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石の街リンド

 交易都市リーンからフィランへと向かうには青河を北上して石の街リンドを経由して行くことになる。

 河は3日ほど北上していくとリンドが見えてくるらしい。

 そして、そのリンドから北西へと進むとフィーリアを送り届ける予定の雪の街フィランがある。

 魔船の上で過ごす3日間はなかなか長く感じる。

 もちろん夜は河のほとりにある小さな宿場町を利用する。

 だが、日中はずっと船の上でボーッと過ごすことになるので退屈だった。


 そこで、暇つぶしにと同じ船に乗る乗客から話を聞くことにした。

 乗客の中ではフィランについて詳しい人がいなかったので、もっぱら石の街リンドについての話を聞くことになった。


 石の街リンド。

 青河の上流に位置する街で、鉱石関係がよく取れるらしい。

 魔船が開発される前から青河を船で移動して、鉱石を各地へと売っていたため、歴史のある街らしい。

 魔船が開発されてからはさらに速く遠くまで輸送することが可能になったため、「職に困ったらリンドへ行け」と言われるくらいの好景気が続いていたらしい。

 だが、その歴史も一度大きな転換期を迎えることになった。

 それまでのように鉱石が取れなくなってしまったのだ。


 原因はそれまで掘っていた鉱脈のある山に異変が生じたことによる。

 いまだに何が起こったのかははっきりとしていないのだが、ある日突然何の前触れもなく、鉱山がダンジョンへと変わってしまった。

 いわゆる異界化が起こったらしい。

 先日トレントの森で発生した異界化はエルダートレントの誕生によって引き起こされたものだが、あれはあくまでも一時的なもので、現在はもとに戻っている。

 だが、石の街リンドが所有していた鉱山の場合は、その土地そのものが異界化し、ダンジョンとして定着してしまったのだ。


 鉱山がダンジョンになると、内部の空間が異界へと変わったため、それまでの地図は何の役にも立たなくなってしまった。

 さらに、ダンジョン内にはモンスターまで出てくる始末だ。

 ツルハシ片手に岩を砕き、希少金属を探し当てる生活から、ある日を境に命をかけた戦いが必須の生活へと変貌してしまった。

 あっという間に、それまでの仕事をしていた人たちは無職へと変わってしまって、相当大変だったらしい。


 しかし、転んでもただでは起きないのがリンドの住人たちだ。

 自分たちの職を奪った憎きモンスターたちを倒すため、半ばやけっぱちにもなりながらダンジョンへと突入していく人がかなりいたらしい。

 そして、この行動は実を結ぶことになった。

 元鉱山のダンジョンには鉱石モンスターが存在した。

 ゴーレムやガーゴイルなどといった、石や岩でできたモンスターたちだ。

 これらのモンスターは生き物ではない。

 ダンジョンという異界で発生する疑似生命体で、内部には必ず魔石と呼ばれる魔力を内包した鉱石を持っていた。

 この魔石は需要がある。

 なにせ青河の下流にある交易都市リーンでは魔船を動かすために常に魔石を欲していたのだから。

 しかも、ダンジョン内のモンスターはどれだけ狩っても尽きることがないようで、毎日武器を手にダンジョン内へと入っていく人が出てくるのは時間の問題だった。


 鉱山のダンジョン化という事件があったが、その後、多くの冒険者もダンジョンを目指してリンドを訪れることになる。

 再び石の街リンドは活気を取り戻していくことになったそうだ。


 暇つぶしに始めたおしゃべりだったが、いい情報が聞けた。

 ダンジョンがあると聞くと行ってみたいなと思わなくもない。

 だが、先にフィーリアを送り届けるほうが重要だろう。

 クエストをクリアして貢献ポイントもほしいし、何より、初めてフィーリアにあってからだいぶ時間が過ぎている。

 いい加減、早いところ故郷へ帰してやって、弱体化を解いてもらいたい。




 □  □  □  □




 3日間の船旅を終えて、ようやくリンドへと到着した。

 以前、ライラさんに言われたことを思い出す。

 新しい街についたらとにかく冒険者ギルドに顔出しをしておくようにと言われている。

 船頭にお金を払い、冒険者ギルドの場所を教えてもらい、そこを目指して歩いて行く。

 歩きながら街の景色を見ていると、これまでの街とは少し様子が違う。

 リアナやリーンはレンガ造りの建物が多かった。

 それと比べると、リンドは石材で建物を建てているところが多い。

 白色や灰色の建物が多いため、何も知らずにここへ来ていれば雪の街に間違えたかもしれないと思った。


 冒険者ギルドはリンドの街の北側にある。

 これはもともとの鉱道、現在のダンジョンが街の北側にあるかららしい。

 真っ白な石を沢山使って建てられて冒険者ギルドへと入っていく。

 入口を入るとその先にある受付へと向かっていった。


「こんにちは。見ない顔ですがリンド冒険者ギルドは初めてですか?」


「はい。旅の途中です。一応顔出しをしておこうと思ったので」


「あら、そうでしたか。それではどうしましょうか。ここのギルドについての説明は必要ないでしょうか?」


「説明ですか? リアナやリーンの冒険者ギルドとは仕組みが違うんですか?」


「基本的には似ていますが、若干違うと思います。リンドにはダンジョンがありますから」


「うーん、ダンジョンには興味があるんですけど、ちょっと用事があるので。ここから雪の街フィランに行こうと思っているんですけど、そっち方面の情報ってありますか? 一応護衛依頼も経験しているので、他のパーティーに混ぜてもらう形になってもいいんですけど」


「えっ……フィランに行くんですか? これからの時期に?」


 それまで和やかに話していた受付嬢さんの顔に困惑の表情が浮かんだ。

 フィランに行くことが何かおかしいのだろうか。

 リアナでもリーンでも、この街からフィランに行けることは確認済みなのだが。


「あの、数日前から雪が降り始めていますよ。明日か明後日には大雪になるかもしれないって言われています。冬にフィランに行くなんて自殺行為ですよ。護衛を依頼する行商人も冬はいません」


「ええ? そりゃあもうすぐ冬かもしれないですけど、誰も行かないくらいひどいんですか? 探せばフィラン方面に行く人くらいいるんじゃないですか?」


「それなら一応探してみますが、期待はしないほうがいいと思います。それにしても少し惜しかったですね。あと2週間早ければ最後の商隊が出発していたんですけど」


 それってようするに青河杯に参加したから間に合わなかったってことになるんじゃないか。

 それにしても雪か。

 確かにそろそろ気温がグンと下がってきていて、冬になるとは思っていた。

 だけど、冬でも移動する事はできると思っていた。

 雪国を舐めていたかもしれない。

 どうしようか。

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