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代案

 氷霜巨人フロストジャイアントを見て、やつを相手にすることは諦めたが、何か他に火山の噴火を抑える方法を考えなければならない。

 色々と考えた末に出した結論だったはずの巨人討伐が実現不可能というのは、絶望的ですらある。

 だが、フィーリアを犠牲にしたくないという思いは以前よりもさらに増してしまっている。

 もはや、論理的な思考ではなく、感覚的な理由から俺はこの火山噴火問題を解決したいと考えるまでになっていた。


 しかし、そうは言ってもどうしたものか。

 まずは落ち着いて考える必要があるだろう。

 そもそもの話として、俺が氷霜巨人の心臓を手に入れようと考えたのはなぜだったのか。

 それは氷の女神像の素材の1つが氷霜巨人の心臓であり、その素材を用いてつくった氷の女神像は周囲の冷気をため込むという特性があったからだ。

 これは、ようするに自分の力だけでは噴火を止められないからこそ、より大きな力を持つものを利用してなんとかしようと思ったからに他ならない。

 つまりは氷の女神像のように力を貯めるものや、あるいはためたりしなくともものすごい力を内包するものを用意すれば可能性があるということになるのではないだろうか。

 もっとも、現段階ではそんなものがあったとして、それをどうやって使うのかという問題もあるのだが、まあそれは後から考えることにしよう。


 とにかく、今俺に必要なものは「強大な力を内包しており、その力を長期間に渡って使い続けることで噴火を抑えることのできる方法」と言える。

 強大な力とは何かもわかりやすい。

 これは、精霊の中でも特に力のある高位精霊フィーリアと同等以上の力がそれにあたる。

 ただ、氷霜巨人は規格外すぎて相手を出来ない。

 ならば、そこそこ強いやつの素材をたくさん集めて作るマジックアイテムみたいなものならどうだろうか。

 そう考えたとき、ふと思いついた。

 力、すなわちエネルギーの塊みたいなものがこの世界にはあるじゃないかということに。

 そうだ、ダンジョンで手に入る魔石を利用することはできないだろうか。

 一度調べてみる価値はあるかもしれないと俺は考えた。




 □  □  □  □




「ダンジョンの魔石か。その条件に当てはまるほどの魔力を内包する魔石はないだろうな」


 俺のダンジョンの魔石を利用するという発想に対して、オリビアさんがそう答えた。

 北の山脈で氷霜巨人を見てからすぐに引き返してきており、今はフィランの屋敷にいる。

 俺自身が魔石について知っていることは少ない。

 せいぜい、魔石から魔力を取り出して魔船を動かすためのエネルギー源として利用するということや、リンドの近くにはダンジョンと呼ばれる異界化した場所があり、ダンジョン内にいる鉱石モンスターの体内から魔石が取り出せるということくらいだった。

 さらに詳しいことを聞けないだろうかと思い、オリビアさんに意見を求めたのだ。


「魔石というのはダンジョン内にいるモンスターを倒して、そこから剥ぎ取る形で手に入れる。基本的には魔船を動かすのに使ったり、あるいは魔法を使う場合や魔法が込められた道具を作る際の触媒として利用される。ただ、どれも1度限りの使い捨てくらいにしかならない」


「つまり、火山をどうこうするようなレベルの魔力はないってことですか」


「そうなるな」


 オリビアさんがここまで言い切るということはおそらくそれは正しいのだろう。

 だが、俺の【錬金】スキルで大量の魔石を合成したりしたらもっと使える魔石を生み出せたりしないだろうか。

 その場合、どのくらいの数の魔石が必要となるのか検討もつかないが。

 それに必要数が分かっても集めきれない可能性が高いのかもしれない。

 フィランまで帰ってくる間にでたアイデアはこれだけだったので、他にどうすればいいのかわからず思わずため息をついてしまった。


「ああ、そんなに気を落とさないでくれ。ヤマト殿が精霊様のために頑張っているのはわかっているさ」


「頑張っても何も出来なければ意味ないですけどね……」


「そんなことはないだろう。自分のために色々してくれる人がいれば誰だって嬉しいはずさ。案外、精霊様がご自分を犠牲にまでしようとしてくれているのはヤマト殿のおかげかもしれんしな」


「……俺のためですか?」


「そうだ。不思議に思わないか? いくら精霊様の生まれ故郷とは言え、山脈はずっと遠くにまで続いているのだ。1つの山が噴火したところで、精霊様にはそこまで影響はないだろう。それなのに自分を犠牲にしてまで噴火を止めるというのならば、それは守るべきものがいるからだと私は思うがな」


 どうなんだろうな。

 フィーリアは「自分のためにおまえが犠牲になるな」と俺に言ってきたが、だからといって俺のために自分を犠牲にしたのだろうか。

 ここまでの旅で仲良くはなっているとは思うが、そこまで俺が守るべき対象となっているようにも思わない。

 そもそも、俺はそのうちここからいなくなるから守って欲しいとも思ってはいない。

 そんな理由ならばたとえフィランやリンドの街に大きな影響が出たとしても、俺はフィーリアが犠牲にならない方を選んでほしいと言うだろう。

 だが、それでもフィーリアは自分のやりたいことをやるだけだろう。

 まあ、考えても仕方がないか。

 あいつの行動はいつも気まぐれで予想もつかないものばかりなんだし。


「そうだ、魔石ではないが思い出したことがある。ダンジョンコアならばどうだろうか。あれはかなりの魔力が内包されていると聞くぞ」


 フィーリアの行動について考えていたところで、急にオリビアさんが話を戻した。

 ダンジョンコア?

 ダンジョンの一番奥にでも置いてあるんだろうか。


「どういうものなんですか、そのダンジョンコアっていうのは」


「私も実物を見たことはないのだがな。リンドのダンジョンでは過去にダンジョンコアと呼ばれる大型の魔石を持ち帰った冒険者がいるという話を聞いたことがある。もう何年も前のことだし、詳しいことは知らないがもしかして使えるのではないか?」


「以前にもダンジョンコアをダンジョンから持ち帰った人がいるんですか? そんなことをしてダンジョンは無事というか、なくなったりしないものなんですか?」


「うーん、どうなんだろうな。私もそのへんは詳しくないから分からない

 が、現にまだダンジョンはあるだろう? ならば、大丈夫なのだろう。ダンジョンコアが1つだけとも限らないのかもしれないしな」


 そうなんだろうか。

 俺の中のイメージではダンジョンコアを持っていったらダンジョンが崩壊しましたって流れになりそうなんだけどな。

 だけど、俺もリンドの冒険者ギルドでダンジョンが今もあるという話は確認している。

 どうせ他にこの問題を解決する手がかりは何もないんだ。

 藁をも掴む思いだが、もう一度リンドに戻ってダンジョンコアについての話を聞きに行ってみようかな。

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