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容疑と証明

「どうしたのじゃ、ヤマトよ。もしかして、妾に見惚れておるのかのう」


 その姿を成長させたフィーリアがドッキリ成功とでもいいたいかのように、クツクツと笑ってこちらを見ている。

 可愛いガキンチョから絶世の美少女へと変貌してしまって驚かされたが、中身はいつもと同じままなのだろうか。

 なんだかそれを見て少しホッとした自分がいた。

 しかし、あれだな。のじゃ口調の女の子はロリであるというイメージが自分の中にはあるようだ。

 見た目が高校生1〜2年生くらいになったので、今までと少し雰囲気が変わったように感じる。


「ああ、まあ、びっくりしたよ。それが本来の姿なのか?」


「ふふん、今まで子供扱いされたが、妾は立派なオトナなのじゃ。もっとも精霊には本来肉体は不要じゃからな。変えようと思えばいくらでも変えられるぞ」


「そりゃすげえな。つか子供扱いは嫌だったのか。それじゃ今度からは大人が食べる辛い料理でも増やしていこうか?」


「辛いのは嫌なのじゃ。妾は甘いものを所望するぞ」


 うん、見た目が変わっても中身はほとんど変わらないみたいだな。

 急に人が変わったように態度を変えられなくてよかった。

 あと、なんとなく俺より見た目年齢が上にならなくてよかったとも思う。

 今更こいつに敬語を使う気にもならないしな。


「それはそうと、この氷の女神像は縮んじまったけど大丈夫なのか?」


「問題なかろう。別に周りの冷気を吸収するのに像の大きさそのものは関係しておらんはずじゃ。何か影響がでるということもあるまいて」


「そっか。じゃあ、そろそろ街の方へ戻ろうか」


 そう言って俺たちはもと来た氷の道を通って小島から離れていった。




 □  □  □  □




「そこを動くな。特に女王雪豹を連れたそこの男、おまえは抵抗すれば即座に切り捨てるぞ!」


 氷の道を通って湖を渡って陸地についたときには、すでに俺たちは囲まれてしまっていた。

 20人近い兵士だろうか。

 すでに剣を構えて逃走ルートを塞ぐように配置されている。

 やっぱりあんなに目立つ大きな女神像がいきなり小さくなったというのはまずかったかもしれない。

 器物破損罪くらいですめばいいが、あれが何らかの信仰対象にでもなっていたら言い訳すらさせてもらえないかもしれない。

 今更ながらにそのことに気がついた。

 俺が頭のなかでなにかうまい言い訳でもないだろうかと考えていると、兵士たちの中から1人だけ装備のいい人間が前に進み出てきた。

 驚いたことにその人は若い女性だった。

 兵士っぽい人の中に唯一いた女性がこの集団の責任者なのだろうか。


「お久しぶりでございます、精霊様。精霊様がこの地より連れ去られてからというもの、フィランの民は皆嘆き悲しんでおりました。よくぞ、お戻りになられました」


「ふむ、長らく留守にしておったからのう。今戻ったのじゃ」


「フィランの民を代表して心よりお祝い申しあげます」


 なんか、フィーリアがすごい偉そうに話しているが、知り合いなのだろうか。

 目の前の女性はフィランを代表するとか言っているし、兵士をまとめているところを見ても、貴族階級なのだろうか。

 この人だけは兵士じゃなくて騎士なのかもしれない。

 いわゆる女騎士ってやつだろうか。


「それで、その男がフィランから精霊様を連れ去った悪人ですね。全員聞け。やつは召喚術を使うという。女王雪豹以外にもモンスターを召喚する可能性があるぞ」


 今までフィーリアに頭を下げていた女性がそう言うと、兵士全員が緊張したように戦闘態勢に入る。

 なにがどうなっているんだ?

 なんで俺が悪人扱いされなきゃならんのだ。

 どう考えてもおかしい。

 召喚云々と言っているところをみると、俺はベガと間違われているんだろうか。

 あんなおっさんとは似ても似つかないんだけど。


「えっと、誤解ですよ。俺はフィーリアを連れ去った盗賊のベガではありません。それでもこちらを攻撃するなら、大怪我ではすみませんよ」


 すでに刀術スキルをペイントしてあるので、バシュッと音がなるように鞘から鬼王丸を抜き出して構えた。

 あくまでもパフォーマンスでしかないが、怪しく光るミスリルの刀は十分威嚇効果を発揮する。

 俺を取り囲もうとしていた兵士たちは一瞬怯んで、わずかながらも後退した。

 だが、さすがに女騎士さんはそこまで取り乱さない。


「下手な言い逃れは聞くに値しない。精霊様と行動できるのは精霊契約を行ったベガだけのはずだ。おまえがベガでなければ精霊様が一緒にいるわけがないだろう」


「ベガはリアナの騎士隊長が討伐しましたよ。俺はフィーリアに頼まれて、この街まで送り届けてきただけです。とりあえず、話をしたいのでお互いが武器をしまうというのはどうでしょうか」


「……よかろう。ただし、話を聞き終わるまでは腕を縛らせてもらう。ここでは何だな。兵士の詰め所のほうで話をきこうではないか」


 あんまり信用してもらえていないみたいだが、とにかく話を聞いてもらえるだけでもありがたい。

 こっちも武器を向けられてシリアさんはご立腹の様子なのだ。

 あと少し遅ければ、女王雪豹による残虐ショーがフィランで繰り広げられてしまうところだっただろう。

 俺も鬼王丸を鞘に戻し、両手を縄で縛られて連行されることとなった。

 何も悪いことをしていないのに腕をつながれて引かれるように歩くと、周りから見たら俺は間違いなく悪人に見えるだろう。

 そっと闇の腕輪のアビリティを発動して気配を遮断し、連行されていても目立たないようにしながら歩いていった。




 □  □  □  □




「大変申し訳無い。ハインラード家の使者とはつゆ知らず無礼を働いた。せめてものお詫びに今日は好きなだけ食べていってくれ」


 俺は今、兵士の詰め所から出て大きな貴族の屋敷へと連れてこられている。

 俺の疑いはあっさりと解かれた。

 というのも、俺がフィーリアをここまで連れてきたのは貢献ポイントを得るためにした行動ではあるが、リアナで出会ったラムダ騎士隊長からの要請でもあるのだ。

 ラムダ騎士隊長の家のハインラード家からの書状を俺はもらっていた。

 そこにはベガを倒したこと、ベガと精霊契約をしていたフィーリアを保護したこと、彼女をフィランにまで連れて行くことなど、一連の流れをリアナでは認めたと証明するように書き連ねている。

 これは羊皮紙に書いてあり、クルクルとまとめて蝋で封をして、上からハインラード家の紋章をポンと押し付けてあるため、貴族が書いた正式な書状となる。

 これを見せたらすぐに対応が変わった。

 わざわざラムダ騎士隊長からいずれ必要になるかもしれないからと渡してくれたのだ。

 流石にこういうことには慣れているのかもしれない。

 俺はこんなことになるとは考えもしていなかったので、本当に助かった。


 そして、今いる屋敷は女騎士さんの実家だそうだ。

 彼女の名前はオリビア・マナーテルシというらしい。

 マナーテルシ家はここフィランで代々続く貴族家であり、騎士を輩出している一族だそうだ。

 オリビアさんは幼いころにフィーリアにあったことがあるそうだ。

 その頃からフィーリアに対して憧れに近いものを持っていたのだが、11歳のときにベガに連れられてフィーリアが出ていってしまい、さらに盗賊団に利用されていると知って心を痛めていたそうだ。

 俺たちがフィランに到着して歩いている姿を住民が報告したとき、全身真っ白の人型の高位精霊を男が連れて歩いていると聞き、ベガがこの街に来たのだと思ったという。

 即座に兵士をかき集めてみれば今度は街のシンボルでもある女神像の大きさが小さくなるという異変が生じ、ベガが新たな厄災をこの地にもたらしたのだと思ったらしい。

 やはりいきなり女神像のもとに向かったのが悪かったのかもしれない。


 フィーリアがベガと出会ったのが10年前だから、オリビアさんは21歳ということになるのだろうか。

 青い髪を背中に垂らして先の方は三つ編みにしてまとめているようだ。

 体格は貴族のお嬢様と言った感じで、あまり筋肉がついているようには見えない。

 だが、先ほど剣を向けられたときにはその立ち姿はしっかりとしていた。

 細身の剣を使っていたので、切るよりもフェンシングのように突き刺す攻撃が主体なのかもしれない。

 外にいたときには兵士たちも使っていた毛皮のコートを身に着けていたが、屋敷の中では上品なスカート姿へと変わっている。

 そのまま夜会に出てもおかしくないその姿をみると、なぜ騎士なんてやっているのだろうかと思ってしまうくらいきれいな女性だ。


「精霊様、ここを我が家と思って何なりと申し付けてくださいませ。なんならいつまでもここにいてもらっても構いません」


「ありがとうなのじゃ。このお菓子が甘くておいしいのじゃ」


「貴兄もシリア殿もぜひ滞在してもらいたい。せっかくフィランへとやってきたのだ。良ければ案内させてもらえないだろうか」


 最初にあったときにはすごい剣幕で怒っていたので、怖い人かと思ったがそうでもないようだ。

 この館には庶民が使う宿にはないお風呂があるそうなので、ぜひとも泊まらせて貰おう。

 貴族が食べる料理も堪能させてもらうことにしよう。

 こうして俺の冬の生活が始まった。

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[気になる点] 敵味方共にフィーリアに説明を求めなかったのは何故か
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