第二十八話 時間が戻ってるのですかッ!?
「本当によろしいのですか?」
「ええ、この子でお願いします」
あれ? ここは……
私は顔を見上げるとそこには亡くなったはずの紗由理様がいらっしゃいました。紗由理様のお姿は私と出会ったばかりの若々しいお姿でした。
思わず目を見開き、紗由理様に近づこうとしましたが、首から電流が流れてきて、横に倒れました。
「ご心配無く。軽い電流を流しただけです。仕付けには1番効くので、利用してるだけです。特に害はありませんので」
倒れた私につけられた首輪を持って、無理やり立ち上がらせました。
この人、覚えてます。私たちを育てると同時に散々なことをしてきた施設の先生……
「ではこちらにサインを」
紗由理様は施設の先生から受け取った書類にサインをすると、今私がつけている首輪とは違う銀色の首輪を渡しました。
これってもしかして……私が紗由理様に買い取られた日に戻ってるんですかッ!?
「私は紗由理。今日からよろしく。えっと……」
「名前は無いので、お客様がお決めください」
私が口を開こうとしましたが、施設の先生が答えました。それを訊いた紗由理様は私に銀色の首輪をつけてから言いました。
「じゃあ『心雪』! 君は今日から心雪だッ!」
「心雪……」
私はその名前を呟きました。そういえば私はこの日に『心雪』になったんでした。それまでは番号で呼ばれていました。
「はいっ! よろしくお願いしますッ!」
私は紗由理様と家に向かうため、準備をしてくるように言われました。
柚葉ちゃんや他の子たちはお仕事中のようだったので、必要なものをかばんに入れていきます。
そして全ての荷物を纏め終え、部屋を出ようとした時のことでした。
私の目には1本の万年筆が映りました。
「……もう後悔はしたくありませんね」
私は万年筆を持ち、手早く手紙を書いて、封をしました。
封をした手紙は柚葉ちゃんの枕下に隠して私は部屋を出ます。
「お待たせしました」
「よしっ、じゃあ行こっか」
「はいっ!」
私は紗由理様と共に鉄道を乗り継ぎ、家と向かいました。
「ここが私の家。心雪も今日からここに住むんだよ」
紗由理様は私と湊二郎様が住んでいた家を私に見せました。
実はこの家はこの頃からここにあったのです。紗由理様が俊太郎様を産みになってから隣町に引っ越して、湊二郎様が十歳になった時にこの家に戻ってきたのです。
「さっ、入って入って」
紗由理様に背中を押されて家に入ります。
まだ建てられて時間が経っていないのか、新築という感じがします。
「私は何をすればよろしいですか?」
「…………」
「な、なんですか……?」
紗由理様は私のことをジッと見詰めてきます。
「見た目に反して妙に大人だね……」
見た目は完全に十歳児ですけど、実際は紗由理様とは1つしか違わないのですよ。
さらに精神面で言えば既に百を超えてますよ。
「じゃあ早速だけど、この部屋の掃除お願いね」
「はいっ、お任せください!」
私は紗由理様から箒と塵取りを受け取り、居間のお掃除を始めます。居間にはちゃぶ台と棚があるだけで、タンスはありませんでした。
「紗由理さまっ、終わりました」
「ずいぶん手早いね……」
紗由理様はちゃぶ台の前に座ってちゃぶ台の上に置いてあった教科書を読み始めました。
「……え?」
「ん? どうかしたの?」
「あっ、いえ……なんでもないです」
私の知ってる紗由理様はお掃除を終えると毎回頭を撫でて抱きしめてくれるのですが、今はそれが無く、思わず不安な声を漏らしてしまいました。
私は紗由理様にお茶を淹れる為、台所に向かいました。
「えっと、確かここに……」
戸棚から茶葉の入った筒と急須を取り出してお湯を沸かします。お湯が沸く前に茶葉を急須に注ぎ、湯飲みを用意します。
お湯が沸いたらお湯を急須に淹れ、しばし待ちます。あとは急須からお茶を湯飲みに淹れて完成です。
「紗由理さまっ、お茶を淹れましたよ」
「ん? ああ、ありがとう……」
湊二郎様のような返事を返すものの、何故か紗由理様は目を合わせてくれません。
どこか気まずい感じがします。仕方ありません。こういうときはやはりアレしかありませんね。
「はむっ……」
「ウヒョワァッ!? な、ナニっ!?」
「はむはむっ……」
そう、お耳はむはむです。こうすることで紗由理様の可愛らしいお姿がお見栄になるのです。
「はむはむっ……」
「ちょっ、心雪! やめっ━━━━」
紗由理様の反応が私の知っている普段のとは少し違って、危ない気がしたのですぐにやめました。
すると紗由理様は下を俯きながら黒い笑みを溢していました。
「あ、あの紗由理さまっ……」
「ふふふ、随分やってくれたね? じゃあ今度はこっちの番だよね?」
私は紗由理様が恐ろしくなって後ろに身を引きますが、壁に当たりました。
「心雪覚悟ォーーーーッ!!!」
「にゃあああぁぁぁあああッ!!!」




