表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7/17コミック②】薬売りの聖女 ~冤罪で追放された薬師は、辺境の地で幸せを掴む~【ノベル2巻発売中】  作者: 榛名丼
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/79

第47話.毒の影



 ウウ、ウウ……とロイが歯を剥き出しにして唸っている。

 クナが急に動けば、噛みついてくるのではないかと案ぜられるほどの気迫だったが、クナは動じなかった。


 木の根付近に生えた薬草を採取しながら、風にさえ乗らない小さな呟きをそっと落とす。


「大丈夫だよ、ロイ。気づいてるから」


 その言葉に、ロイがぴくっと耳を動かす。

 昨日のこと。『死の森』に入り、門衛から姿が見えなくなったところで、ロイは狼の姿へと戻っていた。くるくるとその場を回って、気がつくと、あの神秘的な銀狼が目の前に立っていたのだ。


 クナはロイを連れて、今日も森の中でいくつもの薬草を採っていた。

 草木をかき分けての作業は順調だったが――そんなクナたちを、先ほどから何者かが観察している。必死に気配を殺そうとしているようだが、そう試みている時点で獣ではない。正体は、人だ。


(距離を取っているのは、ロイが怖いからか)


 ウェスの南門を守る門衛たちは何も言っていなかった。だがウェスの住人が森に入ったなら、クナが森に向かうのに驚愕するだけでなく、彼らが何か口にしていたはず。


(とすると、アコ村の人間ってことになるけど)


 アコ村では『死の森』は立ち入り禁止区画とされている。

 クナのように追放された人物が居るのだろうか。それにしても、そう立て続けにひとつの村から人が追い出されたりするものか?


(……にしても、くさいな)


 気がつかない振りを決め込むクナだけれど、こちらが風下になると、とにかくにおいがきつい。

 なぜだかその何者かは毒にやられているようだ。この独特の何かが腐るようなにおいは、ズク草という毒草の葉の香りだろう。


 初級ポーションの材料として使える薬草は、全部で六種類ある。その中に、ズク草によく似た種があるのだ。

 しかし輪生に生える薬草に対し、ズク草は対生で葉がつく。そもそも葉を嗅げば、すぐにそれだと気がつく。まれに鳥が種を運び、道ばたに生えることがあるが、根を引っこ抜いて焼かずに捨てれば問題はない。クナも一度だけ村の柵の近くに見つけて、いらない布に包んで捨てたことがあった。


 吸いすぎるとクナも毒の影響を受ける。背負いかごの内部に取りつけた小さなポケットから、クナは布をとりあげると、鼻と口を覆うようにして後頭部で端同士を結ぶ。

 ロイはどうしようかと思うと、数日前の雨でぬかるんだ土に鼻先を突っ込み、美しい顔を泥にまみれさせている。ロイなりのにおい対策だろう。


(毒は大丈夫なのか?)


 けしゅっ、と身を震わせてくしゃみをしているロイ。クナはひとまず気にしないことにした。


(ズク草の毒による主な症状は発熱、だるさ、全身の発疹、喉の渇き)


 症状自体は辛く重いもので、ズク草にやられると死を覚悟して涙する患者や、発疹が出た顔の醜さに泣き喚く女も居るのだが、それだけで命を失うような強い毒ではない。

 そう知っているクナは、気がつかない振りを続けることにした。今のクナにとって優先すべきは、視力を失ったイシュガルである。アコ村の人間となるとクナの顔を知っているだろうし、余計な悶着になっては時間が取られてしまう。


 クナはそのあとも森の中を歩き回って、適宜、必要な薬草の採集地を見つけては屈み込んで採取する。

 魔獣の鳴き声がしたり、大きな足跡があれば、その場からは即座に離れる。サフロの木を見つければ石を投げて実を落とす。基本的には、その繰り返しだ。


「よし、これくらいでいいか」


 宿屋で廃棄するものを譲ってもらったざるに、たっぷりの薬草を摘んだクナは満足げに息を漏らした。

 以前、森で拾ったナイフはとっくに駄目になっている。今回は葉を取っただけだが、茎葉や根、硬い樹皮を剥がすときもあるから、鉈か鎌は早めに買っておきたいところだ。風魔法では、余計な部分まで傷めて木を駄目にしてしまうから。


「ロイ、沢に行くよ。……ロイ?」


 立ち上がったクナが、薬草を洗うために呼びかけたときである。


「ロイ? 今、ロイって言ったのか?」


 クナはびくりと身を震わせた。

 少しずつ、記憶の片隅に追いやっていたけれど、その声を聞くと自然と身体が硬く緊張する。


 茂みから出てきた人物を前に、クナは目を見開いていた。



「……兄さん?」



 薄笑いを浮かべてこちらを見ているのは――紛れもなく、兄弟子のドルフだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載です→ 最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!
カクヨム様版⇒『薬売りの聖女』
【コミカライズ】ComicWalkerにて連載中!
薬売りコミカライズ

【コミックス2巻】7/17発売【1巻重版出来】
薬売りの聖女C2

【ノベル】カドカワBOOKS様より1~2巻発売中!
薬売り2カバー
― 新着の感想 ―
アコ村からウェスまで歩いて半月、死の森を通れば数日?普段はかなり遠回りなんだなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ