表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7/17コミック②】薬売りの聖女 ~冤罪で追放された薬師は、辺境の地で幸せを掴む~【ノベル2巻発売中】  作者: 榛名丼
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/79

第64話.気怠い朝



 クナは何か寝言を言いながら目を覚ました。


 窓の外が明るい。朝の鐘が鳴ってから小一時間は経っているようだ。早起きに慣れているクナには、珍しいことである。

 このまま横になっていても寝苦しいだけだ。クナはむくりと身体を起こすと、木目の粗い天井に両手を組んで伸ばす。筋肉を伸ばしているとげっぷが出た。


 なんというか、気が抜けた朝だった。


「……食べすぎたな」


 なんとなくお腹を擦って、クナは寝台から出る。床をとことこと歩き回っていた白い毛玉がこちらを向く。


「ロイ、湯浴みに行くよ」

「キャーン」


 下着や手拭いの準備をしながら、クナはそういえばと昨夜の出来事を思い出した。

 夜も更けた頃、一度だけ目を開けたら、ロイが部屋に居なかったのだ。まじまじと観察すれば、四本の足が泥の色に汚れている。クナは、寝る前にその足を拭いてやったはずだった。


「ロイ。夜、部屋抜け出した?」

「…………」


 ロイは答えない。呑気にはっはっと息を漏らしているだけだ。だが、いつも返事をするように鳴くロイのことだから、意図的に無視されている気もする。

 ロイの頬をみょんと伸ばしてみるが、微笑んだような和やかな顔になっただけだった。クナは早々に追及を諦めた。ロイの存在や不思議な行動など、気になることはいくつかあるが、クナが興味を引かれるのは薬草や薬、次点がうまい食い物のことである。それ以外のことは二の次だ。


 宿の一階で湯浴みをする。ざぶざぶと背中にかけ湯をすると、不快な汗の感触が流れ落ちていく。ロイも湯を浴びるのに慣れて、楽しげに濡れた床にごろごろしている。汚れた毛束から泥や土が溶け出している。


 湯浴みを済ませると小腹が空いてきた。いつも通り、『ココット』で食材を調達してきて食堂で調理しようかと思うが、それも面倒な気がして、クナは屋台で軽食を買ってくることにした。

 

 薄焼きにした白いパン生地に、具を挟んだチャコという料理は、通りかかるたび気になっていたものだ。選ぶ具によるが、値段も二百から四百ニェカと手頃である。量は少なめだが、パン屋より安い買い物で済みそうだ。

 自分の分は、甘いソースと絡めた薄焼きの卵に、乾燥させた小エビや人参を挟んだものにする。ロイの分は、甘辛い蜜で煮詰めた豚肉と、乾燥野菜が入ったものだ。飲み物は、井戸水でもいいだろう。


「驚いたなぁ、昨夜の」

「アルミン様が様子を見に行かせてるそうだが」


 この時間に通りを賑わせる声は、ほとんど商売人や観光客たちのものだ。少なからず貴族か裕福な家の出であろう男女の姿もあるが、数は少ない。人混みに紛れるようにしていても、日傘を差したり、腕を組んでいるところを見れば、一目瞭然だ。

 農民はとっくに畑に働きに出ている。女たちは水場に集まって洗濯をしている。クナも洗い物が溜まってきたので、そろそろ行かないといけない。もう少し貯金に余裕があれば、洗濯女に頼もうと思っている。


 何かの話で、道行く人が盛り上がっているが、いちいち訊きに行くクナではない。代金を払って、さっさと宿屋に引き返した。

 宿の食堂でいつものテーブルにつくと、クナとロイは薄紙に包まれた、まだ温かいチャコを頬張った。

 たっぷり入れられたソースが口の端からあふれそうになる。そうして食べてみて、すぐに後悔した。牛の乳があれば、さらにうまくなる。そんなに食欲はないと思ったが、十分とかからず食べ終わってしまった。


(次は他の種類も食べよう)


「じゃあ、洗濯」

「キャン!」


 こういうとき、ロイの言いたいことがなんとなく分かる。


「……じゃないな。領主の館に行くか」


 ポーションと解毒薬の検品がまだだ。

 片づけをすると、クナは宿を出た。北の区画をまっすぐ進んでいく。


(洗濯もそうだけど、日焼け止めも新しいのを作らないと)


 湯浴みのあと、クナはいつも化粧水と日焼け止めを全身に使っている。一般的に贅沢品とされるものだが、手作りすればそう高くつかない。いずれは店の商品として売り出したいところだ。そのためにはもう少し改良の余地がありそうだ。


 正門扉から覗いてみると、別館の前に人だかりができていた。アルミンとその秘書、それにリュカが居るのが遠目に見える。

 するとリュカ――ではなく隣に立つアルミンがクナに気がついて、満面の笑みと共に叫んできた。


「クナさん、おはよう。あなたを待っていました!」


 熱烈な歓迎だ。到着が遅いせいで、よっぽどやきもきさせていたらしい。

 クナは挨拶を返しながら早足になった。





いつもありがとうございます。

『薬売りの聖女』の書籍化&コミカライズが決定しました。


書籍版は10月10日にカドカワBOOKS様より発売となります。何卒よろしくお願いいたします。

詳細は活動報告にて ⇒ https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/924077/blogkey/3194611/


また、なろうウェブ版については第2部(第71話&閑話1)をもって完結予定です。

理由としまして、書籍の加筆修正をしながらカクヨム版も修正を行ったのですが、その際なろう版の修正をしなかったため、描写の矛盾が生じてしまったからです。1話ずつ確認して貼りつけを行うのも時間的に難しいため、ご了承ください。(こちらについて、規約違反に当たらないことは確認しております)


カクヨム版は現在第3部の89話まで更新しております。↓に念のためリンクを貼っておきます。

今後とも『薬売りの聖女』をよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載です→ 最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!
カクヨム様版⇒『薬売りの聖女』
【コミカライズ】ComicWalkerにて連載中!
薬売りコミカライズ

【コミックス2巻】7/17発売【1巻重版出来】
薬売りの聖女C2

【ノベル】カドカワBOOKS様より1~2巻発売中!
薬売り2カバー
― 新着の感想 ―
[気になる点] 久々の更新があったから最初から読み直したんですが、まさかなろう版が終わるとは… カクヨムでどこら辺から読み出したらいいですかね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ