ダンジョン攻略に向けて
「一緒にダンジョンに潜るかどうかは話して決めましょうか。奢りますんで座って話しましょう」
そう言ってガロードさんとともに冒険者ギルド内にある酒場へと移動する。
ガロードさんは抜け目なく一番高いお酒を注文していた。
裏表のなさそうな年上のおっさんという感じなのだが、ダンジョン内では何日も一緒に行動をともにすることになる。
知識や経験だけではなく、人柄も見ておいたほうがいいかもしれない。
「かー、うめえ。やっぱ寒いときはこの酒が一番だな。こののどが焼けるような感じがたまんねえぜ」
そう言いながら飲んでいるのはフィランで買ったアルコールの強いホットエールよりもさらに度数の高い酒だ。
俺から見たら、アルコールそのものを飲んでいるんじゃないかと思ってしまうが、肝臓とか大丈夫なんだろうか。
「とりあえず、自己紹介を。俺はヤマトで精霊のフィーリア、そして女王雪豹のシリアです。このメンバーでダンジョンに行こうと思ってます」
「おう、相変わらず女王雪豹も一緒なんだな。ん? 白い嬢ちゃんはなんか大人っぽくなったのか? まあいい、俺はガロード、26歳だ」
ええ?
ずっと30歳を越えているものだと思っていた。
多分身長は190cmくらいあって、筋肉もそうだが骨格がガッチリしているというか、体に厚みがある。
そして、誰に対しても物怖じしない性格だ。
俺からしたらかなりの人生経験を積んでいる人という印象があったからか、少なくとも20歳代には見えなかった。
日本だったら大卒の社会人3〜4年目くらいの年齢になるんだろうけど、とてもそうは見えない。
そんな感じで驚いていると、ガロードさんはグラスの酒を一気に飲み干して、話を続けてきた。
「何だよ。もっと年取ってるように見えたってか? とにかく、ヤマトたちはダンジョン攻略を目的にしてるってことでいいんだな?」
「そうですね。正確に言えばダンジョンコアの入手が目的です」
「そうか。なら俺と組もうぜ。そっちの嬢ちゃんは人型の高位精霊で、女王雪豹もいるんだ。その辺の冒険者たちを数だけ集めるよりはよっぽど心強いしな」
「ガロードさんはなんでダンジョン攻略を目指しているんですか? あんまりリンドの冒険者たちは攻略しようって人がいないみたいですけど。こっちはダンジョンコアが必要なんで、攻略が成功したあとに報酬で揉めるのは困るんですよね」
「あ〜報酬はしっかり決めとかねえとな。確かにこっちの取り分が無しってのは困るんだが、俺の目的は別にある。俺はダンジョンの主を倒してえんだよ」
「ダンジョンの主ですか? 確か、ダンジョンコアのそばを縄張りにしている一番強いモンスターがいるんですよね」
「そうだ。8年前に俺はダンジョン攻略に成功した。だけど、その時俺の年齢は18歳で、ほかのパーティーメンバーは全員年上のベテランだったんだよ。他の連中はダンジョン攻略の実績がついたが、俺だけは一緒についていっただけだとか言われてな。頭にきてそのパーティーからは抜けてやった。だから、もっかいダンジョンを攻略して俺の力を示したいんだよ」
なるほど。
そういう過去があったのか。
つまりはガロードさんの一番の目的はダンジョンの主と呼ばれるモンスターを倒すことで、ダンジョンコアそのものではないということになるのか。
だけど、それから8年も経っていまだに攻略できていないのか。
そのことも聞いてみることにした。
「ああ、そうだ。攻略は進んでいない。前回の攻略後にダンジョン内の内部構造がガラッと変わっちまってな。全部はじめから攻略し直しだったんだよ。それにダンジョンの主の強さが広まってな。他の冒険者がブルっちまって、一緒に下層に行こうってやつを探すだけでも大変なんだよ」
「ダンジョンの主はそんなに強かったんですか?」
「そりゃあ、ものすげえ強さだったぜ。パーティー内から何人も犠牲が出たからな」
「ちなみに前回のダンジョンの主はどんなモンスターだったんですか?」
「ああ、聞いたことないか? 溶岩竜って名前でな。竜種の中の一種だな。全身が硬い金属でできている上に、口からはドロドロの熱した岩を飛ばしてくるんだよ。その攻撃のせいで、数ばっかりいても役に立たない。少人数でもいいから、いかに強い連中を集められるかが攻略にかかってるんだよ」
「溶岩竜か。確かに話に聞いただけでも強そうですね。でも、今は別のモンスターがダンジョンの主になっているかもしれないんじゃないですか?」
「いや、多分同じだろう。最下層にいたやつは倒したが、下層にはもう何匹が同種がいたんだ。あのダンジョンには溶岩竜より強いモンスターはいない。別の個体の溶岩竜が今もダンジョンの主として居座っているはずだぜ」
これは貴重な情報だな。
ダンジョンに入る前から倒すべき相手のことがわかったのはありがたい。
だけど、竜が相手なのか。
氷霜巨人と竜ならどっちがマシなんだろうか。
他にも気になるのが鉱山が異界化してできたダンジョン内に溶岩竜がいるってことだ。
北の山脈の火山との関連とかはあるのかな?
「フィーリアは溶岩竜って知ってるのか?」
「妾は見たことないのう。ただ、氷霜巨人のようなやつではあるまい。もしそうなら、人間が勝つことなどできんからな」
そう言われるとたしかにそうだ。
もうすでに何度かダンジョンは攻略されているって話だったしな。
目的もあっているし、ガロードさんと組んでダンジョンに挑戦するのはありだと思う。
「えーと、もしこのメンバーで挑むなら何か用意するものってありますかね」
「んー、そうだな。いまのところ、地図は12階層のやつまでが最新版としてあるからな。そっから先に進むには地図をかけるやつが必要だろうな。あとは運び屋も雇わないとダメだな」
「他の人を連れて行くんですか?」
「そうだ。運び屋は絶対にいるぞ。ダンジョン内は洞窟だからな。水場はところどころにあるんだが、食い物がねえんだよ。自分たちで持ってかなきゃならねえが、大量の荷物があると戦うときにジャマだ。だから、戦闘はしないという契約で運び屋を雇うんだ」
「戦闘は参加しないんですか」
「ああ、むしろそのほうがいいんだよ。弱いやつが下手に戦闘に突っ込んできても邪魔にしかならねえし、分け前を要求されることもあるからな」
完全に分業制にして、雇った人は成果に関係なくお給料を払うって感じなんだろうか。
食事も現地調達できないっていうのは思った以上に大変そうだ。
今までは森とか山に行くことが多かったから食べるものに困ったことなかったから、考えもしなかった。
地図の方は俺のペイントスキルで何かいいのがないか調べておいてもいいかもしれない。
そして、肝心のガロードさんの人柄だが、今まで話してきた感じだとダンジョン攻略も本気みたいだし、悪い人でもなさそうに思う。
一緒に行くことにしよう。
こうして俺の初めてのダンジョンへの挑戦が始まった。




