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山脈の異変

「それにしても、ヤマト殿はやはりお強いのだな。雪原人たちを簡単に切り捨てているのを見ていたぞ。さすが精霊様や女王雪豹と一緒に行動して、あの悪名高いベガを倒しただけのことはある」


「まあ、ベガを倒したのは俺ではなくてラムダ騎士隊長でしたけどね」


「ふふふ、なに、謙遜することもあるまい。身につける装備も一流のものであるし、あの腕を見れば只者ではないことなど誰にでも分かるというものだ」


 雪まつりの氷像作りで失敗した俺は多くのオネエたちから逃げるように屋敷へと戻ってきていた。

 その姿があまりにも不憫だったのか、オリビアさんが気を使ってくれている。

 ここ数日はオリビアさんの住む屋敷に滞在しているが、ずっと一緒にいるというようなことはない。

 むしろ、仕事が忙しいのか屋敷にいてもあまり顔を合わすタイミングはないといえる。

 今日はわざわざ俺と食事の時間を会わせてくれたのだ。

 まあ、美人で礼儀作法がしっかりした女騎士と知り合う機会なんて他では絶対なかっただろうから、これはこれで得をしたと思ったほうがいいだろう。


「それにしても、オリビアさんの指揮こそ見事でしたね。やっぱり普段から雪原人なんかが襲ってくるんですか?」


「馬鹿言わないでくれ。あんな連中がそう頻繁に襲ってきたら大変なことになるよ。本当なら奴らは2つほど山を超えたところに住んでいて、こっちの方へまではやってこないんだがな」


「ああ、そうなんですか。ならこの間のは運が悪かったってことなんですね」


「……いや、実はそうとも言えないのだよ。どうもここ数年ほどで急激にモンスターの出現位置が変わってきているようでね。今までなら安全だと言われていた場所でも危険なモンスターが出ることが増えてきているんだ」


「モンスターの出現位置ですか? それが変わるってことはよくあるんですか?」


「いや、少なくとも私は聞いたことがない。だが、現実をみるとそれが起こっているのは間違いないだろう。それについて、精霊様にもご意見をお聞きしたいと思っていました。広範囲でモンスターのすみかが変わることなどあるのでしょうか?」


 かなり真剣な顔でオリビアさんがフィーリアへと質問をしている。

 どうやら異常事態のようなものが起きているらしい。

 そういえば、リンドの近くでシリアのような女王雪豹を見かけることも普通はないってフィーリアが言っていたような気がする。

 フィランだけの問題じゃないのかもしれない。


「ふーむ、なくはないのう。人間の寿命は短いが、精霊である妾から見れば、そんなことはよくあることとしか言えんしな。だが、妾がまだこの地におった10年前はそのようなことはなかったはずじゃ。ここ数年でモンスターたちの生息域が大きく変わったとなれば、何かあったのかもしれんな」


「フィーリア、何かあったってのは具体的になにがあるんだよ」


「そんなこと妾に分かるわけなかろう。強いモンスターが新たに山脈に住み着いたかもしれんが、その可能性も少ないじゃろうしな」


「ん? そうなのか? 強い個体とか規模の大きな群れができたら、他のモンスターが押し出されるようにこっちに来ることもあるんじゃないのか?」


「北の山脈には妾よりも強いやつらが住んでおるのじゃよ。あやつらがおる限り、よそからこの地に移り住むようなやつはそうそうおらんはずじゃ」


「フィーリアよりも強いやつがいるのか。どんなバケモンだよ」


「もしかして、氷霜巨人フロストジャイアントのことですか? 精霊様よりもお強いという伝説は本当だったのですね」


「氷霜巨人?」


「ええ、そうです。我々フィランに住むものも正確なことまでは知らないのですが、この地よりも更に北の山脈には大型の人型モンスターがいると言われています。巨大な体から繰り出される力強い攻撃と、強大な魔力による魔法攻撃を使いこなすとか。山で遭難してもし見かけても、絶対に抵抗してはいけないと寝物語にまでなっているのですよ」


「あやつらは数はそこまで多くはないが、意外とあちこち歩き回っとるからな。もし、このあたりに影響を与える強いモンスターがいるなら、氷霜巨人どもと戦いになっておるじゃろう。もし、そうではないのなら、モンスター以外に原因があるのかもしれんのじゃ」


「他の原因ってのはわからんのか」


「うむ、わからんな」


「そこでだ、ヤマト殿に頼みたいことがあるのだ。北の山脈に起こっている異変を調べてはもらえないだろうか」


「俺がですか? 異変なんて地元のことに詳しい冒険者に頼んだほうがよくわかると思いますけど」


 そういえば、フィランに来てすぐに兵士の詰め所へと連行されて、その後この屋敷に来たから、冒険者ギルドに顔を出していなかったな。

 あとで行っておいたほうがいいかもしれない。

 なんせまだギルドの場所さえ確認していなかったし。


「いや、それが冬の間はフィランには冒険者があまりいないのだよ」


「そうなんですか? なら冒険者は冬の間、どうやって生活しているんですか?」


「知っての通り、冬になると街の外は極寒の世界だ。街の中の雑用程度しか冒険者の仕事はない。冬を越すための資金をためた冒険者は休業中だし、蓄えのないものはほとんどがリンドへと行ってしまうのだよ。なんせあそこには一年中気温の変わらないダンジョンがあるからな」


 なるほど。

 1年を通して安定して働ける職場がダンジョンで、それが他の街にあるってことになるのか。

 それって大丈夫なんだろうか。

 ただでさえ不便なのに、そんなことだとどんどんと過疎っていくんじゃないかと心配になるのだが。


「それにヤマト殿は大雪が降る中をリンドからフィランまで移動してきた実績があるだろう。この雪の中での行動は地元民でも命にかかわるのだ。報酬は出すのでなんとか頼まれてくれないか」


 どうしようかな。

 俺も寒いのは嫌だし、雪に慣れているわけでもないし。

 というか、問題はそこだな。

 フィーリアとシリアが手伝ってくれない限り、俺にできることなんて無いに等しい。


「フィーリアはどう思う? もともと北の山脈はおまえの生まれ故郷なんだろ。一番異変が分かるのはフィーリアだと思うけど」


「そうじゃのう。さっきということが違ってしまうが、変なやつが住み着いておっても嫌じゃしな。ちっと様子でも見に行こうかの」


 フィーリアが行くなら大丈夫かな。

 シリアもどっちかというと外で走り回っている方が性に合っているだろうし、フィーリアが言えばついてくるだろうし。

 それなら、行ってみるか。


「分かった。そういうわけで、オリビアさん。その依頼、受けようと思います」


 そう言って、俺は北の山脈の異変探しに行くことにしたのだった。

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