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集中

 トレントの森における異界化の問題と、エルダートレントの出現の可能性はすぐにリーンにまで伝えられたらしい。

 魔船ギルドは冒険者ギルドとも連携をとり、実力者をトレントの森へと集めることにしたようだ。

 というのも、もしエルダートレントと上位種が一斉に島の拠点に押し寄せてきた場合、それを防ぐための戦力が足りないからだ。

 さすがに魔船に必要な、重要な場所に発生した問題ということで、その日のうちから続々と多くの冒険者たちが島へと集まってきた。


 次の日、俺の方は迷ったものの、異界化がいつ解かれるかわからない以上、時間がかかりすぎると判断した。

 なので、引き続き森の中に入って、1匹だけでもワンダートレントがいないかどうか探すことにした。

 ちなみに今日はガンガン移動するためと、拠点の防衛戦力の確保のために、俺はフィーリアと2人で行動することにした。


「フィーリア、基本的にはワンダートレント狙いで行くが、異界化について状況が変わった場合にはすぐ教えてくれよな」


「うむ、わかったのじゃ」


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【探知】


 今回も探知スキルを発動させて森の中を探し回る。

 昨日はとりあえず見つけたトレントはすべて倒すことにしていた。

 だが、今回はトレントっぽい気配にはあえて近づかず、上位種だけを探すようにする。

 今まで、採取スキルなどでは特定の薬草だけを狙って探すなどをしていたが、探知スキルではしてこなかった。

 すうっと息を深く吸い込んで、腹式呼吸をしていく。

 スー……ハー……と深呼吸を繰り返しながら、自分の意識がまるでドロドロと溶け出し、あたりに拡散するようなイメージで集中していく。

 数分間立ったままで集中を保ち続けた。


 すると、それまでは半径100mくらいが限界だった探知範囲がグッと広がったのがわかった。

 これは多分半径500mくらいはモンスターの気配を認識できているのではないかと思う。

 その状態を保ちながら、ゆっくりと目を開ける。

 今まで経験したことがないくらいの集中力だが、視界は広がっている。

 なんというか、まるで自分の少し後ろ上空から、自分の姿を見下ろしているような感覚がある。

 まるでゲームの視点切り替えみたいだ。

 不思議な感覚だった。

 自分の目からは確かに前が見えており、しかし、上空から周りも見える。

 さらに半径500mに存在する気配も把握できる。

 それだけの情報量がありつつも、戸惑うようなことはない。

 ごく自然にそれらの情報を頭のなかで整理して理解できていた。

 明らかに今までとは違う。

 そこで、ふとステータス画面を開いてみた。


 ――ステータスオープン


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 名前:カツラギ・ヤマト

 種族:ヒューマン


 Lv:1

 体力:100

 魔力:100


 スキル:異世界言語・ペイント・集中・探知


 獲得貢献ポイント:80P


 受注可能クエスト:氷精の護送


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 驚いた。

 慌ててステータス画面を二度見する。

 だが、間違いない。

 スキル欄に【集中】が増えているではないか。

 今までLvすら上がらなかったので、スキルも増えることはないと思っていた。

 なのに増えている。

 いつの間に増えたのかははっきりしないが、これはありがたい。

 そういえばハイド教官との模擬戦ではずっと「集中しろ」とか「周りの気配を感じ取れ」と言われ続けていた。

 あの訓練の成果が今頃になって現れたのだろうか。

 思わずグッと拳を握りしめて小さくガッツポーズをしてしまった。


「なにをニヤついておるのじゃ。早く行こうぞ」


 俺がステータス画面を見ながら喜んでいると、横で待っていたフィーリアが呆れたような顔をして俺をせっついてきた。




 □  □  □  □




「見つけた。あそこだ」


 探知スキルで認識できる範囲が広がるというのは非常に大きなアドバンテージになった。

 それまでよりも格段にトレントを見つけやすくなった。

 今も上位種らしきトレントの存在を感じ取って、そいつが見えるところまでやってきた。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】


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 種族:ウィップトレント

 Lv:38


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 種族:スパイクトレント

 Lv:36

 スキル:硬化Lv2


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 鑑定眼で鑑定をかけるとあれらが間違いなくトレントの上位種であることが分かる。

 通常のトレントは近づいてきた獲物を縛り付けて動けなくするのが攻撃の基本となっていた。

 だが、上位種はそれぞれに特化した攻撃方法があるようだ。

 ウィップトレントはその枝が見た目以上に遠くまで伸びて攻撃することができる。

 スパイクトレントは地面の中の根を槍のように硬くして突き刺すことができるようだ。

 幹の硬さも通常種よりも遥かに硬いため攻撃が通りにくい。

 こいつらに気が付かずに近寄れば、どんな冒険者もたちまちピンチになってしまうだろう。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【刀術】


 俺は鑑定眼から刀術スキルに切り替える。

 すっと抜き放った鬼王丸が怪しく光っている。

 刀術スキルをペイントしている間も新たに手に入れた集中スキルは健在だ。

 驚くほどクリアになっている思考と広がった視野のお陰で、アーツを使用していなくとも今まで以上の動きができるようになっていた。


 ごく自然に歩くようにしてトレントの方へと近寄っていく。

 あと一歩進めばスパイクトレントの攻撃が届く距離、そのギリギリまで来たら、一気に腰を落とし地面を蹴り上げるようにしてスピードを上げた。

 俺が通り過ぎた後の地面から数秒遅れてスパイクトレントの攻撃が行われ、槍の根がいくつも飛び出している。

 攻撃が不発に終わり、スパイクトレントが次の一手を放つ前に俺は鬼王丸が届く距離にまで詰め寄っていた。

 スッと右上から左下へと指揮棒を振るうように刀を滑らせる。

 それだけで、スパイクトレントは両断され、切り取られた斬撃よりも上の部分が大きな音を立てて地面へと横たわることになった。


 そのタイミングを狙っていたのか、攻撃を終えた俺の背後から鞭のようにしなったウィップトレントの枝が振るわれる。

 明らかに目視できない位置からの攻撃だ。

 だが、集中スキルによって自分の姿を俯瞰で捉えている俺にはあまり意味がなかった。

 サッと両手が地面に着くくらいに姿勢を下げる。

 すると振るわれた鞭の枝は俺の体の上を通り過ぎていってしまう。

 鞭の枝が地面に転がるスパイクトレントの幹を叩いている間に、くるりと反転しウィップトレントへと接近する。

 先ほどと同じように刀を一振り、それだけでウィップトレントは行動不能に追い込まれた。


 集中スキルは体力も魔力も消費しないにも関わらず、ものすごい役に立ってくれている。

 さらにミスリルを使って作られた鬼王丸の攻撃力も凄まじい。

 Lvから考えると今戦ったトレント上位種たちはゴブリンジェネラルに匹敵するはずだ。

 かつてはスキルのアーツに頼らなければ満足に戦えなかったことを考えるとすごい進歩だ。

 今なら俺を翻弄してくれたコカトリスたちも相手にできるかもしれない。

 そんなことを考えているときだった。


 全身が舐め回されるような嫌な感じが体をかけまわった。

 ゾクゾクする寒気のようなものを感じる。

 これは一体なんだ。


「ふむ、ヤマトよ。どうやら森の異界化がなくなったようじゃな。嫌な気配が森中を覆っておるぞ」


 フィーリアがそう声をかけてきた。

 この気配がエルダートレントによるものなのだろうか。

 なんというか恐ろしく、禍々しい、そんな表現をしてしまう気配だった。


「拠点とは距離が離れすぎているな。戻らずに気配を辿って様子でも見に行ってみるか?」


「それも面白かろう。じゃが、気をつけろよ。かなりの強敵であろう」


 フィーリアがそんなことを言うのは初めてではないだろうか。

 ちょっと怖くなりつつも、俺は森の奥へと様子を見に行ってみることにした。

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