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コカトリック薬

 コカトリス4匹を無事に狩る事ができた。

 最後は運が良かった部分もあったが、とりあえず攻略法はつかめたような気がする。

 まあ、石化耐性がなかったらかなりきついのだが。

 まさかコカトリスの断末魔がかなり距離の離れた個体にまで聞こえるとは思わなかった。

 モンスターは個体として強いやつも怖いが、ああいう風に仲間を呼び寄せるタイプのモンスターもかなり怖いと思う。

 数が多くなると言うのはそれだけ脅威になるというのは間違っていないように思った。


 コカトリスの死体は岩場を出て、森に来た段階で解体することにした。

 【解体】スキルを発動させて解体してみると、砂肝以外にもくちばしやもも肉などが手に入るみたいだ。

 このもも肉がかなり美味しい。

 【料理】スキルで作った、コカトリスのもも肉を使用した唐揚げは、一口噛むとジワーと濃厚な肉汁が溢れてくる絶品料理となった。

 しかし、普段食べている食事が岩だからか、あまり肉の臭みはない。

 高級鶏肉として品種改良でもされたのかというレベルだ。

 フィーリアと一緒に唐揚げをぱくつきながら、リアナへ戻っていった。




 □  □  □  □




「リリー、いるのか? 入るぞー」


 そう言いながら鍵のかかっていないドアノブを回して家に入る。

 相変わらず不用心なお宅だ。

 2日かけてようやくリアナへと帰還した俺は、リリーの研究所へとやってきた。

 一応声だけかけてズカズカと踏み込んでいく。

 1階などの居住空間には気配がないため、おそらく地下室にいるのだろう。

 再び、隠し扉を開けて階段を降りていった。


「リリー、入るぞ」


 そう言って地下室の扉を開けると、リリーの他にも人がいる。

 あまりリリーの研究所に人がいないため、珍しいと言えるだろう。

 だが、それは俺も知っている人物だった。


「ヤマトか。戻ったのか」


 そう言って声をかけてきたのは若くして商工ギルドの部長を務めるカーンさんだった。

 リリーは調合師としては類稀な才能を持つが、いかんせんまだ子どもだ。

 カーンさんはリリーが商工ギルドに入ったときに上司兼保護者としての立場に治まっているらしい。


「カーンさん、こんにちは。どうしたんですか? こんなところで」


「こらー! ヤマトっち、こんなところってなんだー」


 俺の言葉を聞いてご立腹のリリーが飛びかかってきてポカポカと俺の胸を叩いている。

 小柄な女の子であるリリーに叩かれても痛くはないが、謝っておこう。

 彼女にとってここは自分の城であり、居場所なのだから。


「ごめん、ごめん。悪気はなかったんだよ。謝るよ」


「うー。なら、また美味しいご飯作ってもらうんだからね!」


「なにじゃれ合ってんだ、お前ら。それよりヤマト。特効薬のことはリリーに聞いた。コカトリスの砂肝が必要なんだってな」


「らしいですね。リリーがすでに資料を読んでいたみたいです。冒険者はコカトリスを取りに行かないって言うんで、わざわざ行ってきましたよ」


 どうやらカーンさんは特効薬についてのことを話にリリーの研究所までやってきていたみたいだ。

 事情を知っている人でもあるしこのまま話を進めてしまおう。

 そう思って、俺は背中の背嚢からコカトリスの砂肝を取り出した。

 ご機嫌取りの料理は唐揚げでも食べさせてやれば満足することだろう。


「おおー、さっすがヤマトっちだね。もう取ってきたんだ」


「なに? おい、ヤマト。お前はコカトリスを倒せるのか。石化はどうやって防いだんだ」


「あー、なんというかフィーリアと協力して、みたいな……」


 石化を防ぐ方法なんか知らない俺には答えにくい質問をしてくる。

 ついとっさにフィーリアを巻き込んだ嘘をついてしまった。

 俺の体の中にいたフィーリアが「フンッ」と鼻を鳴らしてそっぽを向く気配を感じる。

 いや、体の中にいるからそんなことできないとは思うのだが。


「そんなことどうだっていいよ。それより早く調合しようよ」


 俺の適当なごまかしにカーンさんは不審そうな顔をしているが、それをリリーの一言が遮る。

 とにかく早く調合をしてみたいというリリーの声を受けて、実際に作ってみることになった。


 研究所にある幾つかのテーブルの内、一番テーブルが散らかっていない物を選んで、みんなで囲む。

 俺がコカトリスの砂肝をテーブルに置くと、リリーがその他の準備を始めた。


 本来の特効薬は岩蜥蜴の胆石と砂漠の花で作った薬を使用するらしい。

 だがリアナではそれらの素材は用意できない。

 そのため、岩蜥蜴の胆石はコカトリスの砂肝で代用する。

 そして、砂漠の花で作った薬はポーションで代用するらしい。


 俺の【調合】スキルを使うのならば薬草があればポーションが作れる。

 だが、普通の調合師は薬草だけでポーションを作ることはない。

 俺のポーションと同じ性能を引き出した新ポーションを作ったリリーだが、そのときは3種類の薬草と何かの樹の実、そして蒸留水を使って丁寧にすりつぶしたり、温度調整をして完成させたらしい。

 スキルで一瞬にして作れるため、俺はそんなに多くの素材が必要なのかと驚かされたものだ。

 それらのポーション素材をリリーが用意し終えた。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【調合】


 今回、特効薬を作るのは俺だ。

 調合スキルをペイントし、ステータス画面を開く。

 材料となる素材を並べ終えた状態で、ステータス画面に表示されている調合の文字をタップすると、そこから作ることが可能な薬の一覧が現れた。


 ――コカトリック薬


 一覧の中でコカトリスの砂肝を使う薬はこれだけだ。

 これでいいんだろうか?

 残念なことに作る前にどのような効果があるのかわからない。

 だが、調合スキルで作れる以上、毒にも薬にもならないということはないと思う。


「ここにある素材で作れる薬でコカトリック薬ってのがあるみたいだ。とりあえず、こいつを作ってみようと思うけど良いかな?」


 リリーに向かって尋ねると、コクコクと首を縦に揺らして頷いている。

 早く作れと言わんばかりだ。


「よし、それじゃ作るぞ」


 そう声をかけてからスキルを発動させた。

 いつもと同じだ。

 素材がパーっと光って、次の瞬間には薬が完成している。

 緑色の瓶に詰められた薬だった。


「これが、特効薬か。あっさりと作るもんだな」


「いえ、これはコカトリック薬という名の薬ですが慢性全身硬化病に効くかは試してみないとなんとも言えないですよ」


 俺とカーンさんが話し始める。

 だが、リリーはその間もずっと薬を眺めていた。

 そして、なにも言わないまま数分が経過したときにガッと目を見開きこちらに声をかけてくる。


「ヤマトっち。他の素材はちょうだい。私も作りたい!」


「素材はいいけど、作り方とかわかったのか?」


「うーん、多分なんだけどポーションの作成途中でコカトリスの砂肝を漬け込むのが良いんじゃないかな? 漬け込む時間とかは何パターンかで試してみたいんだ」


「なるほど。漬け込むのか。じゃあちょっと時間がかかりそうだな」


 相変わらず、なんでそんなことが分かるんだろうか。

 ただ、この段階でリリーが薬を作れるかどうかははっきりしない。

 とにかく、思いついたことを試してやってみるということになる。

 薬の普及には調合方法の特定が必須だから、なんとしてもリリーには頑張ってもらわないと。

 美味しい料理を作ってやらねば。


「ふむ。リリーの調合は置いておいて、このコカトリック薬が慢性全身硬化病に効くかどうかの確認が必要か。実際の患者にでも飲んでもらうしかないだろうな」


 カーンさんがそう言う。

 確かに確認しないと効果がわからないから人体実験が必要だな。

 最初は特効薬を作ったらアイシャさんに飲んでもらうつもりだったけど、やめとこう。

 安全かつ確実な薬ができてからのほうがいいだろう。


「まあ何にせよ良かったな。これで特効薬について一歩前進したといえるだろう。これからもコカトリス狩りは頼んだぞ、ヤマト」


「……は? いや、俺がわざわざ取りに行かなくても他のやつに頼んでくださいよ」


「なにいってんだ。ほかの冒険者だと石化ブレスで石像になっちまうだろうが。お前しかコカトリスの相手ができないんだから、お前が行くしかないだろう」


 いやいや。

 俺は来年になったらこの世界からいなくなってるんだって。

 そんなコカトリス担当冒険者みたいに言われても困る。


 そういえば、薬を作ったはいいがクエスト達成にはなっていない。

 もしかして、達成条件の「治療法の確立」っていうのは、俺がいなくなった後でも特効薬を作れるようにしないといけないんだろうか。

 これどうしたらいいんだ?

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