。
「そっかぁ、ツンデレなんだね!」
「違いますよっ!」
私は紗由理様にベッタリと張り付き、頬擦りをしてから夕食を作る為に台所へと向かいました。
冷蔵庫を見ると紗由理様が大好きな「ちくわ」がありました。
折角ですので、今日はおでんにしましょう。
おでんを煮込むこと三十分。おでんが味噌汁のごとく焦げました。
「またやってしまいましたね……」
私はそっとお鍋の蓋をして、紗由理様のいらっしゃる居間に運びました。
紗由理様のお箸を手にとって、取り皿と一緒にお盆に乗せて運びますが、私のお箸がないことに気づきました。
「紗由理さまっ、本日はおでんです」
紗由理様はちくわ大好き人間なので目を光らせていました。
そして、私がお鍋の蓋をゆっくりと外すとその光っていた瞳は段々と光を失っていきました。
「心雪……これはナニ?」
「おでん……だったモノです」
「この暗黒物質がッ!?」
紗由理様は真っ黒に焦げた大根やじゃがいもを指さしながら仰いました。
作ってもらっておいて暗黒物質呼ばわりは少し酷いと思います。
「紗由理さまっ、食べずに言うのはよろしくありませんよ。もしかしたら奇跡的に味が良くて生きられるかもしれないじゃないですか」
「お前は奇跡が起きないと死ぬようなものを食わせる気か」
私は暗黒物質を勝手口から外に捨て、そこら中に居た野生動物に分け与えます。
「紗由理さまっ! 鹿を狩りましたよッ!」
「その鹿の口から暗黒物質が見えるんだけど……」
とりあえず鹿は腐らないように地下室で血抜きでもしておきましょう。紗由理様の夕食はコレとごはんで良いですね。
「紗由理さまっ、お先に召し上がってください。私は血抜きをして参ります」
「ちくわッ!? よく生きてたね! すっかり焦がされたかと思ってたよ!」
ちくわに頬擦りしている紗由理様。この言動は何十年見続けていても、ヤバいとしか思いませんね。
この頃の地下室の鍵は壊れており、血抜きに使われるような場所でした。
私は地下室で鹿を吊り下げます。血抜きなんて久しぶりにやりましたよ。何時やっても生臭いですね。
さて、今日はこれぐらいにして紗由理様の様子でも見に行きましょう。
「……心雪」
「はいっ、なんですか?」
「臭いよ。洗ってあげるからお風呂行こ?」
紗由理様は私のことを抱き上げて温泉へと向かいました。
「あれ? 心雪はお風呂嫌いじゃないの?」
「はいっ、お風呂は大好きです。1日の疲れを癒してくれますからね」
紗由理様は私をそのまま地面に降ろすと逃げると思ってたのか、私の首根っこを掴んだまま地面に降ろしましたが、私の言葉を聞いてその手を離しました。
「猫?」
「猫ですよ?」
それから私は紗由理様に身体を洗って戴いて、紗由理様と温泉に浸かりました。
今日は夜空が綺麗に見えます。湊二郎様はどうしてるのでしょう? 私が目を覚まさなくなって、私を土にでも埋めてる頃でしょうか? 私はまた暫く会えないかもしれませんが、また80年後にでも会いましょう。
その時は必ず━━━━━━
「さ、紗由理さまッ!? どうしたのですかッ!?」
紗由理様が後ろから抱きついてきました。私は恥ずかしさから少し顔を赤らめますが、何処か温かい気持ちになりました。
やっぱり湊二郎様の祖母なんですね……湊二郎様に逢いたいです。湊二郎様は今、どのように過ごしてらっしゃるのですか?
「……猫耳って思ってたよりも人間らしいんだね」
「紗由理様がそう仰るなら、そうなのかもしれませんね」
私と紗由理様は夜空を見上げながら、温泉にゆったりと浸かるのでした。




