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【7/17コミック②】薬売りの聖女 ~冤罪で追放された薬師は、辺境の地で幸せを掴む~【ノベル2巻発売中】  作者: 榛名丼
第二部

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第68話.ポーション鑑定



 組合長ロビンの登場に、苦虫を噛み潰したような顔をしたのはウルである。


 鑑定魔法を使える人間は限られている。薬やポーションなど、人によって調合されたものを鑑定できるのは特に稀少だ。ロビンはその能力を生かして、女だてらに――しかも異国の血が半分流れる身でありながら、冒険者組合長にまで成り上がった人物だ。


 ウルはウェスで開店準備を済ませたあと、ポーションをごっそりと持って冒険者組合を訪問した。所属する薬師全員に、魔力を使い切ってもいいから、一日かけて最高の一本を作れと命じたのだ。店に並べるためでも、組合で売るためでもない。ロビンに鑑定を行わせるためだった。


 たとえ販売価格は上げられないにしても、出来の良いポーションを売る薬屋、という評判に一躍買うだろうと、見越してのことだったが……ウルの目論みは外れた。あのときのことを思い出すと、今でもふつふつと怒りを覚える。

 ウルはアウルの背中から進み出ると、ロビンをぎろりと睨みつけたが、ロビンは白々しくも優雅な笑みを返してくる。


「お久しぶりですね、ウルさん。私はアルミン様からの依頼でここに来ました。依頼内容は、ウルさんとクナさん、それぞれのポーションを鑑定すること」


 ウルは苛立ちを隠せない。ウルが噂を嗅ぎつけて領主館に駆けつけてくると、アルミンは読んでいたのだ。


「はぁ。よっぽどアルミン様は、そちらの流れの薬師が気に入っているんですね」


 嫌みったらしく言ってやったつもりのウルだが、肝心のクナはじぃっとロビンを見つめている。橙色の瞳が好奇心で輝いている。


「鑑定というのは、どういった基準でやるんですか?」

「組合では、持ち込まれた素材を五段階評価で判断するわ。優れたほうから、優、 良、可、不可、劣の五つね。私の母の出身国では、これを数字で表したりもする。五が優、一が劣という感じに」

「へぇ……」


(分かりやすい)


 五本指を折りながら、ロビンが説明する。クナはほうほうと頷く。

 マデリは鑑定魔法が使えた。詳しくは何も教えてくれなかったけれど、彼女と同じ世界を、クナも見てみたいと何度か思ったものだった。

 しかしそれはできなかったから、マデリが良いと言った薬草の状態をひたすら観察した。においを嗅いで、たとえばこの薬草は枯れているように見えても、最も薬効が発揮されるときであるとか、虫に食われたような跡があるのは、薬草特有の特徴であることとか、そういうことをひとつずつ読み取り、学んでいったものだった。


(私のポーションは、どんなものだろうか)


 マデリはクナのポーションを鑑定したとき、売り物になるとはっきり言ってくれた。あの言葉を支えに、クナは調合に励んできた。挫けそうになっても、マデリの言葉を信じてきた。

 ロビンも、同じようにクナのポーションに、価値を見いだしてくれるだろうか。


「やってみたほうが早いわね。ウルさん、あなたはそのポーションを鑑定するの?」

「……ええ。アウルが作った初級ポーションです」


 手にしたままの瓶を、ウルが溜め息交じりにロビンに渡す。ロビンはその場に居る全員が見守る中、瓶にじっと目を凝らしている。

 灰紫色の目の奥が、水色に光り出す。鑑定魔法が発動している。クナたちは、ロビンの邪魔にならないように黙っている。


 ほんの数秒で鑑定は終わる。ロビンが目をしばたたかせると、光は急激におさまっていった。瓶を軽く揺らしてから、すらすらと言う。


「この初級ポーションの品質は可です」

「……またですか」


 アウルが眉を寄せるのと、ウルが顔をしかめるのはほとんど同時だった。


「良に近い可ね。以前よりかなり品質が良くなっています。じゅうぶん誇るべき質ですわ」


 五段階評価にしていても、実際はもっと細かいところまで分析できるらしい。ロビンはそう言ったが、ウルは腹立たしげに腕組みをしている。鑑定結果に納得がいっていないようだ。しかしアルミンたちの手前、今さらそうとは言い出せないのだろう。


(だけど、そんなのはどうでもいい)


 クナはちらりとアルミンを見る。頷きが返ってきたので、荷車に積み込む前の木箱から、ポーション瓶を取り出す。

 青いポーション液を目にしたロビンの目の色が変わる。彼女は商売人の顔をしていた。


「中級ポーション。それがクナさんのポーションね?」

「はい。お願いします」


 クナはロビンに瓶を渡す。ロビンが軽く頷き、再び魔法を発動させる。

 ロビンの目の奥がにわかに光る。水色の光がちりちりと燃えるさまは美しい。燐光のようだ、とクナは思う。暗いところだと動物の骨が、そんな風に光ることがある。


 アウルのポーションを鑑定するよりもずっと長い間、その光が瞬いていた。

 だがやがて、それも収まる。ロビンはまた明朗に、ポーションの評価を告げるのだと思われた。


 しかし、次第に何かがおかしいと、誰もが気がつき始める。

 ロビンはどこか戸惑ったように、形の良い眉を歪め、青い液の揺れる瓶を見つめていた。


「組合長?」


 黙っていられなかったのか、ナディが声をかける。はっと顔を上げたロビンだが、唇を噛んで、言いにくそうに口を開く。 



「その、これは…………、」



 ロビンは、確かに言い淀んでいた。

 その様子に、クナは思わず顔を強張らせる。ウルが、勝ち誇ったように口角を上げた。




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― 新着の感想 ―
劣が不可より下って何故? 劣っているというのは合格ラインより下ってことだとして可能は出来る不可能は出来ないやろ?つまり不可は無理、論外的な感じじゃないの?
[一言] 良どころか優までいくんじゃないかな?
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