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準備完了

 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】


 俺は鑑定眼スキルをステータス画面にペイントすると、眼の前の人物をじっと見つめた。

 大柄な体で、髪は短く刈っている男性、ガロードさんを見る。

 酒精の強い飲み物をすでに何杯もお変わりしているが、ちょっと頬が赤くなっているだけで酔っ払うまではいっていないようだ。

 よほどアルコールの分解速度が早いらしい。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 種族:ヒューマン

 Lv:41

 スキル:斧術Lv3・盾術Lv3・怪力Lv1・回復力強化Lv1


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 さすがに前回ダンジョンを攻略した経験を持ち、その後も活動を続けている冒険者というだけある。

 かなりのLvの高さだ。

 フィランにいる兵士たちをまとめていた女騎士のオリビアさんよりも強く、リアナにいたラムダ騎士隊長とほぼ同じ強さだ。

 スキルとして所有している盾術と回復力強化は、ガロードさんの立派な体格と合わせることでより効果を発揮できるのだろう。

 そう思ってみると、いつも持っている武器や防具は大きな斧と盾だったことを思い出した。

 大きな盾はタワーシールドと言うやつだろうか。

 体の前に縦にして構えると全身を隠すほどの大きさだ。

 さらに巨大な両刃の付いた柄の長い斧、あれはバトルアックスとかいうやつだ。

 斧の刃は太めになっており、あれならば鉱石でできたモンスターたちを相手にしても不足はないのだろう。

 俺がガロードさんを観察していると、最後の一滴まで飲み干したのか酒のなくなったグラスを机に叩きつけるようにゴンと置いた。


「よっしゃ、それじゃあ一緒にパーティー組んでダンジョン攻略に行くってことでいいんだな。報酬はお前らはダンジョンコアを、後は手に入れた素材を売却して俺の取り分を多くするって感じか」


「そうですね。運び屋を雇ったりするのはガロードさんにまかせてもいいですか?」


「おう、そのへんは任せてくれ。そういや、おまえらはダンジョン入るの初めてだっけか。最初は慣らしで数日入るくらいにしとくか?」


「いや、あんまり時間をかけられないんで、最初から最下層を目指すつもりで行きましょう。運び屋の人数もそのつもりで、食料なんかもそれに合わせて用意しないと行けないですね」


「わかった。地図はどうする。13階層から下は地図がないから、必要になるはずだぞ」


 そういやそうだったか。

 地図を描くようなスキルはないかと調べてみることにした。

 ステータス画面にいろいろと思いつく限りの単語をペイントしてみたところ、使えそうなやつは1つだけだった。

 【地図化マッピング】というスキルだ。

 実はこのスキルはこの世界に来て初めの頃に気がついていたものだったのだが、全然使うことがなかった。

 というのも、あまり正確ではなく適当な縮尺でフリーハンドで書きなぐったような地図が頭のなかに浮かんでくるだけだったのだ。

 今ひとつ使い勝手の悪いスキルの1つという印象しか残っていなかった。

 だが、今回あらためてこの地図化スキルを使ってみると、以前とは様子が違った。

 頭のなかに浮かんでくる地図が、前までよりも遥かに正確なものになっていたのだ。

 前使ったときとの違いで思い当たるのは、【集中】スキルを手に入れたということだろうか。

 集中スキルのお陰で精度が上がったということは、やはりスキルを複数持つことで相乗効果が見込めるのだろう。

 なぜペイントスキルはたった1つしかスキルを書き加えられないのかと思ってしまう。


「おい、どうしたんだ?」


「あ、すみません。地図は俺が描こうと思います。任せて下さい」


 俺がスキルについて考えていたら、その様子を見てガロードさんが心配そうに声をかけてきた。

 慌ててなんでもないように誤魔化す。

 ペイントスキルで他のスキルをステータス画面に書き込んで使えるだけでもありがたいのに、ついつい欲が出てしまった。

 無い物ねだりをしても意味は無いんだ。

 自分のできることをしっかりとこなして、なんとしてもダンジョンを攻略しようと頭を切り替える。

 その後は、ガロードさんが運び屋に依頼を出しに行き、俺は街へと出て食料や回復薬などの準備をすることになった。

 すべての準備を整えて、ダンジョンへと挑むのはその翌々日になったのだった。




 □  □  □  □




「これがダンジョン。なんかこの先は異様に魔力が濃いみたいですね。変な感じというか、違和感があるな」


 石の街リンドを出発して3時間ほど歩いてきたところにダンジョンがあった。

 雪の中の移動だったが、ホットエールを1杯のんで移動すれば薄着でもやってくる事ができる。

 ダンジョン内は常に一定の温度で冬でも寒くないというのを知っていたが、いざそれを目の前にするとその光景に驚かされる。

 ここに来るまでに降り積もっていた雪の上を歩いてきたというのに、急に雪がなくなり地面が見えている場所があるのだ。

 つまり、そこから先がダンジョンの中ということになる。


 しかし、俺の思っている鉱山ダンジョンとはイメージが違った。

 内部が洞窟だと聞いていたので、ダンジョンといえば洞窟のことだとばかり思っていたのだ。

 だが、鉱山の入口である穴の外側もダンジョン化しているらしい。

 正確に言えば鉱脈があったとされる鉱山そのものが全てダンジョン化しているということなのだろう。

 何らかの鉱石をとるために掘った穴が1つだけではなくいくつも開いており、その穴すべてがダンジョンの奥へとつながっているのだという。

 両手の指では数え切れないほどある横穴は、全てダンジョンの最下層へとつながっていると言われている。

 ただ、どこから入ろうとも構わないが、入る場所によっては通る道順が違ってくるのだそうだ。

 ある入口から入れば弱いモンスターが多いが下に降りる通路までの距離が長かったり、逆に強いモンスターがいるが距離は短い、他にも大勢で入りやすい広い通路の洞窟や反対に狭い洞窟などがあったりする。

 一度洞窟へと入ればそこは異界化しているため、別の空間みたいなものでもある。

 隣の穴につながるように洞窟の壁を掘り進んでも、向こう側へと通じることはない。

 端的に言えば、異界化した非常に入り組んだ構造の洞窟がいくつもあるダンジョンというのがここの特徴なのだそうだ。


「なるほど。最下層目指して道を調べるだけでも大変なんですね」


「そういうことだ。大体のやつは稼ぎやすい場所を自分たちで見つけてそこばっかり行くようになるんだよ。おかげで他のルートを発掘しなかったり、情報を出さなかったりするもんだから、ダンジョン攻略も進まないってわけだな。12階層までの地図を作るのにもだいぶ苦労したんだぜ」


「ああ、そういうふうになっちゃいますよね。生活かかってるから無理やり聞き出そうとしたら揉めるでしょうしね」


「ま、ここで愚痴を言ったって始まんねえわな。で、どのルートから進むよ?」


「決まってるでしょ。当然、最短ルートで行きましょう」


 俺がそう言うと、ガロードさんは「そうこなくっちゃな」と言って笑いだした。

 もしここで俺が安全策でも選んでいたら、どうなっていたのやら。

 きっと正解の答えを引き当てたのだろう。

 鉱山にいくつもある穴の中でも特に大きいところへと向かってガロードさんが歩いて行く。

 きっとあの入口が最短ルートになるに違いない。

 初めてのダンジョンが楽しみなのかシリアの尻尾もいつもよりブンブンと横に振られている。

 高さ4mほど、横幅は8mほどの穴へと一歩踏み出す。

 ゾクリと背中に寒気が走った。

 それまでも雪がないという異常な空間ではあったが、その違和感が更に強まった感じだ。

 いよいよダンジョンに来たのだと思うと、俺は緊張しながら最下層を目指して進んでいった。

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