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第二十七話 大好きです。


「ウソ、ですよね……?」



 私の声は震えていて、とても小さな声でしたが、湊二郎様は聞き落とすこともなく、私に告げました。



「本当だ心雪。お前には最後まで普通に生活していて欲しかったから黙ってたんだ。……ごめん」



 湊二郎様は暗い顔をして謝りました。私はその現実を受け止めきれずに涙を溢しました。



「ようやく叶ったのに……こんなの、酷すぎますよ……」



 湊二郎様は起き上がれない私を膝の上に乗せて頭を撫でました。

 私はもっと湊二郎様と一緒に居たいですッ!! なのにどうしてッ!!!



「いやっ! イヤですよっ! 私まだ死にたくないですっ!」



 それは、私の心からの叫びでした。湊二郎様は私を抱きしめて優しく頭を撫でました。

 私は湊二郎様に泣きすがり、止まらない感情をひたすらにぶつけました。

 不甲斐なく私が湊二郎様に感情をぶつけてから三十分。私はようやく落ち着きました。



「すいません。取り乱しました……」

「心雪……」



 湊二郎様は私にキスをしました。今までみたいな口唇を重ねるぐらいのとは違って、湊二郎様の舌が私の口に入ってきて、私の舌と絡み合いました。

 息が苦しいですが、不思議と気持ちよくて身体がふわふわとした感じになりました。



「湊二郎さまっ……?」

「今はゆっくり休め。出来る限りは一緒に居てやるから」



 湊二郎様がそう仰られて手を握られると私は小さく笑って言いました。



「ありがとうございます。湊二郎さまっ」



 この日を境に私は1日のうち、ほとんどを布団の中で生活することが基本となってしまいました。今までは湊二郎様のお世話をしていたのに、今では反対に湊二郎様が私のお世話をされています。

 なんか老人にでもなった気がしますね。私って人間で言えばまだ10歳ぐらいなんですよ? それなのに介護無しでは生活できない状態だなんて、紗由理さまと出会った時には考えられませんでしたね。



 私が寝込むようになってから早くも1週間が経ちました。

 最近では食事も喉を通らず、ゼリー状にしたものを湊二郎様に無理やり食べさせられています。

 


「湊二郎さまっ……」



 私は力を振り絞って湊二郎様の元に近寄ろうとすると、湊二郎様は私を抱き上げて膝の上へと座らせました。

 私は湊二郎様の胸に顔を当てて、その温かさを感じます。



「もういいです。私は湊二郎さまと一緒に居られて楽しかったのです」

「心雪ッ! お前はバカなことを━━━━」



 湊二郎様が言おうとしますが、私は首を横に振って笑いました。そんな私を見て湊二郎様は言葉を紡ぎました。



「お前ってヤツは……本当に……」



 私は頑張って湊二郎様の背中に腕を回し、湊二郎様に抱きつきました。



「ええ、馬鹿かもしれません。そんなお馬鹿な私にできるのは湊二郎様をお助けすることだけです」



 私は着物の裾から1つの袋を落としました。

 湊二郎様はそれを拾い上げて、私に訊ねました。



「これは?」

「地下室の鍵です。私の貯金が入ってますので、湊二郎様のお好きなようにお使いください」

「……そうか。ありがとう」



 湊二郎様が私にお礼を申し上げると、私は力が抜けてしまい、後ろに倒れそうになりましたが、湊二郎様が支えてくれました。

 そして、湊二郎様は私を膝の上で寝かせました。



「こうすると本当に猫みたいですね」

「そうだな……」



 湊二郎様は横になっている私の背中を撫でて言いました。

 だんだん私の呼吸が荒くなってきました。どうやらここまでのようですね。


 私は寝返りを打って、湊二郎様と目を合わせました。

 そして、ゆっくりと手を震わせながらも湊二郎様のお顔に手を当てて小さな声で呟きました。


 

「湊二郎さまっ……」



 ……そうだったのですね。これが━━━━━━



「大好きですっ」



 『愛おしい』ということなのですね━━━━━━




「こ、ゆき……? おい、心雪! ーーっ!?」



 湊二郎様の頬には涙が流れました。そして、眠った私に向かって叫びました。




「小雪ッーーーーーー!!!!!」









というわけで『世話好き少女の恋愛譚 第一部』は完結です。

次回からは第二部に入りますので、今後とも応援よろしくお願い致します。

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