第二十二話 かまってほしいのです。
健康診断から1ヶ月後ぐらいの頃、湊二郎様の学校が夏休みに入りました。
私は今日も元気に使用人をしていますッ!
「きゅうぅ……」
「心雪ッ!? しっかりしろっ!?」
湊二郎様に布団の上まで運ばれると、湊二郎様は額を私の額にくっつけてきました。
唐突過ぎるあまりに顔が真っ赤に染まりました。
「そ、湊二郎さまっ! 近いですッ!」
「ああ、ごめん」
私は湊二郎様を突き放して、そのまま布団で横になりました。
なんか凄くダルいです……
「ただの風邪だな。ちょっと待ってろ」
すると湊二郎様は冷蔵庫から氷を取り出し、袋に入れ、私の額に乗せました。
そういえば今日は買い出しの日でした。買って来ないと食材がありません。困りましたね……
そんな時でした。あの女がやって来たのは。
「湊二郎くん、遊びに来たよ! ……どうしたの?」
どうしたの? ではありません。他人の家に勝手に入って来ないでください。そもそもここは私と湊二郎様の愛の巣であって、あなたのような巨乳が入るような場所ではありません。
「心雪、俺ちょっと買い物行ってくるわ。何か買って来るものないか?」
「……じゃがいもとお米だけお願いします。取り敢えずそれだけあれば2日は行けます。お財布がそこの棚にあるので持って行ってください」
私は湊二郎様が夏海さんと二人っきりにさせようという心理に気づき、冷たい視線を送りながら言いました。
すると湊二郎様はそそくさと居間を出ていき、夏海さんに私を任せるように言って家を出ていきました。
「何か食べたいのある? 掃除とかする?」
夏海さんは私に色々と聞いてきますが、私は首を横に振りました。
私をうまく落とそうなんてしても無駄ですよっ! 私はどんな状況でも絶対に屈したりしませんからッ!!!
小一時間が経った頃━━━━━
「はい、あーん」
「あーん」
なんですかこのヒト!? 掃除に洗濯、洗い物までしてくれるなんて凄く優しい良い人じゃありませんかっ!? 巨乳だからって拒否していてごめんなさいッ!! 私が間違ってました!!!
「夏海さん、明日もお願いしてもよろしいですか?」
「ええっ、もちろん! それなら泊まっ━━━」
「お泊まりは禁止です。あと湊二郎さまは渡しませんよ」
私は夏海さんが何か余計なことを言う前に口を挟んで先手を打ちました。
すると夏海さんはしょんぼりとした顔をしていました。
「つれないなぁ。じゃあ湊二郎くんとどこまで行ったのか教えてくれる?」
夏海さんがそう言ったので、私はここで現実というのを突きつけてやろうと考えました。
けれど、私はその時のことを思い出してしまい、顔を真っ赤に染めながら小さな声で呟きました。
「キスまでしました……」
「そう。私はやるところまでやったわよ?」
「やるところッ!?」
自慢気に話した夏海さんに対して、私は驚きの声を上げました。
や、やるところってどこまでですかッ!? ま、まさか湊二郎さまは揉んだのですかッ!? あのデカい胸を揉んだのですかッ!? 湊二郎さまは変態さんだったのですかッ!?
「(う、ウソでしょっ!? き、キスまでしていたの……っ!?)」
私はそんな夏海さんの思考に気付くこともなく、ただ混乱しているだけでした。
しばらく経って夏海さんと目を合わせるとお互いに乾いた笑いをしました。
「ただいまー」
湊二郎様がお帰りになられたようです。両手には多くの食材がありました。
「お料理手伝おうか?」
「ああ、助かる」
その瞬間、私の脳内で夏海さんと湊二郎様が共に料理していい感じの雰囲気になりながら、お二人の手が触れあって「あっ……」となる所まで勝手に想像してしまいました。
私はソレを止めるべく、起き上がり、湊二郎様に抱きつきました。
「湊二郎さま……」
「すぐ作ってくるから、ゆっくり休んでてくれ」
残念ながら私の願いは届かず、私は湊二郎様に寝かしつけられました。
そして、湊二郎様は夏海さんと共に夕食を作り始めました。台所から二人の会話が聞こえてきます。
「何なのでしょうか。この気持ちは……」
私は布団を両手で引っ張り、布団を口元まで持ってきて、小さく呟きました。
凄くモヤモヤするというか、胸が苦しいといいますか……
そんなことを考えていると、私の瞳からは一滴の涙が零れました。
「……あれ? おかしいです。止まりません……」
涙を拭っても拭っても、その涙が止まりませんでした。
私は布団の中に隠れて手拭いを目元に当てて、涙を収めようとしました。
「心雪、夕食できたぞ。……どうした?」
湊二郎様が布団の中に隠れている私を見て訊ねてきました。
すると何故か涙が止まり、私は泣き止みました。
そして、無意識のうちに湊二郎様に抱きついていました。
「あの……心雪さん? どうしました?」
「もう少しこのままでもよろしいですか?」
私は湊二郎様に抱きつきながら訊ねると、湊二郎様は私の頭をゆっくりと撫でてくれました。
そうです。この感触です。私が求めていたのはこの温かい感触だったのです……
疲れていたのか、湊二郎様に撫でられ続けた私は夕食も食べずにそのまま眠ってしまったのでした。




