File07 侵食の予後 記事:篠原余白
本日3回更新1回目です
おれは思いきって病院を訪れていた。
自分で自分のことを信用できなくなったからだ。
精神的な疾患はない。
今なら自信を持って、そう断言できないのだ。
なにかがおかしい。
曖昧で模糊とした不安が目の前に横たわっているのだから。
「篠原余白さん」
病院の受付嬢がおれの顔を見ている。
どこかおかしいのだろうか。
「同じお名前の方が既に登録されているのですが」
「……はあ?」
これまでに同姓同名の人物を二人知っている。
珍しい名前ではあるが、前例があるだけに驚きは少なかった。
「生年月日も同じ……ただ、こちらは女性ですね」
「え?」
「あ……失礼しました。少々お待ちください。手続きをしてきますね。その間にこちらの問診票に記入をお願いいたします」
そそくさと居なくなる受付嬢の背を見て、おれは不安がさらに大きくなるのを感じた。
まるで日々大きくなっていく黒猫が、ついに虎かなにか別の生き物になったみたいな。
こいつはおれの知っている猫じゃない。
そんな気持ちを抱いてしまったのだ。
だから、おれは逃げた。
病院の受付から。
そんなおれの背を誰かが見ている。
「篠原余白」
帰りながら、声にだしてみた。
「おれは篠原余白」
どこか借り物のように感じてしまうおれの名前。
そのことに苦笑いをうかべることしかできなかった。
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