マッサージ
リーンの街中にある宿の中でもそこそこいいレベルのところへやってきた。
一泊するだけでも1000リルするので、リアナのマールちゃんのところの4倍もすることになる。
これはライラさんたちの冒険者パーティーに勧められた宿だ。
報酬の高い仕事が終わったときにはいい宿に泊まる。
これは心と体をリフレッシュする意味もあるが、しっかりとした防犯設備があるところに泊まるという意味でもあるらしい。
この宿には壁にめり込むようにして、金庫が備え付けられていた。
もっとも、部屋の広さは6畳くらいだ。
ベッドが置かれていて、机や椅子などもある。
俺は懐に隠し持つようにしていた革袋からミスリルのインゴットを取り出して机の上に置いた。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鍛冶】
鍛冶スキルをペイントしてから何を作ろうかと悩む。
やはり武器だろうか。
防具は大蛇のラバースーツを作っているので、以前よりも防御力は向上している。
武器でいいものができないものかと、ステータス画面を開いて項目をチェックしていた。
すると、刀のところで気になるものがあった。
ミスリルのインゴットだけではなく、すでにある鬼刀を消費して新しく刀が作れるらしい。
ゴブリンキングと戦った後からずっと使い続けている武器でもあるし、強化できるのならやってみてもいいかもしれない。
そう思って、腰の鬼刀を外して机の上に置き、ミスリルのインゴットと並べる。
そうして鍛冶スキルを発動させた。
ミスリルと鬼刀が光り、その後、1本の刀が残された。
見た目は鞘や柄などには変化がない。
そこで、刀を手にとって柄を握り、スッと引き抜く。
以前の鬼刀であれば抜くときには、ヌラリ、という粘り気を感じていた。
だが、この刀にはそのような印象を受けない。
何の抵抗もなく、まるではじめから鞘に入っていなかったかのように引き抜かれていた。
刀身に浮かび上がる刃紋は以前と同じように深い緑色をしている。
だが、それ以外の部分はほんの少し青みがかった色をして、さらに微妙に光を放っているようにも見える。
見る角度によっても光具合が違っているのか、パッと見て刀身の長さや太さ、厚さなどがわかりにくいような気がする。
しかし、不思議と引きつけられるような色気を刀に感じる。
これはいいものができたに違いない、という確信があった。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】
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種類:鬼王丸
アビリティ:力30%UP・魔刀
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鑑定眼で調べてみると、鬼刀から鬼王丸へと種類が変化していた。
もしかして、ゴブリンキングの素材を使った武器としてはこちらのほうが正しいのだろうか。
鉄で作った鬼刀は不完全な形での刀だったのかもしれない。
魔刀とはなんだろうか。
そう思い、魔力を刀に預けるように流し込んでみる、というイメージをした。
すると、この方法で正解だったようだ。
それまでは青と緑の2色があった鬼王丸だが、魔刀を発動すると全体が青色の光を放ち刀身を包み込んでいる。
試し切りをしていないが、おそらく切れ味なんかが向上しているのではないかと思う。
もしも、こいつを売ったらすごい値段になりそうだなと思ってしまった。
「ヤマト、いるか? 入るぞ」
俺が鬼王丸を眺めてニヤニヤしていると、ドアがノックされライラさんが入ってきた。
どうしたんだろうか。
「どうしたんですか? ひょっとして今から冒険者ギルドに行くとか?」
「いや、それは明日にでも行けばいいだろ。それより例の約束のことだよ。いいことしてやるって言ってただろ」
ニカッと笑いながらライラさんがいう。
宿の部屋でやるということなんだろうか。
例の「いいこと」と言うのは。
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「ライラさん、そこ……気持ちいいです……」
俺はベッドの上に寝転がって、声を上げる。
値段が高い宿だけあり、結構良いベッドを使っていた。
そのベッドの上で俺の体の上に座り込むようにしてライラさんがいる。
革鎧を脱いでいるライラさんは、その肉厚の大きなお尻を俺の腰の上にのせて体を動かしていた。
「どうだ。ここが気持ちいだろ」
「はい、すごくいいです」
もっとも、いやらしいことをしているわけではなかった。
俺はうつ伏せに寝転がり、ライラさんが背中を押してくれている。
いわゆるマッサージというやつだ。
期待させといて結局そんなオチかよ、と思ったがいざライラさんのマッサージを受けると納得した。
すごく上手で気持ちいいのだ。
確かにお礼として受けてもいいくらいであるとは思う。
「どうだい、あたしのマッサージは。普段なら絶対に男にやってやることはないんだけどね」
「そうなんですか。すごい上手だからやって欲しがる人も多いかと思いますけど」
「あたしは亡くなった旦那に操を立ててるのさ。男は狼だからね」
まじかよ。結婚してたんかい。
と思ったが、この世界で20歳代後半くらいに見えるライラさんが結婚していないほうがおかしいか。
「知りませんでした。結婚されてたんですね。子どもさんはいるんですか?」
「いや、子どもは小さいときに亡くなったのさ。その後に旦那もいなくなったから、気ままな一人暮らしさ」
マッサージで体全体をフニャフニャにされながら話を続ける。
ライラさんは冒険者を長年やっていたから体に傷がついているところはあるが、顔立ちは整っていて美人だ。
言い寄ってくる人もいそうだけど、よっぽど旦那さんを愛していたんだろう。
「はい、終わりだよ。気持ちよかったろ」
「ありがとうございます。お礼に俺もライラさんにマッサージしてあげますよ」
「別に気にしなくていいさ。こっちが黒苔茸のお礼でやったんだから」
「いえ、遠慮せずに受けて下さい」
そう言って、俺はくるりと体の向きを変えた。
俺の上に乗っかっていたライラさんはあっという間に体の位置が変わる。
今度は俺がライラさんの上に乗っかるようになっていた。
「ちょ、ちょっと。何してんだい。やらなくていいから」
「大丈夫。安心して下さい。俺もマッサージは上手なんで」
――ステータスオープン:ペイント・スキル【性技】
そう言いながら俺は【性技】スキルをペイントした。
マッサージをするためのスキルというものはないのだが、体を触るためのスキルは一応ある。
女性特有の器官に触れなければわからないだろうから悪いことじゃないよね?
「じゃあ、マッサージしていきますよ」
「ちっ、強引だな。まあいい。そこまで言うならやってもらおうか」
ライラさんから言質を取ったので、全身をマッサージしていく。
「おい、ちょっと待って……あん……変なとこ触るな……んん……」
「変なところは触ってないですよ。あー、でもここコリコリになってますね。ほら、どうですか。気持ちいでしょう」
「ん……気持ちいけどこれほんとにマッサージか? 触り方がやらしいんじゃないか」
「そんなことないですよ。力を入れずに体をほぐすマッサージですから。ほら、こっちはどうです?」
「あっ……そこいい。きもちいいよ」
「そうでしょ。じゃあ、次は下もやっていきますからね」
「んん……ふーふー……ああ、いい、あっそこ」
「はいはい、あんまり体動かさないで下さいね。ここが良かったですか。ならもっとここをやりますからね」
このあとめちゃくちゃマッサージした。
終わったころには太陽の傾きが大きく変わっていて、ライラさんは全身汗塗れで気を失うようにベッドで眠り込んでいた。
「いいこと」をしたつもりだったが、ちょっとやり過ぎだったかもしれない。




