2つのクエスト
アイシャさんが病気。
それも死につながるような病気。
頭の中が真っ暗になり、何も考えられなくなってしまった。
急に動かなくなった俺を見て、フィーリアが肩を掴んで揺らしてくる。
「おい、ヤマト。大丈夫か? しっかりするのじゃ」
少し時間を置いて、俺は再起動を果たした。
そうだ、しっかりしないと。
そもそも、どんな病気なのかも知らない。
慢性全身硬化病っていうのはこの世界の病気なのか?
「すみません。ボーッとしちゃって。ミーアさん、よかったらその慢性全身硬化病という病気について教えてくれませんか」
「慢性全身硬化病を知らないのかい? 石化病という人もいるかしら。リアナに住んでいて聞いたことがなかった?」
聞いたことはないように思う。
そもそも、俺自身はこの世界では病気にならないと聞いているので、そこまで気にすることがなかったとも言える。
石化病ということは、体が石になったりするんだろうか。
「いえ、知らなかったです。リアナ生まれってわけでもないので」
「あら、そうなのね。なら説明しようかね。もともと、この病気は昔からリアナの人間がよくかかっていた風土病みたいなものなの。昔と比べたら、今はこの病気にかかっている人の数は減っているのよ。でも、ゼロではないから実際は一定数がいるのではないかといわれているかしら」
なるほど。
昔からある病気だけど、数自体は減少している。
しかし、まだ慢性全身硬化病の人間はいて、アイシャさんはそのうちの1人ということか。
でも、数が減ったんなら薬とかがあるのかな?
「慢性全身硬化病に効く薬ってないんですか?」
「薬はあるはずなんだけどね。ものすごく高いみたい。それにいつでも用意できるわけでもないみたいね。患者の数が減って、余計に手に入らないようになっていると聞いたことがあるそうよ」
「でも、薬はちゃんとあるんですよね。というか、その病気はどうしてなるんですか。体調不良とか、何か悪いもの食べたりとかですかね?」
「慢性全身硬化病になる原因は2つあるのよ。1つは遺伝。親から子にうつることが多いわね。もう1つは性行為でもうつってしまうみたいよ」
まじで?
エッチしたら感染するってことなら性病になるのか?
でも遺伝でもその病気になるのか。
地球でもそういうのってあったけかな。
あんまり、詳しいわけでもなかったしわからないな。
「アイシャは見ての通り、きれいな子でしょう。それにしっかりもしているし。けれど、今まで浮いた話が1つもないの。親から子に遺伝する病気だし、弟がなくなってしまっているから。どうしても本人も一歩引いてしまうのでしょうね」
ああ、そうか。
というか、その流れだとアイシャさんは経験ないんだな。
多分、この世界では結婚適齢期も早いはずだから、病気じゃなければ今の年齢でも結婚してるってこともあり得たのか。
「ねえ、ヤマトさん。アイシャのことなんとかならないかしら。私にとってもあの子は孫みたいなものだから、不憫で仕方がないのよ」
薬か。
娼館で全財産使い切ったのは、かなりまずかったかもしれない。
自分で作ったりできないものだろうか。
そう思ったときだった。
いつか聞いた電子音が頭のなかで鳴り響いた。
――クエストが発生しました
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新たなクエストが発生したことがわかった俺は、ミーアさんとの会話を終えてから、ステータス画面を確認することにした。
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名前:ヤマト・カツラギ
種族:ヒューマン
Lv:1
体力:100
魔力:100
スキル:異世界言語・ペイント
獲得貢献ポイント:30P
受注可能クエスト:氷精の護送・リアナの風土病解決
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ベガ盗賊団を倒してから獲得貢献ポイントは増えて、今は30Pにまで上がっている。
そして、さらに受注可能クエストの項目がある。
それも、2つのクエストがある。
これはもしかして、放置していればどんどん未消化クエストがたまっていくんだろうか。
一応念のためにも「氷精の護衛」を見てみることにした。
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クエスト:氷精の護衛
クエスト条件:氷精フィーリアを雪の街フィランまで送り届ける
クエスト報酬:貢献ポイント+5P
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フィーリアを雪の街フィランまで連れて行くだけで貢献ポイントがもらえるらしい。
もっとも、報酬は貢献ポイント5Pだ。
少し少ない気もするが、どうなんだろうか。
ちなみに特区エリアで仕入れた情報によると、リアナから北の方角にあるフィランは1ヶ月ほどで行けるようだ。
ただし、直接北へ向かうのではなく、一度東にある交易都市リーンを経由して、南北に流れる大きな河を上っていくコースのほうが早くて楽らしい。
まだ時間的余裕があるのと、風呂通いにお熱だったため、今まで放置していたクエストである。
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クエスト:リアナの風土病解決
クエスト条件:リアナにおける慢性全身硬化病の治療法確立
クエスト報酬:貢献ポイント+50P
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次はリアナの風土病解決というクエストの詳細を見てみた。
最初は見間違えたのかと思ってしまった。
クエストを達成したときのポイントが50Pもある。
かなり多い。
アイシャさんの治療ができるのであれば、たとえクエストではなくてもやっていたと思う。
だが、それにしてもここまでポイントが高いのであれば放置するという選択はありえないだろう。
フィーリアには悪いが、たとえどれだけ時間がかかったとしてもこっちを優先することにしよう。
「悪いな、フィーリア。俺はこれから慢性全身硬化病って病気について調べてみるよ。もしかしたら、時間がかかるかもしれない。その時は、俺じゃなくて誰か別の人にフィランまで連れて行ってもらってくれないか」
「なんじゃ、そんなこと心配する必要はないぞ。弱体化しとるとは言え、自分のことは自分でできるのじゃ。妾を気にせず、好きなようにやればよい」
ニカッと笑いながら答えるフィーリア。
こいつがおおらかな性格で助かった。
できれば、連れて行ってやりたいな。
俺も氷の女神像ってやつが見てみたいし。
よし、何はともかく情報収集だ。
ミーアさんも一般的なことは知っていても、詳しいことまでは知らないようだった。
ならば、知っている人のところに行って、聞き込みをしよう。
食事を終えた俺はその足で目的地へと向かって歩き出した。
(注)作中に登場する病名はフィクションであり、現実の病名や病理とは一切関係がありません。




