ダンジョンコア
俺はもう一度リンドへと戻ってダンジョンコアについて調べてみることに決めた。
このことを話すとフィーリアもシリアも一緒に来てくれる事になった。
来てくれると言うか、俺が連れて行ってもらう立場なのはこの際置いておこう。
「もしかしたら、ダンジョンの中に入ることになるかもしれない。その場合、フィーリアも一緒に行けるのか?」
「そうじゃな。今のところ火山に変化は見られなかったからの。あまり長い期間でなければ大丈夫じゃとは思う。リンドならばこの時期は雪が積もっておるから、山の様子も分かるじゃろうしな」
本当にすごいな。
雪が降り積もっている範囲ならば自分の庭みたいなもので、そこの様子は手に取るように分かるのだろう。
精霊は自然と同義だというのが少しだけわかった気がする。
そして、シリアの方も結構ご機嫌だった。
シリアは女王雪豹という強いモンスターではあるが、まだ子どもだという。
群れから外れて行動しているのも、自分をより強くして、いずれ大きな群れを作るためだ。
氷霜巨人には俺と同じようにビビってしまっていたが、基本的にはいろんなモンスターたちとの戦闘を積極的にしたがる傾向にある。
まだ行ったことのないダンジョンという場所に興味があるのかもしれない。
こうして俺たちは以前通った道を引き返すようにして、石の街リンドへと向かうことになった。
□ □ □ □
「あら? お久しぶりですね。フィランに行くと行っていたはずですが戻ってきていたんですか?」
俺の目の前にはリンド冒険者ギルドで受付嬢をしているフランさんがいる。
俺たちは片道6日ほどでリンドへと戻ってきていた。
以前よりも時間が短くすんだのは、俺が雪の中での行動に慣れたこともあるのだが、シリアの移動スピードも前より上がっているからかもしれない。
そういえば、初めてあったときからシリアの体は少し大きくなっているように思う。
「はい。フィランには無事についたんですけど、ちょっとダンジョンについて知りたいことがあって。それでリンドまで戻って来たんですよ」
「こんな雪の中ですごいですね。そんな人ほかには絶対にいませんよ」
そう言ってフランさんが笑う。
少しタレ目でおっとりとしているこの人が笑っていると、酒場で飲んでいる人たちの視線が集まるのがわかった。
ここでも受付嬢というのは冒険者たちに人気があるようだ。
「フィーリアやシリアのおかげですね。それで、ちょっと聞きたいんですけど、この近くのダンジョンから何年か前にダンジョンコアを持って帰って来た冒険者がいるって聞いたんですけど」
「ダンジョンコアですか? ええっと、たしかもう8年くらい前になるんじゃないかしら。それ以前にも何度か持ち帰ったという記録も残っていたはずですよ」
「事情があって、ダンジョンコアが必要なんです。手に入らないですかね」
「ダンジョンコアはそう簡単には手に入りませんよ。以前のものは遠くに領地を持つ貴族様が競り落として持ち帰っていますし」
「なら、新しくダンジョンコアを持ち帰らないといけないってことですね。ダンジョンに入ったこともないんですけど、ダンジョン内部ってどうなっているんですか?」
「ダンジョンコアを狙うんですか? ダンジョンに慣れた上級の冒険者でも実力とものすごい運が必要になりますよ」
言外に無理だという雰囲気を出しながらも、フランさんがダンジョンについての説明をしてくれた。
リンドの近くにあるダンジョンは、もともとあった金属を採掘するための鉱山が異界化してできたものだ。
異界化の影響によって内部構造が変化して、さらにモンスターまで出てくるようになったという。
内部構造の変化はダンジョンが出来てから何度も起こっているらしい。
そのため、昔作られたダンジョン内の地図が役に立たないことも珍しくなく、常に最新の情報を必要とする。
だが、どれほど内部構造が変わってもある程度の共通点は残っているそうだ。
それは、ダンジョン内は洞窟のような形で迷路になっていて、階層状になっている。
広い迷路の洞窟の中から下に続く通路を見つけて、どんどんと下に降りていくというのはダンジョンが出現してから一度も変わっていないらしい。
そうして、最下層にまで至ると、そこにダンジョンコアがあるのだという。
基本的に魔石というのは鉱石系モンスターである、ゴーレムやガーゴイルといったものの体内にある魔力を内包した石のことを指す。
だが、ダンジョンコアはダンジョン内に存在する魔力が一点にたまった影響でできるものであるらしく、魔石よりももっと魔力の純度が高く、かつ内包している魔力の量が多いらしい。
ようするに高純度の魔力の塊がダンジョンコアということになる。
そして、このダンジョンコアは持ち帰ることができる。
ダンジョンコアをダンジョン内部から持ち出してしまうと、ダンジョンには影響は出るが、それが原因でダンジョンが一気に崩壊するようなことはないらしい。
例えば、暫くの間はダンジョン内に満ちていた魔力の量が減るだとか、出現するモンスターの数が少なくなる傾向があるらしい。
ただ、もしその状態でさらに新しく出来たばかりのダンジョンコアを持ち出してしまうと、ダンジョンは小さくなってしまう。
例えば階層状のダンジョンならば、5階層だったのが3階層に減ると言った具合だ。
それを繰り返していけば最終的にはダンジョンがなくなってしまう。
これをダンジョンの死滅と呼ぶこともある。
リンドのダンジョンは8年前にダンジョンコアを持ち出された。
その時は16階層が最下層だったそうで、階層が減ったことが確認されている。
そこから計算すると、現在は15〜18階層くらいにまでになっているのではないかと言うのが、冒険者ギルドとしての予想だそうだ。
もっとも、冒険者たちは生活のためにダンジョンに潜る。
別にダンジョンコアを狙わなくともモンスターから魔石を取っていれば生活できるので、ダンジョンコアを狙っている人は少ないのだそうだ。
「そういえば、ボスモンスターとかはいるんですか? 次の階層に行くのを防ぐために強いモンスターが門番みたいなことをしているとかってあったりしますか?」
「門番ではないのだけれど、他の個体よりも強いモンスターが進路を塞いでいるようなことはあるみたいです。ただ、絶対にいるというわけでもないみたいですが」
「それじゃ、ダンジョンコアの前にコアを守るやつとかはいるんですか?」
「ダンジョンの主ですね。それはいると予想されます。ダンジョンコアの周りはダンジョン内でもっとも魔力密度が高いので、そこをダンジョンの中で一番強いモンスターが縄張りにしていることが多いんですよ。ダンジョンコアを持ち帰るなら戦闘は避けられないと思います」
おお、やっぱりそういうのがいるのか。
まるでゲームのようで面白いが、ダンジョンコアが必要な今の状況ではジャマな存在以外の何物でもないな。
隠密スキルを使って、ダンジョンコアだけ持って帰ったり出来ないだろうか。
「おっ、なんか面白そうな話をしているじゃねえか。久しぶりだな、ヤマト。ダンジョンコアを狙ってんのか?」
受付でフランさんとずっと話していると、急に後ろから声をかけられた。
というか、この流れはデジャヴみたいに感じた。
後ろへと振り返ると、そこには以前見たことのあるガタイのいい男性、ガロードさんがそこにいた。
「いいねえ。最近はどいつもこいつも安全策ばっかりで危険を冒そうとしねえんだよ。どうだ、ヤマト。ダンジョンの最下層まで行くなら俺と一緒に行かないか?」
「それがいいですよ、ヤマトさん。こう見えてガロードさんは8年前にダンジョンコアを持ち帰った冒険者の1人なんですよ。きっと色々と教えてくれるはずです」
ガロードさんの急な誘いと、フランさんの一言に驚く。
この人、ダンジョン攻略者だったのか。
いつも酒場で酒を飲んでるイメージがついていたので、そんなすごい人だとは思いもしなかった。
しかし、ダンジョンに入ったこともない俺が最低でも春がくるまでにはダンジョンコアを手に入れるには、経験者に頼ったほうがいいかもしれない。
一度、腰を据えてガロードさんと話してみることにした。




