表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/116

商工ギルドでの話

 月光館で支配人から慢性全身硬化病のことについて聞くことができた。

 だが、現状では対処法がまだはっきりとしない。

 少しでも手がかりになる情報を求めて、テクテクと歩いていた。


 俺が向かったのはリアナの中で東門のほうだ。

 リアナは北が貴族街、西が冒険者などがある。

 そして、リアナから見て東に交易都市リーンがある関係からか、東門近くには商売人が集まっている。

 東門から中に入って少し行ったところには、商工ギルドもあるのだ。


 商工ギルドと言うのは、商人と職人によって作られたギルドだ。

 職人が作ったものを商人が売る。

 この流れがスムーズに行くようにギルドが作られたという経緯があるが、他にも理由がある。

 リアナでは職人たちの技術は親から子へと受け継がれていく。

 その為、基本的には家族経営の個人事業主みたいな形になっているのだが、その分立場は弱い。

 もし、何かがあって一度に多くの職人たちが経営破綻に追い込まれてしまうと、その業界が一気に壊滅してしまうこともありうるのだ。

 そこで、商工ギルドは職人が明らかな不利益を被らないように守り、基本的な技術などは資料に残して後の世へと受け継がれるようにしている。


 なぜ俺がそんなことを知っているのか。

 それは俺が一度、薬屋を壊滅の危機に陥れてしまいかけたからだ。

 ゴブリンキングを倒した後のお金稼ぎとして薬草からポーションを大量生産し続けていたとき、リアナの薬屋はすごいピンチだったという。

 なぜなら、俺のポーションは普通のものよりも少し性能が良かったようで、毎日作って冒険者ギルドに買い取りしてもらっていたため値段も安くなってきていたからだ。

 このままではポーションの相場が値崩れを起こす危険があるとされた。

 最終的には、放置できないと判断した冒険者ギルドと商工ギルドが合同で話し合いをして、俺からの買い取り制限をすることになった。


 そういうわけで、そのときに商工ギルドの人たちと知り合う機会があった。

 今、その商工ギルドの建物にやってきた。

 多くの商人が出入りしている。

 入口の近くには馬車が通る道もあり、奥に行くと非常に大きな倉庫がいくつもある。

 中へ入ると受付のカンターの他にも、商談スペースや話を聞かれたくない人用の密談スペースの部屋などがいくつもある。

 俺は受付へと近づいて行き、声をかけた。


「こんにちは。カーンさんはいますか? ヤマトが来たと伝えてください」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 受付嬢が席を立ち、人を呼びに行ってくれた。

 しばらく待っていると、奥の扉が開き、若い男性が近づいてくる。

 年の頃は25歳前後でくすんだ茶髪をした長身の男性。

 商工ギルドの部長であるカーンさんだ。

 まだ若いのにもかかわらず、有能であり、将来はギルドマスターになるのではないかと噂されているらしい。


「なにをしに来たんだ。もう宝石は買い取れないぞ。ポーションの買い取り制限も変更はできないからな」


 開口一番に拒否の姿勢を示すカーンさん。

 実は盗賊討伐のときに手に入れた大量の宝石は冒険者ギルドではなく、商工ギルドの方で買い取ってもらっていた。

 一応前からの知り合いということもあり、足元を見て買い叩かれることもなく、なるべく多くの宝石を現金化できたと思う。

 ポーション相場問題のときにもカーンさんと話していたことがあるため、俺は商工ギルドに話に来るときは毎回カーンさんを通すようになっていた。


「こんにちは、カーンさん。ポーションのことではないんですけど、薬について知りたいことがありまして。慢性全身硬化病の薬について教えてもらえませんか?」


 俺の言葉を聞いて、少し時間がかかると思ったのか密談スペースへと移動することになった。

 外からは話の内容がわからないように防音の部屋である密談スペースへカーンさんの跡をついて行き、入った。

 部屋に入ると対面に座り、話し始める。


「慢性全身硬化病の特効薬は今は在庫はない。今後の入荷についてもわからん。ほしければ予約をしておくしかないな。お前、感染でもしたのか」


「いえ、俺は大丈夫ですよ。ちょっとその薬について知りたくなっただけです」


「ふん、知りたい理由を当ててやろうか。どうせ冒険者ギルドのアイシャが関係しているんだろう?」


 話し始めてすぐにそう言われる。

 まさにその通りなので驚いてしまった。

 なんで分かるんだ?


「アイシャに惚れるやつは多い。そしてあいつが病気だってことがわかると、自分が薬を手に入れてやろうってやつもそれなりの数がいるのさ。お前もアイシャと仲良かったろ。理由なんざすぐに分かるさ」


 なるほどな。

 考えてみればそういう人がいても全くおかしくはない。

 薬を手に入れてあわよくばアイシャさんを振り向かせたいという下心もあるんだろう。


「今までそんな人がいたんですね。なら、なんでアイシャさんはまだ病気なんだろう。そんなに高いんですか、その薬って」


「高いな。それに手に入りにくい。キャラバンが1年かけて買い付けに行っても、無事に持ち帰っても劣化して効果のないやつまであるくらいだ。そもそも、最近は買い付け自体が減ってきているからな。少数が入っても値段は青天井さ」


「そうか、劣化するのか。特効薬っていいましたけど、薬はちゃんと効果があるんですよね?」


「ああ。丸薬を毎日1粒、10日連続で服用する必要があるがな。きちんと飲めば治る。子どもを産んでも無事に育つのは確かだ」


「えーと、遠い異国の地で作られてる薬だって聞いたんですけど」


「そうだ。お前は砂漠って知っているか? 周り一面が全て砂に覆われた場所があるらしい。そこにいるモンスターの素材を使っているのさ」


「砂漠に住むモンスターってことですか。というか、なんでキャラバンの買い付けは減っているんですか? 需要があれば買い付けに行っても儲けが出るでしょう?」


「無理だな。わざわざ行きたがるやつはいない。というか、今買い付けに行っているキャラバンも儲け度外視で行ってくれている連中なんだよ。あいつらが行けなくなったら、下手すると薬が全く手に入らないことになるかもしれないくらいだ」


「ええ? なんでですか? 昔からキャラバンで買い付けに行っていたんでしょう?」


「特効薬の入手について貴族が手を引いたからだ。もともと砂漠まで行くとなるとキャラバンの儲けが減っていたんだ。それでも買い付けに行けるように多少だが補助金がでてたのさ。それが今はなくなってだいぶたつ。商人も自分の儲けが出ないのにそこまでやれない。限界が来てるんだよ」


「補助金が出なくなった。なんでですか? まだ病気の人はそれなりの数いるんじゃないんですか?」


「たしかに数はいるさ。だが、貴族からはほとんど慢性全身硬化病の人間はいなくなっている。特区エリアができて、女遊びをしても病気を防ぐことができるようになったからな。自分たちに関係がなくなってきてから、どんどん関心がなくなってきているんだよ」


 うーん。

 特区エリアができて患者数が減ったけど、特区エリアのせいで薬の買い付けも減っちゃったってことか。

 メリットもあればデメリットもあったってことなんだろう。

 となると、現状の問題は「特効薬の買い付けが無くなる可能性」と「特効薬が高い」、「病人の多くは金が無い」ということになるんだろうか。

 なら解決法は、特効薬が安く、手に入りやすい状況を作るということになるのかな。


「その特効薬って作り方とかはわからないんですか? 砂漠のどんなモンスターの素材を使っているとか」


「ちょっと待てよ。確か、砂漠にいる岩蜥蜴ロックリザードというモンスターの内臓を使っているはずだ。流石に詳しいことまではしらんがな」


「岩蜥蜴ってこのあたりにはいないんですか? いるんなら、こっちで作れば解決すると思うんですけど」


「いなかったはずだ。ただ、特区エリアができる前には薬の研究は盛んに行われていたと聞いたことがある。資料を見ればなにかわかるかもしれん」


「資料が残っているんですか。それなら、もしよかったら見せてもらえませんか。何か手がかりになりそうなものがあるかも」


「お前がポーションを作れるのは知っているが、特効薬のことなんかもわかるのか? だが、調合関連の資料は部外者に見せることができん。そうだな、薬のことならあいつに聞いたほうが早いだろう」


「あいつって誰です?」


「リリーだ。薬についてあいつの右に出るものはいない。それはお前もしっているだろ」


 ああ、彼女か。

 確かに、この世界に来て出会った中で一番すごいと感じたのはハイド教官でもラムダ騎士隊長でもベガでもない。

 天才少女と呼ばれる調合師のリリーだ。

 確かに間違いのない人選だろう。

 それなら、今から行ってこようか。

 天才少女のいるの研究室ラボへと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ