ガスマスク
今後もコカトリス討伐を、と言われても非常に困る。
コカトリック薬が実際に特効薬として有効であるのかどうかにもよるのだが、今はとりあえず有効であると仮定しておこう。
その場合、今後俺がいなくともコカトリスを安定的に狩れるようになっていなければならない。
あるいは、俺がいなくなるまでに慢性全身硬化病の患者を1人たりとも存在しないくらいにするとか。
どう考えても後者は無理だろう。
ここはやはり、一般冒険者がコカトリスを狩れる攻略法の1つでも見つけておかないと。
コカトリスは石化ブレスさえなければそこまで無茶苦茶な強さのモンスターというわけでもなかった。
複数体のコカトリス相手であっても、冒険者側も複数でパーティーを組んで、盾持ちを入れればいいと思う。
基本的には狭い岩の通路なので、少し大きめの盾を前に出しておけば、コカトリスの攻撃を防ぐことができるはずだ。
コカトリスの鳴き声での仲間を呼ぶ行動は考え方によるか。
少数の冒険者パーティーならたくさんのコカトリスが休む暇なく集まってきてしまうと死ぬリスクが高まる。
だが、最初から呼び寄せるつもりであるなら、ある意味、釣り出して大量に狩ることもできる。
パーティーの数を多めにしておけば対応可能だろう。
やはりそう考えると石化ブレスを防げるかどうかが鍵になる気がする。
「リリー、ちょっといいか。コカトリスの石化ブレスを防ぐ薬みたいなものとかは存在しないのか? 戦闘前に飲んでおけば石化しない薬があればいいんだけど」
「ん〜〜。聞いたことがないかな。商工ギルドの資料にはなかったと思うよー」
薬で防ぐのは難しいか。
なら他に方法はないかな?
そういえば、石化ブレスは吸い込まなければ大丈夫なんだっけ?
「リリー、石化ブレスは吸い込まなければ大丈夫だったっけ?」
「うん、そのはずだよ。昔からある資料ではそういう記述がたくさんあるんだー。スタンピードが起きたときにコカトリスに石化されるモンスターとされないモンスターがいるの。それを調べた人がいて、呼吸をするモンスターが石化して、呼吸しないのは石化していないから、吸い込まなかったら平気なんじゃないかなー」
なるほど。
先人の知識がちゃんと残ってあるのね。
となると、薬以外での方法は、呼吸からの吸入を防ぐことか。
マスクとかしたらいけたりするんじゃないだろうか。
「マスクみたいなもので防ぐのはダメなの? 口と鼻を覆うようにする布みたいなものでさ」
「マスク? スカーフを顔に巻くような感じかなー。確かそれは効果なかったって資料にあったよー」
リリペディアさんの知識量がすごい。
質問すればなんでも返事が来るな。
マスク系はだめか。
まあ、あれは自分の咳とかが他にとばないようにするのが本来の目的だったっけ?
他に石化ブレスを吸い込まないようにするにはどうすべきか。
マスクがダメなら、ガスマスクみたいなやつはどうだろうか。
シュコーシュコーとガス交換できるボンベでも背負っていくとか。
ないかな?
「なら、布で顔を覆うんじゃなくて、金属かなんかで頭まるごとガードするのとかはどう? 上手いこと中で息切れしないようにできるようにすれば、なんとかなるんじゃね?」
「えー、頭をすっぽり覆うってこと? 絶対変だよー」
「いや、コカトリスが倒せるなら見た目が変でもいいでしょ」
「うーん。密閉空間でも呼吸できるようにするってことだよね? そんなのできるのかなー」
できるかどうかは知らないが、地球では存在する。
何しろ宇宙でも行動可能なんだから。
頭だけじゃなく、全身ガードでも良いかもしれない。
あ、けどそれだと戦えないか。
そう思っていると、カーンさんが助け舟を出してきた。
「ようするに、一時的に呼吸できればいいってことだろ? それなら毒沼にある浄化草が良いんじゃないか?」
「あっ、浄化草かー。ウンウン、それいいかもー」
「毒沼? 浄化草? なんですかそれは」
「人体に影響のある毒液でできた沼があるんだよ。そこに生えている草に浄化草っていうのがあってな。まあ、草というよりは背の低い木みたいなもんなんだが、そこに実がなるんだよ。その実が使えるかもってことだな」
「浄化草の実ですか。何か特徴のあるものなんですか?」
「ああ。毒沼は沼自体だけじゃなくて空気も悪いんだよ。で、その浄化草ってのは太陽の光にあたっている間は周りの空気をきれいにしてくれるのさ。その時、一部のきれいな空気を実の中の空洞にためといて、太陽の光のない夜の間は、実の中の空気を使って呼吸するらしい」
「ようするに浄化草の実の中はきれいな空気が詰まってるってことだよー。それを用意しておけば頭を密閉しても大丈夫じゃないかなー」
おお。
そんなもんがあるのか。
ようするに酸素ボンベみたいな実をつける植物があるってことでいいよな。
確かにそれなら問題なさそうだ。
「なら、それでガスマスクでも作ってみようか。うまく作れれば誰でもコカトリスを倒せるようになるかもしれないし」
「そうだな。それなら毒沼に行ってきてくれ」
「……え? どこにあるの? ていうかわざわざ取りに行かなくても買えばいいんじゃ」
「浄化草の実なんかほしがるやつはいないさ。それに毒沼に行く冒険者もほとんどいないしな」
「ダメじゃないですか。結局俺が取りに行かないと成り立たないなら、あんまり意味がないんですけど」
「浄化草そのものは持ち帰って鉢植えにでも植えてれば増やせるだろ。問題は毒沼のほうなんだがな。カルド遺跡は知っているだろ? あそこから南に行くと毒を吐くモンスターがいる。そいつが住んでるのが毒沼なんだわ」
あれ?
どっかで聞いた話だな。
確か、カルド遺跡が昔滅んだのはスタンピードが原因で、さらに毒持ちモンスターに畑までめちゃくちゃにされたからじゃなかったっけ。
そいつがいるのが毒沼なのか。
「そのモンスターの名前はオロチ。大きな蛇のモンスターで、毒牙や毒液を吐いたりするらしい。かなり手強いモンスターだから、そいつは避けて浄化草だけを持って帰るようにしろ」
なんかすごそうな名前のモンスターだな。
スキルの中には【毒耐性】もある。
毒沼に行くことは大丈夫だろう。
だけどやっぱり戦闘系スキル無しでモンスターと戦闘にならないほうがいいだろうな。
コカトリスは走って逃げ切れたけど、オロチは名前からなんとなく素早さが高そうだし。
まあ、リリーがコカトリック薬の調合方法を調べるのにも時間がかかるだろう。
その間の時間を有効利用する意味もこめてガスマスク作りでもしてみようか。
よし、そうと決まれば次は毒沼へと行ってみよう。




