File08 記者からの報告 記事:篠原余白
本日3回更新2回目です
おれが病院から逃げ帰って、三日後のことである。
この三日間、おれは一歩も外に出なかった。
食料や水は配達を頼み、それすら玄関に置いてもらう。
他人に会う気にはならなかったのだ。
そんなおれのもとに、記者からのメールが届いた。
事の発端になった男性の遺体について、新しい情報が出たという。
正確には記者が見つけたのだ、当時の報道を。
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三年前、S県内で男性が死亡する交通事故が発生していた。
事故は深夜、S県内の一般道路で起きた。
警察の発表によると、男性が単独で車道に出たところを、走行中の車両にはねられたという。
男性はその場で死亡が確認された。
年齢は三十代後半から四十代前半とみられ、身長や体格はいずれも中肉中背。身元については、当時、所持品などから調査が進められていた。
現場は交通量の少ない道路で、事故当時、周辺に目立った目撃者はいなかったとされる。
警察は、男性が何らかの理由で道路に立ち入った可能性があるとして、詳しい状況を調べていた。
これらの事故の状況や被害者の特徴は、今回発見された遺体と一致している。
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奇妙なのは、死亡が確認されているにもかかわらず、今回の事件で遺体として再び見つかった点だ。
もちろん、おれも調べてみたが警察から公式にはそんな説明はされていない。
警察は身元確認中を繰り返すだけだ。
相変わらず担当者にも電話は繋がらない。
返ってくるのは、鋭意捜査中であるという決まり文句だけだ。
翌日、記者から再び連絡があった。
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S県内の一般道で起きた事故の被害者は、佐々木タクマ氏と判明。
警察にも裏をとったから間違いない。
佐々木タクマ氏。
先日、お送りしたビデオで篠原余白さんが語っていた人物と同じ名前である。
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記者は最後にこう綴っていた。
「……偶然にしては、できすぎてる」
おれはその言葉を否定できなかった。
遺体として見つかった男性は、篠原余白の幼なじみだった?
としくんとなにか関係がある?
今回の事件の三年前に亡くなっていた佐々木タクマ。
なぜ――彼女の部屋で見つかったのか。
しかも、腐乱した状態ではなく、死んだ当時の遺体だったのだろう。
考えても答えはわからない。
おれにはわからないことが多すぎる。
さらに数日が過ぎた。
あまり時間の感覚がわからなくなっている。
今が夕方か、それとも朝なのか。
部屋の電気を点けず、ただただ寝ているのだから。
起きていれば不安にさいなまれる。
なら、寝ていればいいという結論であった。
ふと目を覚まして、スマホをいじる。
ひょっとして続報が出ているかもしれない、という思いがあったからだ。
篠原余白という女性のアパートで発見された男性の遺体。
その遺体は三年前に死亡した佐々木タクマのものと酷似しているという。
恐らく記者から警察には連絡がいっているはずだ。
あまりにもおかしなことが起きている。
いつものローカル報道を検索すると記事が更新されていた。
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同アパートに居住していたとされる男性、篠原余白さん(38)の所在は、現在も分かっていない。
篠原さんとは数日前から連絡が取れておらず、勤務先や関係者が安否を案じているという。
警察は、事情を知っている可能性もあるとして行方を捜しているが、これまでに有力な手がかりは得られていない。
関係者は「何か心当たりのある人は、警察まで情報を寄せてほしい」と話している。
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その記事は、おれとやりとりをしていた記者が書いたものだった。
最初、おれは見間違えたのかと思ったのだ。
記事には女性ではなく、男性とあったのだから。
――記事に掲載されている男性の写真。
それはおれだった。
正確には、おれによく似た誰か、だと思う。
髪型が違う。
服装も違う。
だが、目元だけは鏡で見る自分と同じだった。
掲載日時は、今日。
おれは、まだここにいる。
だが、記事の中でおれはいないことになっていた。
お気に召しましたら応援よろしくお願いいたします。




