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氷像品評会

 一撃で雪原人を葬り去ってしまったフィーリアを見て、あらためて本来の強さを知ることができた。

 広範囲に散らばる相手を瞬時に把握し、その1匹1匹を正確に氷の檻で閉じ込めて、次の瞬間にはプチッと潰す破壊力。

 まさに精密操作性と超パワーを兼ね備えた存在といえるのではないだろうか。

 始めて俺がフィーリアと出会って戦っときがいかに弱体化していたのかと言うのがよく分かる。

 あのときに、こんな強さを持っていたら俺がどんなスキルを使おうともまともに戦うことなどできなかったかもしれない。


「ふむ、こんなもんかの」


「流石です、精霊様。ご助力感謝いたします」


 最初は何が起こったのか分からない様子だったオリビアさんや兵士たちが、雪原人を殲滅したのが氷精であるフィーリアだと気づいたようだ。

 オリビアさんの声掛けによってそれが全員共通の認識になる。

 中には手を組んで祈りを捧げるものまでいる始末だ。

 まあ、とんでもない美少女が宙に浮いているだけでも幻想的だし、それはしょうがないのかもしれない。

 少しすると、その光景は逃げ遅れていた一般人まで巻き込んでみんながフィーリアにお礼を言っていくのが続いた。

 どのくらいの時間過ぎたのだろうか。

 ようやくその騒ぎが治まってから、俺とシリアが倒した雪原人の死体を街の中へと移動させ、その後雪集めを再開することとなった。


「ふふん、どうじゃヤマトよ。妾の力がよくわかったであろう」


「ああ、ほんとにすげーな。あれでも全力じゃないんだろ?」


「当然じゃな。本気になったらもっとすごいに決まっておろう」


 嬉しそうに笑っているフィーリアの顔を見ていると、そんな力を持っているようには全く思えないが、さすが高位精霊と呼ばれるだけのことはある。

 プライドの高い女王雪豹のシリアがあっさりと言うことを聞くのも納得というものだ。

 やっぱりこいつはここで生活しているのが一番いいんじゃないだろうか。


「よし、雪集めはこれで終了だな。撤収するぞ」


 俺とフィーリアが話していると、雪集めも終わったようだ。

 その後、雪原人や他のモンスターに襲われることもなく作業は無事に終了した。

 ちなみに、フィーリアが握りつぶした雪原人の肉はシリアが美味しくいただきました。




 □  □  □  □




「よっしゃ、完成だ。優勝はもらった」


 雪集めを行った翌日になっている。

 集めた雪を固めて氷へと変えたものを受取り、翌日中に氷像を作ることになっていた。

 俺は雪集めにも参加していたし、雪原人が襲ってきたときには戦闘にも参加した。

 そのため、他の人よりも少しサイズの大きな氷が割り当てられた。

 優勝というシステムがあるのかどうかはしらないが、目立ち注目される氷像を作れば女性からアプローチがくるというのなら全力で取り組むしかないだろう。

 少々卑怯かもしれないが、【細工】スキルをペイントしてから氷像を作ることにした。


 俺の中で氷の像といえば、龍の形が最初にイメージに浮かんだ。

 西洋式のドラゴンではなく、東洋の龍といえば分かるだろうか。

 蛇のように細長い体で、小さな手足が胴体についている。

 そして、顔には髭がついて伸びており、全身に細かい鱗がびっしりと生えている。

 それが俺の中での龍のイメージであり、氷の像にふさわしいものだと考えた。

 細工スキルをペイントしてステータス画面をみると、作ることのできるリストの一覧の中にはその龍というのはないようだった。

 そこで、少し時間はかかるが、俺は手作業で氷像を作ってみた。

 時間も手間もかかるが、細工スキルによって熟練の職人並みの物ができたと思う。

 まるで今にも天を昇り、雲の間を飛ぶように移動するかのような完成度の龍が目の前に存在している。

 この勝負は貰った。

 俺は完成した氷像を慎重に運び、展示場所に設置したのだった。



 □  □  □  □




「あら〜、あなたがあの氷像を作ったのね。可愛い男の子じゃないの〜」

「いいわね〜。お尻がキュートだわ」

「この後どうかしら? 美味しい食事を出す店があるのよ。一緒に行きましょう」


「あの、その、すみません、結構です……」


 氷像を完成させた翌日に雪まつりが開催された。

 氷の女神像がある湖の前のスペースにたくさんの氷像が置かれている。

 多くの独身男性たちが寝る間も惜しんで作り上げた氷像が数多く並べられており、それらを多くの人が見にやってきていた。

 男性陣は自分のつくった像の近くで祈るようにして待ち、女性たちは数人グループで集まりながらワイワイと話し込みながらも氷像の出来をチェックしていく。

 その他には単純に雪まつりを楽しむ老人たちや家族連れなどもいる。

 そして、その中でも抜群に注目を集めている氷像が俺のつくったものであり、そして、それを見て、俺に近づいてくる人たちがいる。


 もっとも、女性に大人気というわけではない。

 なぜだか知らないが、俺は多くの男性からアプローチを受けていたのだ。

 なぜこんなことになっているのか、全くわからない。

 ひたすら近寄ってくるおネエ系の人たちにお断りの返事を繰り返しながらも頭がパニックに陥っていた。

 そんな時間がしばらく続いた後、聞いたことのある声が聞こえてきた。


「ヤマト殿、これはすごいな。繊細にして大胆な作りをした氷像だ。見たこともないが、これはドラゴンの一種なのだろうか?」


「オリビアさん、これは一体どういうことなんですか! さっきから男の人ばっかり声をかけてくるんですけど」


「ん? ああなるほど、それはそうだろう。ドラゴンの像をつくったということは、そっちの趣味があるのだろう?」


「な、何を言っているんですか? そっちの趣味ってもしかして……」


「違うのか? 力を象徴するドラゴンの像を作るということは男色という意味に捉えられるのだが」


「違いますよ。ていうか、作る像によって意味が違ってくるとかあるんですか? 聞いてないですよ!」


「ああ、そうか。フィランでは当たり前だったから、説明していなかったかもしれないな。ほら、よく見てみなさい。他の男たちがつくった氷像はどれも女性像だろう? あれは自分の好みの女性を表しているのだよ」


「え? あ、本当ですね。女性像ばっかりだ」


「雪まつりで氷像を作る男性は自分の好みの女性の像を作る。例えば髪が長いだとか、胸が大きいとか、背が高い、あるいは低いといった感じだな。男性側は自分の好みの女性を示し、女性側はそれを考慮に入れながらも氷像の完成度を見極めて声をかける。それが雪まつりの醍醐味なのだよ」


「……そんなルール初めて聞きましたよ」


「それは……すまんな。気が付かなかった。まあ、もう少し説明を続けよう。男性の中には想い人がいる場合もある。そんなときは自分の想い人の姿を氷像にするケースもあるな。その場合は、いかにその女性の特徴を捉えつつ、美しい像を作るかが腕の見せどころだ」


 何だよそれ。

 フォトショップの画像加工かよ。


「また、男性の中には女性像ではなく、動物やモンスターの像を作るものもいる。ヤマト殿のようにドラゴンのような強力なモンスターの像を作った場合には、力のある男という意味に取られてしまうのだ」


 それでか。

 それでさっきからずっとガタイのいいお兄さんたちが俺の近くにやってきて、お尻触っていったりしていくのか。

 マジ勘弁してくれよ。


「あとはそうだな、特定のアピールポイントがない場合には氷の女神像を真似て作ることも多い。既婚男性などはその傾向が強いかな。もっとも、今年は精霊様のお姿を氷像とするものも多いようだ」


 それは気がついていた。

 この会場でも少なくない数の氷像がフィーリアの姿をしている。

 上手なものも微妙なものもあるが、なかなかよく特徴を捉えているものが多い。

 ここ数日、フィランの街を歩いたり、先日の戦いの姿を見て作ったのだろう。

 街全体で細工技術の高さを示しているかのようだ。

 この街に来て感じた建築技術のレベルの高さなどもそのへんからきているのかもしれない。


 俺はオリビアさんとの会話を終えると、即座に氷像の土台部分に書き込んだ自分の名前を削り取った。

 せっかく気合を入れて作ったのに全くの無意味になってしまった。

 目尻に涙がにじむのを感じながら、俺は屋敷へと戻っていった。

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