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造船計画

「到着しましたわよ」


 貴族令嬢であるはずのソフィアが魔船を操船して、カミュの家の近くの桟橋まで送り届けてくれた。

 ソフィアの使っている船も木製であり、たぶん10人くらいが乗れる大きさだ。

 そして、使用している魔力は水精のメアリーが供給しているらしい。

 ただ、フィーリアのときのように無茶なスピードも出さずに非常に安定した動きだ。

 おそらくは長い期間ソフィアとメアリーは組んで魔船に乗っているのだろう。

 カミュが出会ったばかりのフィーリアに飛びついて魔船に乗せたのは、この2人を見ていたからなのかもしれないと思った。


「それでは皆さん、ごきげんよう。カミュ、青河杯に出場するというのであれば、私も楽しみにしています。いい勝負ができることを期待していますよ」


 そう言って、ソフィアは再び桟橋を離れて河へと戻っていった。

 だが、最後に声をかけたときの声色は、どこか駄々をこねる子どもに優しく言い聞かすような雰囲気を感じた。

 2週間後の青河杯に今から船を作るだけでも間に合わないと考えているのかもしれない。


「カミュ、家に戻ろう。できればカミュのご両親にも説明しておかないといけないしな」


 俺はカミュの背中をポンと叩くようにして、カミュが動き出すのを待つ。

 壊れて沈没した魔船のことでも考えていたのかもしれない。

 ハアと一息はいてから、家へと向かって歩き出した。




 □  □  □  □




「……というわけで船が沈没してしまいました。これから大急ぎで新しい船を作り始めないといけません」


 カミュの家でしばらく待っていると、カミュの両親が帰ってきた。

 父親がダンカンさん、母親がシュミという名前で、どちらも30歳代前半に見える。

 きっと若い頃に結婚してカミュを産んだのだろう。

 ダンカンさんは筋肉質な体で茶髪、シュミはスラリとした肉体の持ち主で紫の髪だ。

 カミュは母親に似たのだろう。

 2人は船がなくなったと聞いて動揺してしまったのか、目が宙を泳いでいた。


「……無理だ。もう時間がない。今から船を造ったとしても間に合わないだろう」


 ダンカンさんが肩を落としてそうつぶやく。

 てっきり、俺やフィーリアに文句を言ってくると思っていただけに調子が狂う。

 本当に時間的な余裕がないのか。


「それにうちは手持ちの資金がないんだよ。もう1隻、競技用の船を造るだけの余裕もない。今までカツカツでなんとかやりくりしていたんだから」


 なるほど。

 それでカミュはソフィアとあんな約束をしてまで勝負をしようと考えていたのか。

 だからといって、自分の身を掛け金に勝負することもないだろうと思ってしまうが。


「ダンカンさん、俺もこう見えてものを作るのが上手なんです。連れのフィーリアにも問題があったので、手伝いますよ。とにかく今は、少しでも可能性がないかどうか確認していきましょう」


 船を造るスキルと言うのはないようだが、木工スキルを使えばかなり時間短縮はできるはずだ。

 少なくとも木材の切り出しや加工なんかはあっという間に終わる。

 それだけでも十分だろう。


 ちなみにフィーリアには罰を与えることにした。

 青河杯のある2週間後まで、食事をすべてカレーパンだけにするという罰だ。

 俺の料理スキルでつくったカレーパンは、材料の関係か、グリーンカレーみたいになってしまったが、それでも辛さがある。

 氷精だからか個人の好みの味覚かは知らないが、フィーリアは辛いものが苦手だった。

 魚料理を楽しみにしていた分、この罰で少しでも反省してくれるとうれしい。


「あと、今回造るのはソフィア嬢との勝負に勝つための魔船です。フィーリアという高位精霊が乗ることを前提として、その性能を活かすことのできる船が作りたい。そのために必要な材料があれば、ぜひ教えてもらえませんか」


「だから、そもそも造るための資金がないんだって。いい船を造るための材料ならさらに値段は上がる。とても無理だよ」


「資金については少し考えがあります。それより、アイデアを出し合いましょう」


「はあ……まあそこまで言うのならいいさ。そうだな、魔船の材料そのものは基本的には3つだな。船体を造るための木材。木材が腐らなくなるための染料。水流操作の魔法陣を描くための墨。この3つが必要だ」


「木材と染料と墨ですか。結構少ないんですね」


「そうだな。染料については普段から整備に使うから残っているものがある。あと必要になるのは木材と墨だ。この2つは上等な素材を使ったほうがいい船ができるな」


「どんな種類があるんですか?」


「色々あるよ。ピンキリだが、上等なやつになるほど値段が跳ね上がる。だが、実際には実用性や耐久性を考えると、どこの工房も同じような素材を使うことが多いんだがな」


「それじゃダメだよ、お父さん。フィーリアの魔力だとすごい速度が出るの。最低でもワンダートレントクラスの木材じゃないと耐えきれないよ」


 俺とダンカンさんが話しているとカミュも会話に参加してきた。

 船がなくなってから元気がなかったが、俺が諦めてはいないところを見て少しやる気が出てきたのかもしれない。

 最初はグイグイくるタイプだったから、元気な顔を見られるのはこっちもうれしい。


「トレント種ってことはモンスターの素材? ワンダートレントは上位種かなにかか」


「うん、そうだよお兄ちゃん。耐久性も上がるし、なにより魔力の通りがよくなるんだ。フィーリアの魔力を使うなら絶対そっちのほうがいいよ」


「分かった。とりあえず素材候補に入れとこう。それで墨も性能にピンキリあるんですか?」


「ワンダートレントなんて普通入荷すらできねえぞ。まあ後で材木屋に聞いてるだけ聞いておくよ。それで、次は墨か。そうだな、魔力の通りを考えたら墨もモンスター素材のほうがいいのは間違いない。『河の怪物』から取れる墨が一番性能はいいな」


「河の怪物?」


「ああ、大きな体で足はなんと8本もあるんだよ。グネグネ動くから気持ち悪りいんだよ。だが、そいつの墨で魔法陣を描くと性能は上がる」


 グネグネ動いて足が8本ってことは、多分タコだよな。

 あれって海じゃないのにこの河にいるのか。

 モンスターってことだから、地球とは関係ないのかもしれない。

 しかし、タコが取れるんならたこ焼きでも食べたくなってくるな。


「よし、それなら次に聞きたいのは造るための時間かな。もしも、さっき言った材料があった場合、どのくらい造るのに時間がかかりますか? ただし、木材については乾燥や加工はすでにできている状態から始めるとしてです」


「木材も加工してある状態? それがなきゃだいぶ時間は減るけど、その仮定に意味があるのか? 現実的に考えて自分で加工しなきゃならんだろうが」


「木材加工は事前に設計図か何か用意してあれば、俺に当てがあるから大丈夫。そこは信じてくれとしか言えないですけど。それで、その仮定ならどのくらいの時間がかかりますか」


「うーん、そうだな。加工が終わってるんなら船に組み立てるのは2〜3日でできるだろう。だが、魔法陣はもう少しかかるな。5日はほしいところだ。寝る時間を削ってもそれ以上は難しいだろう」


「船の設計についてはどうなんですか? 精霊の魔力を使う船ように作らないといけないですけど」


「あ〜、設計はどのくらい時間がかかるか全くわからんな。正直、時間があればあるだけ嬉しいくらいなんだから」


「あっ、それなら私が考えた設計図があるよ。前からソフィアたちの船をみて、自分でも造ってみたいって思ってたから」


 そう言って、カミュが小屋に走っていった。

 少しして戻ってくると、手に数枚の紙を持っている。

 それを広げて、俺とダンカンさんに見えるように広げた。


「お、これはいいんじゃないか。基本的な部分に間違いはなさそうだし、ちょっと気になるところを手直しすれば十分使えそうだぜ。さっすが、俺の娘だな」


 ダンカンさんはニコッと笑って、カミュの頭をグリグリとなでつけている。

 カミュは「やめてよ、お父さん。恥ずかしいよ」と言いながらも嬉しそうに見えた。

 親バカそうだけど、本当に使えるんだろうか。


「この設計図は使えるってことで間違いないですね? ただの精霊じゃなくて、フィーリアの魔力を使うんですよ」


「ああ、出力がだいぶ上がるはずだから、ここはもっとこうして、こっちも手直しして、あ、それならここもか……」


「お父さん、それならこうすればどうかな。こっちを変えると効率が良くなると思うんだ」


「おお、それはいいな。そっちはそうしよう。するとここを……」


 カミュとダンカンさんの専門用語満載の会話が始まってしまった。

 木材一つとっても魔力の通りを良くするために方法があったり、魔法陣の書き込み方なんかに違いがあるようだ。

 専門外のことに口を出しても意味がない。

 そっちはこの2人に任せよう。


「よし、材料と作り方が決まったら、次は資金調達だな」


「それが一番の問題だと思うんだが。考えがあるって言ってたが本当にあるのか?」


「一応あります。というか、船大工が船を造るのに自腹でやる必要なんかないでしょう。金を持っているやつに出させるんですよ」


「「「はあ?」」」


 それまでは俺達の会話を見守っていた母親のシュミさんを含めて、3人の声が揃った。

 そんなにおかしなことを言っただろうか?

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