第二十話 湊二郎様をお護りするのですよッ!
夏海さんが姉様たちに何かしてる間、私は湊二郎様を布団まで転がして寝かせました。
そして、濡れたタオルを額に乗せて安静にさせました。
ですが、このままでは湊二郎様が目を覚ました時にあの女が視線に入ってしまいます。あの女にだけは湊二郎様を渡したくありません。というか誰にも渡したくありません。
……仕方ありませんね。ここはアレで行きましょう。
私は湊二郎様の布団に入って、寝ている湊二郎の上に密着しました。
こうすれば湊二郎様は重いと感じて私の方を見るはずです。
それに湊二郎様の胸は温かいです。とても落ち着きます……
「心雪、何してる?」
「おはようございます。湊二郎さまっ」
私と湊二郎様は互いに見つめ合っていました。すると襖が開き、夏海さんという巨乳女が入ってきました。
「なにしてんのッ!?」
「あっ……湊二郎さまっ、ダメです。バレちゃいますよ……」
「本当になにしてんのッ!?」
「何もしてねーよッ!」
湊二郎様に頭を強く叩かれ、私は布団の中で頭を抱えて丸まりました。
そ、湊二郎様の一撃が……結構重いです……。
「で、では私は夕食を作りますね……姉様、任せましたよ」
「任せて」
私は姉様という監視者を湊二郎様につけて夕食を作り始めました。と言っても、今日は昨日の残り物……すき焼きですね。すき焼きの翌日は決まって『すき焼きうどん』です。昨日残ったすき焼きの中に『うどん』を投下して作ります。
うどんがあるのでご飯を作る必要もありません。なので、湊二郎様が大好きなデザートを作るぐらいです。
今日は時間もたっぷりあるので久しぶりにプリンを作りましょう。
私はプリンを作り、蒸し器で温めてから冷蔵庫に入れるとすき焼きのお鍋を居間に運びました。
「もしよかったら夏海さんも食べて行くか?」
「「はあ!? お前正気かッ!?」」
「湊二郎さまっ! 目を覚ましてくださいっ!」
姉様と俊太郎様と共に湊二郎様を押し倒して聞きました。
夏海さんからの視線が少し冷たいような気もしましたが、別に巨乳からの視線なんて気にしません。
「姉様たちからの仕送りがあるとはいえ、湊二郎様の家系は貧乏なんですよッ!? 見ず知らずの人にお肉を差し出す余裕なんてありませんよッ!?」
「じゃあ心雪がなんとかしてくれ」
湊二郎様のその一言で私は固まりました。
……え? それってつまり……アレですよね……?
私は意識すればするほど、顔が赤く染まっていきました。
「湊二郎さまっ、失礼しますね……?」
「え?」
私は湊二郎様の口唇に自分の口唇を重ねようとします━━━━が、そうは問屋が卸さないらしく、横からの邪魔者が入ってきました。
「ちょっと何しようとしてんの!?」
「むぅ……さすがキョニュウ・ナツミさん。一筋縄ではいきませんね……」
「変なあだ名つけないでッ!?」
夏海さんは私を抱え上げ、私を罵倒しながら湊二郎様から遠ざけました。
というか別に変なことはしてませんよ。湊二郎様が私を所望しただけですから……
「なんでモジモジしてるのっ!?」
「湊二郎様が私と結婚したいと申されたので……私だって1人の乙女です。こうなってしまうのは当然です……」
私がモジモジしながら言いますと、湊二郎様は首を傾げていました。
湊二郎様……自分の言ったことに気づいてください……
「湊二郎様、今のは告白と一緒です。私になんとかして欲しいというのは私にお金を出せという意味になりまして、つまり結婚して欲しいということに……」
「湊二郎くん、この子頭おかしいわよ」
「ああ、知ってる」
何故か罵倒されました。別に変なことは言ってないような気もするのですが……もしかして私の方が変な勘違いをしてましたかッ!?
私は顔を赤く染め、両手で顔を覆いました。すると姉様が私の頭を撫でてくれました。
「……夕食にしましょう」
結局、夏海さんを追い返すこともできず、湊二郎様や姉様、俊太郎様と共に夕食を食べました。
「……この席順はおかしくない?」
「「「気のせいです」」」
夏海さんの意見を真っ向から否定する私と姉様と俊太郎様。湊二郎様を巨乳からお護りするのですよっ!
夏海さんは湊二郎様から1番遠い場所に座らせています。ちなみに私は当然のごとく湊二郎様の真横で食べていました。
「……湊二郎くん、何か食べる?」
「じゃあお肉とえのきを貰おうかな?」
湊二郎様が私を差し置いて夏海さんにお皿を渡そうとしました。
当然私はコレを許す訳にはまいりません。湊二郎様のお世話は私の仕事です。仕事を邪魔されるわけにはいきませんっ!
「夏海さん、それは私の仕事です」
私が夏海さんを睨むと夏海さんの顔は真っ青になり、大人しく席に戻りました。
私はにっこりとした笑顔で湊二郎様の方に身体を向き直して湊二郎様を見つめました。
「湊二郎さまっ、お皿を」
「あっ、ああ。心雪、ありがとな……」
こうして私と夏海さんは一進一退の攻防を繰り広げつつも、夕食の時が過ぎていったのでした。




