File04 深まる疑惑 記事:篠原余白
本日3回更新の1回目です
記者から、連絡が入ったのは三日後のことだった。
件の事件とは直接関係ないが、篠原余白という名前についてひとつ引っかかるものがあったという。
それは報道記事でも、警察資料でもなかった。
――テレビ番組だ。
今から二十年ほど前、深夜帯で放送されていた心霊・オカルト番組である。
当時、若者を中心に一定の人気があったという。
視聴者から寄せられた怪異体験や相談を紹介し、霊能力者や自称研究家がコメントをする、というよくある形式の番組だ。
その中に相談者、篠原余白という名があったらしい。
記者もまた番組の視聴者で、珍しい名前だなと思っていたとのことだ。
すっかり忘れていたが、おれのメールをきっかけにふと思いだしたそうである。
記者は局の倉庫に残されていた古い放送記録と、番組台本の断片を掘り起こしてくれた。
それで時間がかかったらしい。
相談内容を以下にまとめてみる。
・自宅周辺で誰かの気配を感じる
・深夜、ベランダ付近から物音がする
・ポストに身に覚えのない手紙が入っている
・外出先で同じ人物に何度も見られている気がする
今読めば、それが何を意味しているのかは、あまりにも明白だ。
いわゆるストーカー被害である。
だが、番組内での扱いは違っていた。
霊能力者は低級の霊による執着だろう、と。
また、相談者の不安が霊を呼び寄せていると断じていたらしい。
電話越しに篠原余白と名乗る若い女性は、困ったように笑っていたそうだ。
霊能者から対策として提示されたのは、以下の三つである。
・塩を盛ること
・窓を開けて換気をすること
・霊を刺激しないよう、夜道を避けること
これが正しいのかどうかはわからない。
だが――どれも、現実の加害者には、何の効果もないものばかりだった。
強いて言えば、夜道を避けることが該当しそうだ。
しかし、大学生という身分で夜道を歩くなというのも酷な話だろう。
番組は悪霊の仕業という結論で締められ、笑い声と軽いジングルと共に終わったそうだ。
その後、相談者がどうなったのかについては番組内でも、資料上でも触れられていない。
だが――おれの見た報道が白昼夢ではないと言うのなら、彼女はストーカー被害にあって殺されてしまった可能性がある。
記者は、メールの最後にこう書いていた。
「正直に言って、これは事件として扱われていません。ただの“番組の一コマ”です。ですが……名前だけが、やはり気になります」
おれは想像していた。
ストーカー被害に怯えながらも、自分の体験をうまく説明できず、悪霊という言葉を与えられて、それに縋るしかなかった人。
もし、本当にストーカー被害だったのだとしたら。
彼女は助けを求めていたのに、“別の物語”に回収されてしまったのだ。
警察に行けよ、という身も蓋もない話をしても仕方ない。
心霊番組といういかにも怪しい番組に相談をしてしまう、その心理はわからなくもないのだ。
誰に頼っていいのか、本当にわからなかったのだろう。
そして――その相談者の名前は、やはり、篠原余白だった。
おれは、気づいてしまった。
この名前は、殺された被害者として現れる前に、すでに語られる存在になっていたのだということに。
事実ではない。
記録でもない。
番組という曖昧な光の中で。
――だから、残らなかったのだ。
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