表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【7/17コミック②】薬売りの聖女 ~冤罪で追放された薬師は、辺境の地で幸せを掴む~【ノベル2巻発売中】  作者: 榛名丼
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/79

第41話.二人で朝ごはん1



 気が早すぎるリュカと共に、クナはパン屋『ココット』へと足を運ぶ。リュカは待っているのも暇だとついてきたのだ。

 朝の湯浴みのあと、いつもクナはこの店にパンを買いに来る。前掛けをした中年女――イネブが、中腰でパンを商品棚に並べながら、こちらを見てにっかりと笑う。


「嬢ちゃん、いらっしゃい」

「おはようございます」


 イネブは、クナの後ろに気がついて目を丸くする。


「おやまぁ、リュカじゃないの。寝ぼすけのくせに、よく起きてるねぇ」

「おばちゃん、やめてくれ。オレが朝弱いのがクナにばれるだろ」


 渋い顔を作るリュカに、イネブがあははと笑う。

 二人は知り合いのようだが、クナは驚かなかった。まるで領主か何かのように、リュカは人々に顔を知られている。必然的に、彼を助けたクナの評判も上々になっている。


 木のトングを、クナはかちりと鳴らす。値踏みするように商品棚の間を歩くクナの後ろを、ロイがうろちょろしながらついてくる。

 干し肉にしていた魔猪肉は、すでに切れてしまった。今日は四角い形に切られた白パンをトレーに載せる。アコ村にはなかったような変わった形のパンが、ウェスではたくさん売られていて、毎日買う商品を変えても制覇するには時間がかかりそうだ。

 それと一緒に、薄切りベーコンと、ころころとした鶏卵も二つ買う。今朝、養鶏農家から仕入れたという新鮮な卵だ。今朝は手間のかからない朝食で済ませるつもりだった。


 クナがカウンターに商品をおくと、そこでイネブが溜め息を吐いた。


「あんた、これくらい払っておやりよ」


 暗にリュカが甲斐性なしだと言いたいらしい。

 二人の関係を、イネブは誤解しているのかもしれない。クナが口を挟む前に、リュカが首を振る。


「クナ、そういうの喜ばないと思うから。オレはオレにできる方法で、クナに恩を返していくよ」


 クナは目を見開く。

 出会って間もないのに、リュカはクナの考え方をよく理解している。

 否、きっと、理解しようと努めている。それはリュカが、クナをひとりの人間として尊重しているからだ。


(そもそも、お金はもうもらったけど)


 料金を支払ってもらった以上、返してもらう恩など残っていないと思うクナである。


「ありゃ。これは余計なことを言っちゃったね」

「でも恩は増えるばかりなんだ。おばちゃんにも今後、意見を聞かせてもらうかも」


 クナは二人のやり取りを聞くとはなしに聞きながら、カウンターに硬貨をおいた。

 二人で宿屋に戻る。思った通り、リュカは亭主とも顔見知りだった。宿泊客ではないが食堂に入りたいと伝えると、仕方ないの一言であっさりと許される。クナにはない人脈というものを、リュカは手足のように使いこなしている。しかも自覚がないからこそ、彼の場合はうまくいくのだと思われた。


 薄暗い宿屋の廊下を歩き、名ばかりの食堂に着くと、クナはさっそく調理場で食事の準備に取り掛かる。

 竈に炎魔法で火を熾す。鍋は調理場で借りられるが、森で拾ったこれを、クナは存外気に入っている。

 炎を弱火に調整していると、肩の後ろからリュカが覗き込んできた。


「それ、良い鍋だな」

「でしょ」


 クナは気をよくした。だが、頷くリュカのほうがやたら誇らしげだ。


「ああ。鍋も嬉しそうにしてる!」


 この男、鍋の感情まで読み取れるのだろうか。

 クナは末恐ろしいものを感じつつ、あたたまった鍋に薄焼きベーコンを敷き詰める。

 ベーコンから勢いよく溶け出た脂のにおいが、一気に調理場に広がる。クナの口の中にだらりと涎が溜まった。

 鶏卵を片手で割り入れ、立て続けに二つ落とす。黄身を抱えた卵が、桃色のベーコンの上に広がる。白身の焦げる音が小気味よい。


 クナはカップにわずかに入れた水を鍋の中にこぼして、立ち上がる湯気ごと落とし蓋をした。じゅわり、という音が耳に入り込んで踊る。拾った鍋に蓋はついていないので、蓋だけは調理場のものを借りている。


 後ろで見ていたリュカが、ごくりと唾を呑む音が聞こえたかと思えば。


「……オレ、もう一度パン屋に行ってくる!」


 何やら強い決意を秘めた目で駆け出したリュカを、クナは無言で見送る。

 しばらくは黙って待つ時間だ。その間に荷物から、クナは食用の野草と果実を取り出した。軽く水洗いをし、清潔な布巾で水気を取る。どちらも生で食べられるので、別の皿に盛りつける。


 盛りつけができたところで鍋の蓋をとりあげると、黄身が桃色に変わりつつある絶妙な瞬間である。

火を消して皿に移し、ぱっぱと塩と刻んだ香草を振りかければ、半熟目玉焼きベーコンのできあがりだ。


「お待たせ!」


 クナが振り返ると、早くも戻ってきたリュカが紙袋の中身をテーブルに出した。

 彼は朝食を抜いていたようだが、クナが調理するところを見て、食欲が湧いたのだろう。思った通りの白パン、薄切りベーコン、鶏卵、の次にリュカが袋から取り出したのは、山羊のチーズだった。


「これ、クナも使ってくれ」


 その一言に、クナは思わず目を輝かせた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載です→ 最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!
カクヨム様版⇒『薬売りの聖女』
【コミカライズ】ComicWalkerにて連載中!
薬売りコミカライズ

【コミックス2巻】7/17発売【1巻重版出来】
薬売りの聖女C2

【ノベル】カドカワBOOKS様より1~2巻発売中!
薬売り2カバー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ