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第二十六話 ウソ、ですよね……?


 私と湊二郎様は多久郎さんを柚葉ちゃんの元まで連れ帰り、湊二郎様と二人で柚葉ちゃんに多久郎さんを投げつけました。

 多久郎さんを受け止めた柚葉ちゃんはその場に倒れました。



「心雪ッ! 何をするッ!?」

「ねえ柚葉ちゃん、多久郎さんのこと好きですよね?」



 私はゆっくりと柚葉ちゃんに近づきます。



「こ、心雪……? な、なにを……」

「柚葉ちゃんは多久郎さんのことが大好きなんですよ」



 柚葉ちゃんの頭から鈍器の当たる鈍い音が響きました。

 気絶した柚葉ちゃんと多久郎さんに「柚葉と多久郎相思相愛」と耳元でひたすら呟いてお二人を洗脳していきました。

 耳から入れた情報は意識がなくとも脳に届くので、稀に呟いたことが夢に出てくる場合もあります。



「大根百円大根百円大根百円大根百円……」

「なにしてるんですかっ!?」



 私は湊二郎様の頭を叩いて怒りました。

 せっかく洗脳してるのに大根百円って! 洗脳の意味がなくなるじゃないですかッ!!



「相思相愛相思相愛相思相愛相思相愛……」

「大根百円大根百円大根百円大根百円……」

「「うーん……」」



 私と湊二郎様の同時洗脳によって柚葉ちゃんと多久郎さんはうなされていました。

 それから洗脳し続けること二時間。それは突然起きました。



「「大根相愛ッ!!!」」



 柚葉ちゃんと多久郎さんは目を覚ますと同時にその言葉を発しました。

 ……混ざってしまいましたね。なんですか大根相愛って。まだダメのようですね。仕方ありません。もう一度やるしかないようです。

 私は手に持ったフライパンを持ち上げました。



「あ、あれ……?」



 フライパンを胸の辺りまで持ち上げた瞬間に何故か腕に力が入らなくなり、フライパンが手から滑り落ちました。

 そして、フライパンが地面に落ちて大きな音が響きました。

 その音に反応して柚葉ちゃんと多久郎さんが私の方を向きました。


 ……これはマズいかもしれませんね。



「心雪さんや。どうしたのじゃ? そんな青い顔をして。具合でも悪いのかの? ほれ、友人として見てやるから()()()()()()



 柚葉ちゃんの言葉にただならぬ悪寒を感じた私は身体を震わせて一歩後ずさりました。

 すると後ろに物があったのか、壁に当たった感覚がありました。私は後ろをチラ見するとそこには多久郎さんのお姿がありました。


 私は湊二郎様の方を見て助けを求めますが、湊二郎様は口笛を吹いて知らん振りをしていました。



「湊二郎さまッ!?」

「心雪、ちょっとこっち来いや」

「は、はい……」



 私はどこぞのヤンキーに呼び出しを喰らった哀れな生徒みたいに柚葉ちゃんの後ろをついていきました。



「いやあああぁぁぁああぁぁあああっ!!!」



 湊二郎様からは見えない場所から私の悲鳴が響きました。

 それから1時間後、目の光を失った私を見て湊二郎様がゆっくりと私の頭を撫でました。



「……帰るか」



 湊二郎様は私を背負って、ゆっくりと家へと向けて歩き始めました。



「こ、今晩は(かつお)にしようぜ」



 私は小さく頷きました。湊二郎様は家に帰ると私を膝の上に乗せて背中を撫で続けました。



 翌朝━━━━━━



 私! 完全復活しましたッ!!!

 まさか柚葉ちゃんにあそこまでやられるとは思いませんでしたよ。柚葉ちゃんは今度から怒らせないようにしましょう。



「湊二郎さまっ、いただきましょうか」

「ああ、そうだな。いただきます!」



 湊二郎様が食べ始めたのを確認して私も朝食を食べようとお箸を持つと何故かそのお箸が手をすり抜けて床に落ちてしまいました。



「……えっ?」



 突如として全身に力が入らなくなり、横に倒れました。

 すると湊二郎様はお箸を置き、急いで私に駆け寄りました。



「心雪っ!?」



 どうして……ですか……? うまく起き上がれません。

 私が困惑していると湊二郎様はタメ息をついてタンスの中から1枚の書類を見せてきました。



「心雪、健康診断の封筒に入ってたヤツだ。お前コレ見てなかっただろ?」



 湊二郎様はその書類を私に見せました。私はその書類をゆっくりと目を通しました。

 そこには、こう書いてありました━━━━━━



『最重要書類  個体NO.0502 心雪


 健康診断にて猫耳筋無力衰弱症が発症していることが確認されました。対象の病は現在の医学では対処することができません。短い期間ではありますが、残りの人生を謳歌することをおすすめします』



 その文を読み終えると私を目を見開いて湊二郎様の方を見ました。

 そして、震えながら、小さな声で、こう呟きました。



「ウソ、ですよね……?」



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