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初体験

「ルナはいいぞ。まだ働き出して2年ほどだが、すでに三日月になっている。もう少しすればさらにランクも上がると言われているくらいだ」


 月光館で娼婦として働くのは何歳くらいからなんだろうか。

 黒髪だからか日本人を連想しそうだが、顔自体は西洋人形のようで、ぶっちゃけ歳がよくわからない。

 俺と同じか、少し上くらいにみえる。

 それにしてもすでに三日月ということは、ルナは月姫になるのか。

 特区エリア内にはたくさんの高級娼婦と呼ばれる人がいるが、月姫となるとグッと数が減る。

 なんというか、海外の女優を目にしたみたいな感じだ。


「ルナは珍しい黒髪やあの足腰に目がいくが、一番すごいのはあいつの手だ。あの細くて白魚のような指が繊細に動いて男のナニを触るのは、ほかの誰にもまねできないくらいだからな」


 聞いてもいないにも関わらず、ラムダ騎士隊長はずっと説明を続けている。

 というか、今の話ぶりだと、ラムダ騎士隊長もルナとやったことあるんじゃないか?

 穴兄弟とかいうやつになっちまうじゃないか。

 まあ、落ち着いて考えれば相手はいろんな人と経験があるんだろう。

 ちょっと緊張してきた。


「お待たせいたしました。ヤマト様、こちらへどうぞ」


 ラムダ騎士隊長と話していたら、給仕の男性が声をかけてくれる。

 どうやら、先に奥にあるラウンジに行って食事をすることになっているようだ。

 案内の後ろからついていく。

 俺が通された席は少し背の低いテーブルを3方向から囲むようにソファーが置かれていた。

 奥のソファーへと腰を下ろすと、ふんわりと腰を包み込み、しっかりと姿勢を維持してくれる。

 まるで気持ち良すぎて、座った人をダメにするために作られたソファーのようだ。


 ソファーの感触を楽しんでいると、人がやってきた。

 ルナと呼ばれるルナマリア嬢とほかにも数人の女の子がいる。

 え? なんで何人もいるの?


「初めまして、ヤマト様。今宵お相手させていただきますルナマリアと申します。よろしくお願い致します」


 ルナはドレスのすそを両手でスッと持ち、広げるようにしながら頭を下げ、あいさつをしてくる。

 高く透き通った声とでもいうような、俺の耳にスッと入ってきて気持ちよさすら感じた。

 天は二物を与えずというが、この人は例外なのではないかと思ってしまう。


「よろしく。ルナマリアさん。ところでそちらの方々は?」


「ルナとお呼びください。この子たちは私の付き人です。ご一緒させていただいてよろしいですか?」


 付き人?

 そう聞くと相撲取りの横綱なんかに付く付き人をイメージしてしまった。

 この場に全くふさわしくない男の裸を久しぶりに思い出したが、付き人自体はそう間違っていないだろう。

 要するに、若手とか見習いの娼婦ってところかな。

 今日はラムダ騎士隊長のおごりだからいいけど、普段も付き人が一緒についてくるんだろうか。

 てか、料金とかいくらになるんだろう。こういうところって。


 付き人がつくことは別にかまわないので了承した。

 しかし、問題はこの後だ。

 ルナはものすごい美人さんだし、若い付き人もみんな美少女で、いったい俺はこれからどうすればいいんだ。

 何か話をした方がいいんだろうが、全く分からん。

 ラムダ騎士隊長とかと同じ席とかのほうが良かったんじゃないかとすら思ってしまう。

 どうしようと思いながら、とりあえずカラカラになってきたのどを潤そうとグラスに口を付けた。


「……うまい。これは月の滴かな?」


 口に含んだ水が喉を通過するときにフワッと消えて全身に駆け回った。

 以前、飲んだことのある月の滴とかいう水と同じ気がする。


「はい、よく御存じですね。こちらは月の滴です。珍しいものですがよく飲まれるのですか?」


「いや、よく飲むようなものでもないでしょう。以前、フルムーンという美術館のようなレストランに行ったときに飲んだことがあります。たしか、満月の日にだけとれるんでしたね」


「まあ、フルムーンにも行かれるのですか? 実はこの月光館のシェフはフルムーンで長年修行を積んだものが務めているのですよ。シェフがどうしても月の滴は欠かせないというので、少量ですが満月の日には用意していますの」


 あの高級店の元料理人がここの食事を作っているのか。

 どれどれと思って、テーブルに置かれたものを見る。

 最初だからか野菜スティックのようなものが置いてあった。

 1本手に取って食べてみる。


「うまい。瑞々しいのにカリッとした食感がある。ついつい何本も食べたくなるな」


 手に取った野菜スティックはきゅうりのように見える。

 特に何もかけていないのに野菜の甘みも感じられ、食感とあわせてすごくおいしい。


「それはキュロスという野菜です。そのままでは食べられないのですが、一度水を沸騰させてから少し冷ましたお湯にしばらくつけ、その後冷たい井戸水で1時間以上冷やすことでおいしく食べられるんですよ」


 うまいうまいと言いながら、キュロスというのをカリカリと食べていると、横に座っているルナがにっこりとほほ笑みながら教えてくれた。

 ふわふわのソファーに座って、肌が触れあえるほどの距離にいるルナに緊張していたが、思わずその笑顔に見とれてしまった。

 その時、ひらめいた。

 この世界の文化や世界情勢なんかを全く知らない俺が目も眩むほどの美人と話す話題といえば、食事くらいしかないということに。

 プロ中のプロであるシェフが作った食事をうまいと言いながら食って料理の解説をしてもらえば、話も弾むんじゃないだろうか。

 というかそれしか方法が思い浮かばない。

「ほかにもおいしいものはないかな? よかったらおすすめのものを教えてくれるとうれしいな」


「はいっ! おいしいものっていいですよね。私は時間があれば自分で作ることもあるんですよ。今日のおすすめならこちらはどうですか」


 料理なんかしたことの無い深窓の令嬢にしか見えないのだが、意外と料理好きなのか。

 ルナはすごく楽しそうに料理について話ながら、おすすめ料理を選んでくれた。


「リアナではお肉料理が多いのですが、月光館ではリーンからお魚も取り寄せているんですよ。川魚はそのまま食べると少し臭いがするのですが、きちんと処理すればすごくおいしいんです。これはお魚の切り身に小麦粉をまぶして、バターで焼いたものです。食べてみてください!」


 ムニエルっぽいものだろうか。

 確かに生臭さなどは一切しない。

 それに魚自体久しぶりに食べた気がする。

 リアナでは食糧事情が悪くはないが、魔の森でとれたモンスターの肉なんかを食べるのが一般的だ。

 市場なんかを散策しても、魚は一度も見たことがなかった。

 久しぶりの魚を食べるだけでも涙が出そうになる。

 うまいうまいと言いながらいろんな料理を堪能した。




 □  □  □  □




 結構長い時間食事を続けていたみたいだ。

 最初は騎士隊のみんなもラウンジにいたが、それぞれがお気に入りの嬢を選んで、適当な時間になったら部屋に移ったようだ。

 割と最後のほうにまで残ってしまっていた。

 もっとも、女よりも酒が好きだという人たちも一部にいたようで、そちらはまだ酒盛りが続いている。

 おいしい料理を食べつつも腹八分くらいのところで、俺の緊張もほぼゼロになっていた。

 そのタイミングで俺も部屋へと移動することにした。


 休憩室やラウンジがあるのは1階だが、そこから上の階へと上がる。

 上の階には何部屋も仕事用の部屋があり、さらにその上の階には、それぞれの嬢の自分たちが使う私室があるようだ。

 何回も通い続けて、向こうから信用を得られるようになると私室に通されることもあるようだが、俺は当然仕事用の部屋だった。


 もっとも、さすがは高級娼館とでもいおうか。

 部屋に入ると大きなベッドがあり、部屋の中にはいくつもの間接照明が取り付けられており、少しくらいが近くにいると十分に表情を見られるだけの明かりが用意されている。

 お香かアルマオイルかわからないが、いいにおいもしている。

 調度品などをみても安いものではなさそうで、スイートルームに来たみたいだ。

 ベッドに上がってみると、適度な反発があり、寝たら朝までぐっすりと目が醒めないようなマットが使われていた。

 ラスク村では藁の上で寝ていたんだが、ものすごい違いだ。

 というか、こんなマットみたいなものが存在するんだな。

 なにで作られているのか気になってしまう。


 が、そんな俺の雑念も一瞬で吹き飛んだ。

 一緒にベッドに上がったルナがピトッと俺の右腕に寄り添う。

 それだけでもその場の空気が変わった。


 お互い、何も言わずに唇を合わせる。

 唇と唇がそっと触れ合う程度。

 それだけでも、驚かされる。

 プルンプルンの唇は触れただけでも気持ちがいいし、それそのものが極上の果実のような甘さも感じたのだ。

 次はもう少し長く唇を重ね合わせる。

 それだけでも気持ちがいい。

 なんというか幸福感を感じさせてくる唇だった。


 俺がしばらくその唇を堪能していると、いつしかルナの舌が俺の口の中に入ってきた。

 ルナの舌が俺の唇の裏や歯茎、舌の表面や側面、裏側や頬の肉など、あちこちに触れていく。

 真っ赤なルナの舌は恐ろしく熱く、なまめかしく感じた。

 自分の口の中を舌で舐められるだけで、これほど気持ちがいいものなのかとここでも驚かされる。


 その感覚を楽しんだ後は、俺もルナの口の中に舌を入れる。

 まあ、ファーストキスでそんな舌使いが俺にできるとは思えん。

 基本的には舌と舌を絡み合わせるようにキスを楽しんだ。


 それにしてもルナはきれいだ。

 口づけする際に目を開けて顔をまじまじと見てしまったが、その距離で見ても肌がしみやしわなど一つもなく透き通っている。

 お肌の手入れに特殊なものでも使っているんだろうか。

 魔物由来の特別美容品とかがあれば、現代日本をしのぐ美容品とかもありそう。


 そう思っていると、ルナも目を開けた。

 目と目があうと、ニコッと微笑んでくれる。

 少し息遣いが荒くなっており、頬が赤くなっている。

 それだけでもなんというかエロティックだ。


 と、そこで俺の体がビクンと跳ねた。

 なんだと思ったら、ルナの手が俺の体をまさぐっている。

 体を触られるだけでも、くすぐったいのとは少し違う気持ちよさがある。

 キスを続けながらもあちこちを触られたが、俺がどこで気持ちよさを感じるのかをそれだけで把握されてしまった気がする。


 スルリと服まで脱がされてしまった。

 すると、そこでルナが手の平に何かを付けた。

 なんだろうか?

 多少ネバネバしているところを見ると、ローションとかそんなやつだろうか。

 いや、ローションも見たことないからわからないんだけど。


「それは?」


「これはスライムオイルです。人肌になると肌についたときにキュッと引っ付く感じがして気持ちがいいんですよ」


 そういいながら、そのスライムオイルを俺につけ、手を動かし始めるルナ。

 ズリュという感覚とともに上下に動く刺激を加えられる。

 やばい。

 スライムオイルだけでもそうとやばいが、指使いもやばい。

 その細い指を10本、余すところなく使って刺激を加えてくる。

 これまで感じたことの無い快感が押し寄せ、体をビリビリという電気が走ったような気がした。

 今まで感じたことの無い感覚だ。

 だが、決して嫌なものではなく、その刺激を受け続けているとそれが癖になってきたように思った。


 結局俺は翌日、日が昇るまでルナといろんなことをしてもらい朝を迎えたのだった。

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