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雪まつり

 雪の街フィランの食事は濃い目の味付けのものが多いようだ。

 オリビアさんの屋敷で出された食事を食べてみると、保存食をうまく調理して食べさせるものが多かった。

 きっと冬の間は雪で街の中に閉じ込められてしまうから、保存の効くものがどうしても増えてしまうのだろう。

 塩気の強いものから甘みの強いもの、そしてフィーリアの苦手な辛いものなど様々ある。


「これはジンギスカンっぽいな。羊の肉か何かですか?」


「それは雪食羊の肉だな。この辺にだけ住んでいるおとなしいモンスターで、春から夏にかけては高原の牧草を食べるのだが、冬の間は荒らされていない新雪を食べる。冬場に唯一手に入る肉でここフィランでは欠かせない食料として知られている」


 そう言ってオリビアさんが解説してくれる。

 雪なんか食って栄養あるんだろうか。

 噛むとクセのある匂いがするのだが、雪を食うくらいならもっと匂いが少なくてもよさそうなものなのにと思ってしまう。


「妾はこれがお気に入りなのじゃ。ヤマトも食ってみるがよい」


 フィーリアのお気に入りだというお菓子を渡してくる。

 クラッカーのようなものの上に、何かが乗っかっている。

 見た目的にはイチゴジャムみたいな感じだ。

 口に入れると、砂糖を大量に煮詰めてドロドロにしたものをそのまま口に入れたかと思うくらい甘ったるい。

 予想以上の甘さで思わず吐き出しそうになったが、フィーリアが瞳を輝かせてこちらを見ている。

 自分のおすすめを味わってほしい、喜んでほしい、そんな感じなのかもしれない。

 バッと手を動かして口を押さえ、吐き出しそうになるのを気合で阻止した。


「すっごい甘いな。こういうのがフィーリアの好みだったのか?」


「そうじゃな。ヤマトの作る料理はどれも美味しかったが、甘いものが足らんな。もっと甘いものを作れるように精進するのじゃぞ」


 甘いものは嫌いではないが、ここまで甘さ100%みたいなものは絶対作らないと思う。

 この街ではこれがデフォなんだろうか。

 気になったのでオリビアさんに尋ねてみると、違うらしい。

 どうやらこの甘ジャムはもっと少量を飲み物に混ぜて、味に変化をつけて楽しむのが一般的な楽しみ方だそうだ。

 ようするにフィーリアは原液のままのカルピスを飲むようなことをしているらしい。

 俺たちがそんな話をしながら食べている間、シリアはひたすら肉料理を食べていた。

 どうも彼女は肉を薄く切って食べるのは嫌なようで、厚切りというかブロック状の肉を炭火でじっくり焼いたものをそのまま切らずに噛み付くのが気に入ったみたいだった。


「ふ〜。ごちそうさまでした。美味しかったです」


「おそまつさまでした。ヤマト殿、希望されておられた風呂は準備ができているようだ。あとで案内させるのでぜひ入っていってくれ」


 夕食を堪能した後は、お風呂タイムだ。

 代々騎士を輩出するこの家は設備も整っている。

 お風呂もかなり豪華だった。

 どこかの温泉に来たのかと思うくらい湯船が大きいのもそうだが、石造りの内装で石柱は細かな彫刻が施されている。

 さらに湯船に張られたお湯には柑橘系の果物が浮かんでおり、いい匂いがしている。

 ここ最近はずっと大雪の中での生活が続いていたため、お湯に入って体が温もるとトロトロに溶けてしまいそうだった。

 あまりの気持ちよさにそれまでの疲れが出たのか、その日はベッドに入るとすぐに寝落ちしてしまった。




 □  □  □  □




「雪まつりですか?」


「そうだ。毎年冬になるとフィランで行われる恒例行事の1つだ。街の外から雪を集めて固めたものに細工をして、氷像を作り上げる。そして、それを氷の女神像に捧げることで、安全な冬越しを祈願する習わしがあるのだよ」


 フィランに来て数日を過ごして、そろそろ旅の疲れも完全に取れた頃になって、フィランで雪まつりが行われることを知った。

 なんとなく日本でも同じようなお祭りがあった気がするが、ここでは観光客などというものはやってこない。

 あくまでもこの地に住む人たちが無事に過ごせるように祈りを捧げるのが目的なのだろう。


「よかったらヤマト殿も参加していかないか。フィランに住む独身男性はほとんどのものが参加するのだが」


「独身男性ですか? 女性はあまりそういうのは参加しないのですか?」


「いや、女性も参加するものはたくさんいる。だが男性の方が多いだろうな。雪を固めてつくった氷で彫刻を行い、その像を女神像に捧げるのが目的なのだが、それとは別に品評会にもなっている」


「品評会ですか。氷像のできによって賞金が出たりでもするんですか?」


「ちょっとちがうな。賞金などはないが、芸術的な氷像を作るとモテるのだよ」


「は? モテるって、その、女性にってことですか?」


「そう。注目を浴びるほどの氷像を作れば、その製作者に話を聞きに行くと言う形で女性からアプローチしやすいのだろう。冬の間は家に篭もることも多いので、その流れで子どもをつくってしまい、結婚という流れになることも珍しくはない。そのため、フィランでは独身男性は目の色を変えて氷像作りに挑むものが多い」


 すごい話もあるもんだと思った。

 お国柄ってやつなんだろうか。

 でも、これならあんまりモテない男でも頑張ればワンチャンあるってことにもなるのか。

 【細工】スキルを使えばかなりいいものが作れるはずだ。

 よし、参加してみよう。


「分かりました。参加しましょう」


 俺は高らかに雪まつり参加を宣言した。

 不純な動機がバレたのか、シリアに頭をガブリと咬まれてしまったが気にしてはいけないだろう。

 翌日俺はフィランの外に出て雪を集めてくる作業にも参加することになった。

 基本的には街の外に出ての作業は兵士が行うのだが、希望すれば一般人でもその作業をすることができる。

 参加すればその分、割り当てられる氷の大きさが大きくなるため本気度の高い人ほど積極的に参加しているらしい。

 俺と同じくらいの年齢の人はワイワイ喋りながら気楽なものだが、20歳も半ばを過ぎた感じの人たちは目がギラついている。

 ぶっちゃけ怖いくらいだ。

 俺はオリビアさんと一緒に行動しながら、雪集めを行っていった。

 だが、昼を過ぎたあたりでトラブルが発生する。

 遠くの方から雪がもうもうと舞うようにして、何かが接近してきたのだ。


「あれは雪原人の群れか。なぜこんなところに。総員戦闘態勢に入れ。迎撃するぞ」


 オリビアさんの掛け声とともに、兵士たちが剣を構える。

 遠くに見える少し灰色っぽい体毛の生えた猿型のモンスター、雪原人が迫ってきている。

 俺も刀を抜いて、その迎撃に参加することにした。

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