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リーンでの出会い

 翌朝、みんなで一緒になって冒険者ギルドへと顔を出した。

 ちなみにここにあるリーン冒険者ギルドはリアナ冒険者ギルドとは別のものという扱いらしい。

 というのも、リアナやリーンといった大きな街には冒険者ギルドがあるのが一般的なのだが、それぞれは独立して活動・運営していることになっているらしい。

 リアナでは魔の森でのモンスター討伐や素材採取が主な仕事で、リーンでは貿易関係の護衛が主な仕事になる。

 そういう違いがあるために独立独歩でやっている、というのが半分で、残りは武力を持った組織が力をつけすぎないようにするために、横のつながりを持たせないよう規制されているというのが実際のところだそうだ。


 ただ、冒険者は商人に護衛についてあちこちを移動したり、儲かるモンスターの情報を追いかけて街から街へと移っていく人もいる。

 そのため、ある程度の仕組みは同じようにできており、ルール化されていることもある。

 冒険者が別の街に移ってきた場合には、きちんとギルドへと顔を出して手続きを行っておくこともそのうちの1つだ。

 その辺の手続きなんかもライラさんに教えてもらい、ギルドへの挨拶をすませた。


「あたしたちはこないだの儲けた分があるから、しばらく休みをとるよ。ヤマトはフィランまで行くのが目的だったっけ?」


「そうですね。とりあえず、船に乗せてもらって青河を上流に向かって移動することになるのかな。船着き場にいってみたらいいですかね?」


「ああ、魔船ギルドがあるからそこに行ってみな。目的の船を紹介してくれるはずさ」


「魔船ギルド?」


「知らないのかい? ここの船は魔力で動く作りになっているんだよ。船を作ったり、人を載せたりは全部魔船ギルドが取りまとめているのさ」


 知らなかった。

 そんなものがあるのか。

 というか、魔力で動く船ってなんだろうか。

 動力機関でもついていたりするのかな?


「ありがとうございます、ライラさん。それじゃ、魔船ギルドに行ってみることにします」


「気をつけてな。何かわからないことがあれば宿にくるんだよ」


 ペコリと頭を下げて礼を言うと、ありがたい言葉をかけてくれるライラさん。

 もう一度お礼を言ってから、俺は魔船ギルドへ向かった。




 □  □  □  □




「大きな河じゃのう。ずっと水が広がって流れておるぞ」


 青河をみてフィーリアがはしゃいでいる。

 冒険者ギルドは西門から入ってその近くにあったのだが、魔船ギルドは東側の河の近くにある。

 そこに向かう途中で屋台で買い食いしていると、体の中からフィーリアが飛び出してきたのだ。

 今もフィーリアの両手には2本の串焼きになった魚がある。


「うむ。妾は肉より魚のほうが好みかもしれん。このようなものがあるなら、もっと早く食べさせてくれたら良かったのに」


 考えてみれば俺がフィーリアに魚を食わせるのはこれが初めてになるのか。

 俺はリアナでは月光館に行ったときには魚を食べていたが、それ以外では見かけることすらなかった。

 初めて食べた魚をうまそうに頬張っている。


 俺自身は肉より魚が好きだというようなことはない。

 せいぜい同じくらいだ。

 だが、リアナにいたときには肉料理が多かったため、リーンに来てから魚を満足行くまで食べられているのはありがたい。

 もっとも、ここにいると魚よりも肉を食べたくなってくる可能性もあるが。


 魚を使った屋台でも、スープ系は魚の骨から出汁を取っているからか、すごく美味しく感じる。

 川魚になるはずだが、あまり泥臭さを感じないのは青河の水が澄んでいるからなのだろうか。

 何杯でもおかわりできるので、あっちこっちをフラフラと食べ歩きしながら河の方へと向かっていった。


 これがあまり良くなかったのかもしれない。

 フィーリアに誘われるままに屋台をはしごして食べ歩いていたら、魔船ギルドの場所がわからなくなってしまった。

 通ってきた道もあまりはっきりしない。


「迷っちまったな。とりあえず、一旦河が見えるところに行ってみようか」


「そうじゃのう。妾は船が見てみたいぞ」


 フィーリアも気楽に答える。

 雪山に飽きて外界へと飛び出したおてんば精霊にとっては、道に迷っても自分の知らないものが見られるのならばそれで十分なのかもしれない。

 俺もまともな時計すらない生活に馴染んできたのか、あまり細かいことは気にならなくなってきている。

 なんとかなるさ、と思い河岸へと向かっていった。


「おおい、あんた! ちょっとまってくれ!!」


 もうすぐ河岸にでる、というところで声をかけられる。

 誰だろうかと思い振り返ってみると、そこには女の子がいた。


 見た目15歳位の女の子だ。

 全身が日焼けしているのか、夏休みに毎日プールに行ってた子どものような肌の色をしている。

 髪の毛は薄い紫色をしているのだろうか。

 右の側頭部でくくっており、サイドテールとなっている。

 日本ではお目にかからない色の髪だが、特に違和感を感じることもなく、少女にマッチしている。

 もう季節は秋になってきているというのに、上半身はタンクトップで下は半パンというラフな格好だった。

 胸は若干膨らむくらいで、まだまだこれからに期待といったところか。

 それで、この子は何のようなんだろうか。


「こんにちは。何か用かな」


「え? ああ、こんにちは。用があるのはあんたじゃないよ。そっちの白いのだ。その子は精霊だろ? それも人型の。頼む、力を貸してほしいんだ」


 俺じゃなくてフィーリアに?

 それも高位精霊だと分かって頼み事をしているみたいだ。

 ベガのように悪事をしそうな子には見えないが、別に付き合う必要もないように思う。

 ここは断っておくか。


「妾に助けを求めるか。良かろう。このフィーリアに任せるのじゃ。お主の名はなんというのかの?」


 と思ったら、俺が断る前にフィーリアが返事をしてしまっていた。

 こいつ、内容も聞かない内から助けるとか言うなよ。

 フィランに行くのが遅れるだろうが、と心のなかで思うものの、精霊祭などで遅れても何も言ってこなかったことを思い出した。

 1日でも急ぐというわけでもないから、無茶な要求でさえなければかまわないか。


「カミュだよ。私の名前はカミュっていうんだ。やった―。ありがとう。これでなんとかなるかも」


「ちょっと待って、俺とフィーリアは旅の途中なんだ。あまりにも時間がかかる手伝いは難しいかもしれない。助けてほしいことが何なのか説明だけでもしてほしいんだけど」


「ごめんごめん。つい、嬉しくってさ。手伝いの内容だよね。簡単なことだよ。船を動かすのを手伝ってほしいんだ」


「船? 船ってのは魔船ってやつのことか?」


「そうそう。魔船は魔力で動くんだよ。基本的には魔石を使うんだけど、その魔石の代わりに精霊の力を借りたいんだ。目指せ、青河杯優勝!!」


「青河杯ってのは何だ? 魔石代わりってフィーリアに危険はないのか?」


「危険なことはないから安心して。他にも水精アクアスピリットに協力してもらっている人なんかもいるからね。青河杯っていうのは、2週間後にある魔船のレースなんだ。私はここで優勝しなきゃいけないの」


「レースというのは競争するのかのう。面白そうじゃ。妾に任せるが良い。大船に乗ったつもりでいるといいのじゃ!」


 カミュと名乗る女の子のことが気に入ったのが、フィーリアはノリノリだった。

 2週間くらいなら日程が変わっても問題ないか。

 そう思いながら、俺ははしゃぐ2人を見つめていた。

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