第一話 心雪と申しますっ!
皆さんこんにちは。私は湊二郎様のお世話を仰せつかる心雪と申しますっ!
私が湊二郎様のお世話をし始めて早くも15年経ちました。
ですが、湊二郎様はいくつになってもお寝坊さんなんです。仕方ない人だと思いませんか?
どうしてこんな風に育ってしまったのでしょうか……?
「わわっ! お味噌汁が!!」
私は慌ててガスを消し、お鍋の蓋を開けてみるとお味噌汁は見事に焦げていました。
「やってしまいました……で、でも湊二郎様が起きて来ないのが悪いです! と、とりあえず起こしに行きますか……」
私は台所を離れて階段を上り、湊二郎様の部屋へと向かいました。
そして、湊二郎様の部屋の前でノックします。
「湊二郎様、朝ですよ。……入りますよ?」
私が湊二郎様の部屋の扉を開けると湊二郎様は布団の上で寝てました。
私はそっとため息を吐いて寝ている湊二郎様に近づきました。
……かわいい。━━━━はっ!? ち、違いますっ! 今は湊二郎様を起こしに来たんですよっ!
「湊二郎様、朝ですよ。起きてください」
私は寝ている湊二郎様を揺さぶって起こそうとしますが、湊二郎様は起きません。
……あれ? もしかして起きて━━━━━━
「きゃっ!?」
湊二郎様は私の背中に手を回してそのまま布団の中に入れてきました。
ちょ、ちょっと近いですッ! ううっ~!
「もふもふ~」
「ひゃあっ!? そ、そうじろうさまぁ……みみはやめてと━━━━ふにゃあっ!?」
思わず私は耐えきれず、湊二郎様を殴ってしまいました。
「ヘブっ!? な、ナイスパンチ……」
「湊二郎さま!? ごめんなさい! つい!」
「いや、寝惚けてたとはいえ俺が悪かったからいいさ。それより朝食だろ? 着替えてから行くから先に行っててくれ」
「は、はい……」
私は湊二郎様の部屋を出て台所へと戻ります。
なぜ私が湊二郎様を殴ってしまったのか。それは私の耳にあります。
実は私の耳は猫さんと同じ耳なんです。私は耳を長い時間触られると気持ちよくて力が抜けてしまいます。なので、なるべく触られないようにしてるのです。
それなのに湊二郎様ったら私の耳をあんなに堂々と触れてくるなんて……
「全く、湊二郎様をあんな風に育てたのは誰ですかッ!?」
「心雪だろ」
突如として後ろから湊二郎様の声が聞こえて思わず肩を震わせました。
いつもはもっと着替えるのに時間が掛かるのでまだ大丈夫だと思ってたのですが……
「それは大変申し訳ありませんでしたね!」
「反省が足りない。デザートをつけろ」
湊二郎様はデザートが大の好物で毎日あの手この手を使って私のデザートを盗ろうとします。
別に申してくれれば、私もそのまま差し上げるのですが……
「わかりました。私のデザートを差し上げます」
私はため息を吐いて湊二郎様にデザートを渡すと湊二郎様は上機嫌で居間まで向かいました。
本当にどうしようもない人ですね。さて、朝食を運ばないと冷めてしまいますね。
「湊二郎さまっ、朝食ですよ」
「……味噌汁」
ピクリと肩が震えました。すると湊二郎様は深くため息を吐きました。
「味噌汁だけは本当に成長しないな」
「すいません……」
すると湊二郎様は焦げたお味噌汁を手にとってスゴい勢いで飲み干してしまいました。
「湊二郎さまッ!?」
「うん、旨い。これはまさにお袋の味ってヤツだな」
また湊二郎様はそんなことを言って……
「……女ったらし」
「ん? 今なんか言った?」
「いえ、なにも。では朝食にするとしましょう」
私は湊二郎様とテーブルを挟んで向かい合うような形で座りました。
「「いただきます」」
湊二郎様は私に合わせてそう言いますが、既に食事を終わらせていました。
「相変わらずお食事は早いですね……」
「まあ、それが俺の取り柄だからな。じゃあ学校行くからお留守番、頼んだぞ」
「はいっ!」
湊二郎様は私の頭を撫でると学校へと向かわれました。
これがまた気持ちいいのです。湊二郎様は私のよく感じる部分を的確に撫でてくるので思わず声を上げてしまいそうになります。
「ごちそうさまでした」
私は朝食を食べ終え、片付けに入ります。
次に洗面所で衣類の手洗いを済ませ、掃除に入ります。
昔は洗濯機や掃除機と呼ばれるボタン1つでなんでもできる魔法の道具があったらしいですが、現代では失われた技術なので、全て自分の手でやるしかないのです。
「……あれ? 湊二郎様のお弁当?」
玄関にある棚の上には湊二郎様のお弁当箱が置いてありました。
忘れて行ってしまったのでしょうか? 仕方ありません。幸いまだお昼前なので届けに行くとしましょう。
私は湊二郎様から戴いたお気に入りの帽子を被り、湊二郎様の通う学校へと向かいました。




