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毒沼

 リアナの東門を出て街道を歩く。

 3日ほど歩いていくと、以前盗賊討伐で仮拠点として使っていた宿場町についた。

 ここから南東方向へ行くと荒れ地地帯にカルド遺跡があり、さらにそこから南へ進むと毒沼がある。

 おそらく、日本のように道路整備されて車があればもっと早く来られるのだろう。

 徒歩が基本のこの世界では、何か欲しいものを手に入れるだけでも時間がかかって仕方がない。

 黙々と歩き続けて、リアナを出てから6日目にして、ようやく毒沼が見えてきた。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【毒耐性】


 【毒耐性】スキルをペイントする。

 毒沼は遠くから見るだけでも明らかに体に悪そうな場所だと言うことがわかった。

 若干紫がかった沼がいくつもあり、さらにその場所の空気は淀みに淀んでいる。

 毒々しい色の付いたスモッグがあたりを充満しているように見える。

 よくもこんな場所が存在するものだと呆れてしまう。


 スモッグによって毒沼を遠くまで見通せないのだが、不思議な事にそれなりに木々が生えているようだ。

 木は高くとも3mほどのものがあり、その他にはシダ系の植物が見える。

 また、ここからでは確認できないが、それなりにモンスターもいるらしい。

 特に危険であるとされているのがオロチだが、その他にも毒に強いモンスターがいて、ここをねぐらとしている。

 冒険者ギルドで聞いた限りでは虫系モンスターや水棲モンスターがいるらしい。


 毒沼が見えるところまでやってきたものの、この日は浄化草を採取しには行かなかった。

 天気が曇りだったからだ。

 浄化草は太陽の光があたると、あたりの空気をきれいにしてくるらしい。

 多分光合成でもしているのだろう。


 だが、今日のように曇りだと、先が見通せないようなスモッグ状態になる。

 太陽の光が雲に遮られて浄化が追いついていないのだ。

 浄化がもっとも活発に行われるのは、快晴で太陽の光が強くあたるときだ。

 俺とフィーリアは近くにテントを張り、快晴の日がくるのを待つことにした。




 □  □  □  □




 ……ズズズズズズ


 俺の視界の先で大きな体をしたモンスターが動いている。

 大量の血を浴びて固まったのかと思うくらいの赤黒い体表をしている。

 手足はない。

 大きな口にしっかりとした牙、そして6〜8mはありそうな全長。

 それがクネクネと動きながら水面を泳いでいた。


 それはオロチと呼ばれるモンスターだ。

 毒の牙や毒液飛ばしといった攻撃をしてくるモンスター。

 かつてカルドという街が滅ぶ決定打となった毒モンスター。

 そいつが俺の視界の中にいる。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 種族:大蛇オロチ

 Lv:61

 スキル:毒耐性


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 毒沼の一番端にまでやってきていたので鑑定眼を使って見た結果がこれだった。

 泣きたくなってくる。

 Lvが高すぎだろう。

 スキルは毒耐性しかないが、毒の攻撃はスキルには含まれていないのだろうか。


 とにかく、俺は毒耐性スキルをペイントしなければ、毒沼には行けない。

 だが、戦闘系スキルなしではコカトリス1匹をまともに相手にできないのだから、オロチに勝つと言うのは不可能だろう。

 遠目からみていると、オロチが毒蛙ポイズントードを餌にして食べてしまった現場を見ることができた。

 それまでは遠くにいたにも関わらず、体をクネっと動かしたらあっという間に毒蛙に噛み付いており、絶命させた。

 深々と刺さった牙のそばからは、毒蛙の体液が流れ落ちている。

 あの太くて鋭い牙ならばゴブリンキングの革鎧でも、確実に貫いてくる気がする。

 見つかったら即終了といったところか。

 これはもう、俺の力ではどうしようもないかもしれない。


「お願いします。フィーリア大先生。あなたのお力を俺に貸してください」


「ウムウム。ヤマトはか弱い人間だからのう。そこまで頼むのであれば妾の力を貸してやろうではないか。わっはっは」


 恥や外聞などというものはない。

 俺は大蛇を鑑定したあと、テントに戻ってフィーリアに助力を要請した。

 ペコペコと頭を下げてやると、フィーリアは面白いくらいニマニマしている。

 コカトリスのときは無視して放置していたら機嫌が悪くなっていた。

 人に頼られるのが嬉しいんだろうか。


「フィーリアは毒にもならないのか。精霊の体ってのは便利なんだな」


「根本的に人間とは違うからのう。精霊というのは自然そのものじゃ。特に妾のように人語すら理解できる高位の氷精ともなれば、荒れ狂う極寒の吹雪が人間の形態を取っているようなもんじゃな。吹雪が毒や石化なんぞなるわけなかろう」


 なるほどな。

 初めて会ったときに戦ったが、いくら刀で切り倒しても死なないように見えた。

 その時は精霊というのは不死身かと思った。

 だが、今の説明を聞く限り、俺は吹雪を相手に刀を振るって対抗していたのか。

 勝つとか負けるとか言う以前の話だったんだな。


「でも、フィーリアは長年雪山に帰ってないから弱体化しているんだろう? 今は極寒の吹雪って表現できるほどの力がないんじゃないか?」


「そうじゃな。軽く吹雪く程度の力と言ったとこじゃな。弱体化は深刻じゃ」


「それなら、危険をおかす必要はないな。大蛇はなるべく相手にしないようにして、浄化草だけを狙ってみよう」


「別にそれでも構わんが、そんなことが可能かの?」


「わかんないけど、ちょっと考えはある。それを試してみよう。ダメだったら、フィーリアには大蛇と戦ってもらわないといけないから、よろしくな」


「ふふふ、任せるのじゃ。大船に乗ったつもりになるがよい!」


 フィーリアのやる気は十分だ。

 後は晴れの日を待って、作戦を決行するだけだな。




 □  □  □  □




 毒沼に到着してから数日が経過した。

 今日、ようやく待ちに待った快晴になった。

 おひさまの光が燦々と降り注いでいる。

 日が昇るに連れて太陽の光を受けた浄化草が空気清浄を始める。

 お昼前になる頃になると、それまでは視界を遮っていたスモッグが殆どなくなっていた。


 これなら行ける。

 そう判断した俺はフィーリアと一緒に毒沼に浄化草を探しに行く。

 目的の浄化草の実というのは見本の絵を確認してきている。

 多分見間違えることはないだろう。

 浄化草の実は、俺の知る瓢箪の形をしていたからだ。


 まだ、夏の暑さが残る季節だが、俺の体は少し寒気を感じている。

 なぜなら、フィーリアに冷気を出してもらっているからだ。

 日本にいたときに、蛇は人間とは違って体温などを感知する器官を持っているという話を聞いたことがある。

 熱源を察知することで獲物を探す蛇は、物陰に隠れていてもその存在を見抜いている。

 それがこの世界の大蛇にも適用されるのかどうかはわからない。

 だが、念のためフィーリアに冷気の結界をはってもらい、こちらの熱を察知されないようにしているのだ。

 これなら、あとはあの巨大な体を持つ大蛇を見逃さないようにして、必要なら隠れるようにすればいい。


 時たま襲ってくる毒蛙や毒蜻蛉などを刀で切り捨てながら進む。

 こいつらは毒沼ではまだましなモンスターと言える。

 だが、沼の中にいる毒ヒルなんかには注意しないといけない。

 間違って足を踏み外し、毒沼に落ちてしまうと体にヒルがひっついてきてしまう。

 体についたヒルは毒を体内へと送り込み、獲物を逃げられないようにしてから血液を吸い出す。

 たまに血を吸いすぎて1m近くにまで膨らんでいるやつがいて、怖いやら、気持ちの悪いやらと嫌な気分になってしまう。

 毒沼は人間の入り込む領域ではないのは確実だろう。


 いくつもの毒沼の淵を歩きながら、瓢箪型の浄化草の実を探し続ける。

 30分がすぎ、1時間近くたつかという頃になって、ようやく発見した。


 50cm〜1mほどの高さの木に、瓢箪がついている。

 木の下は沼ではなくしっかりとした地面だ。

 そして、この木の周りはほかと比べても空気がキレイなように感じた。

 この場で鑑定眼を使うわけには行かないが、これが浄化草に間違いないだろう。


 さっそく採取を開始する。

 とりあえず、幾つかの実を枝ごと切り取って確保する。

 さらに若木を中心に、持ち帰って育てるための浄化草を入手した。

 丁寧に梱包して、背中の背負子に固定して採取完了。


 目的のものを手に入れたので、気分良く帰路についた。

 だが、「家に帰るまでが遠足です」とはよく言ったものだ。

 俺はその帰路で大蛇に襲われてしまった。

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