火山の状態
周囲の景色を見渡すように覗き込んでいた山の頂上から移動する。
今目指している山は少し低いが富士山のように頂上が丸くくぼんだような形になっているみたいだ。
そして、そのくぼみの部分からモクモクと煙が漏れ出るようにして出てきており、あたりに広がっている。
幾つかの山を越え、横切り、避けるようにと移動をしながらその山にたどり着いた。
どうでもいいけど、この煙って吸い込んでも平気なのだろうか。
ガスの成分を調べる方法などは全く知らないので、少しためらってしまう。
「フィーリア、シリア、体は平気か? 何か異常があるならすぐに報告しろよ」
「妾は大丈夫じゃ。シリアは臭いを嫌がっておるようじゃが、特に心配はいらんみたいじゃの」
確かにシリアの顔をみると、嫌そうな顔をしている。
前足で何度も鼻を拭うような仕草をしているのが見て取れた。
そういえば、この山に近づくほどにモンスターの姿が減ってきていたような気がする。
臭いを嫌がって周囲のモンスターが移動して他の地域にも影響を与えている、とかそういうことになるんだろうか。
「とりあえずもう少し登れば、山頂からくぼみの中を見下ろせるだろう。気をつけて進もう」
そう言いながら、時間をかけて登っていく。
幸いにしてシリアも嫌がるだけで体に異常は出ていないようだ。
途中で何度も休憩を入れながらも、ようやくその山頂にまでやってくることが出来た。
山頂には大きなくぼみというか穴が開いており、それが下の方にまでつながっている。
穴の直径は5kmくらいあるのだろうか。
グルッと1周回るだけでも結構大変そうな感じがする。
開いている穴は少し歪みながらも奥深くにえぐるように続いており、その奥ははっきりとは見えない。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鷹の目】
【鷹の目】スキルをペイントして、より遠くが見えるようにしてから、再び穴の奥を覗き込む。
すると、ものすごく小さいが、一番奥のほうがチラッと赤く見える部分がある。
あれはやはりマグマなのだろうか。
というか、いくらスキルの力があるとはいえ視認できる範囲にマグマが見えることなどありえるのだろうか。
俺が頭を悩ませていると、隣にいたフィーリアがつぶやく。
「これはいかんのう。ここはいつ暴発するかわからんぞ」
「暴発? この火山が噴火するってことか?」
「そうじゃな。大地の熱と大気中の冷気が全く釣り合っておらん。いずれ火の勢いが勝って、この穴から漏れ出てくるじゃろうな」
科学的とは言えない発言内容ではあるが、この地で生まれた高位精霊のフィーリアが言うことが全く参考にならないなんてことはありえないだろう。
となれば、この山は噴火する可能性が高く、それによってモンスターが移動したということになるんだろうか。
そういえば、地震とかが起きる前に動物が一斉に逃げ出すことがあるとかいう話を聞いたことがある。
モンスターも異変を察知しているってことになるのかもしれない。
そう思ったときだった。
――クエストが発生しました
頭のなかで電子音が鳴り響いた。
何らかのクエストが発生したようだ。
俺は慌てて詳細を確認するために、ステータス画面を表示させた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
名前:ヤマト・カツラギ
種族:ヒューマン
Lv:1
体力:100
魔力:100
スキル:異世界言語・ペイント・集中・鷹の目
獲得貢献ポイント:85P
受注可能クエスト:火山の噴火を防げ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
新しく受注可能クエストが増えているのが分かる。
分かるが、何だこれは。
噴火を防ぐとかどういうことなのか。
更に詳しく調べようと、画面をタップして詳細を表示する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クエスト:火山の噴火を防げ
クエスト達成条件:北の山脈の噴火間近の火山の鎮静化
クエスト報酬:貢献ポイント+100P
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クエスト報酬で手に入る貢献ポイントが高い。
だが、100Pを日本円で換算すると1億円になるが、たった1億円では噴火を止める方法なんて見つからないだろうと思ってしまった。
もっと報酬が高くてもおかしくないと思う。
というよりも、噴火を鎮めるなんてことが可能なんだろうか。
しかも、噴火間近らしい。
モンスターの挙動がおかしいのは間違いなくこれが原因だろう。
フィランの街にとってもこれは異常事態になるだろうし、早めに帰って報告すべきだな。
「フィーリア、この山はやっぱり噴火が近いんだと思う。一度帰って、オリビアさんにでも報告しようかと思う。……おい、大丈夫か?」
「……ああ、大丈夫じゃ。そうじゃな、一度フィランへと帰還しようか」
どこかフィーリアの様子がおかしいように感じた。
火口部分では他よりも少し気温が上がっていたから、気持ち悪かったのだろうか?
その後はいつもの調子に戻ったため、特に問題なくフィランまで帰り着いた。
□ □ □ □
「というわけで、調査の結果、火山の噴火の可能性が高いことがわかりました。モンスターたちは本能的にそれらを察知していたのでしょう。ここ数年でモンスターの生息域に変化が生じているのは火山が原因であると考えられます」
「……信じられん。本当にこの山が噴火するというのか? だとすればフィランだけではなくリンドまで影響がでるぞ」
精霊であるフィーリアを尊敬と言うか、崇拝に近いレベルで信じているオリビアさんだが、それでも火山噴火の報告というのは信じられない話だったらしい。
結構長い期間雪山に入っていって調査した結果なので、信じてもらえなかったら困るんだが。
それはそうと、少し気になることを言っていたな。
「フィランはともかくリンドにも関係してくるんですか?」
「ああ、地図をよく見てみるといい。ヤマト殿の言う噴火の可能性があるこの山は、フィランから見て北北東に位置しているだろう。このあたりは春になると雪が溶け、その水が青河の上流部へと流れ込んでいる。噴火が起これば間違いなくそちらにも影響が出るはずだ」
そうか、地理関係を広く捉えるとそういうこともあり得るのか。
そうすると青河の下っていったリーンなどの街にも影響は出るかもしれない。
かなり広範囲の災害になるかもしれないのか。
ほかにも火山灰みたいなものも関係してくるだろうし、それ以上に影響が出るところもあるかもな。
「それで、つかぬことをお伺いしますが火山の噴火を止める方法なんてものがあるんでしょうか?」
「いや、無理だろう。そんなこと人間にできるはずがない。せいぜい噴火しないように祈るしかないだろうな」
ですよねー。
あればそれを手伝って簡単にクエストクリアになったんだろうが、こればっかりはどうしようもない。
だが、そこに口を挟んできたものがいた。
「いや、方法ならあるのじゃ」
「えっ? フィーリア、噴火を止める方法知っているのか?」
「うむ、簡単なことじゃ。妾がその身を投げ出せば噴火は止められるのじゃ」
一瞬、フィーリアが何を言っているのか理解できなかった。
まるで時間が停止して動くことも、考えることも出来ないような状態になってしまったように感じた。
俺だけではない。
オリビアさんも手に持っていた地図がパサリと床に落ちたにもかかわらず、手の形をそのままに停止している。
ゆっくりと流れる時間が戻ってくると、ようやく俺はフィーリアの発言内容が頭のなかに染み込んできた。
こいつ、自分を人身御供として投げ出すつもりなのか。




