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荒れ地地帯

 翌朝になると、宿場町の状況は変わっていた。

 遅れて到着してきた冒険者たちは、その全てが宿場町の宿に泊まることはできなかったようだ。

 そのため、空き地どころか宿場町の外にはみ出してテントを建てている始末だ。


 さらに、それらの冒険者を目当てにしてきたのか、商人たちが数人ほどいた。

 食料品や簡単な武器防具のほか、布なんかも取り扱っているようだ。

 これは単に商品を売りに来ただけというわけでもないらしい。

 今回の盗賊団討伐が無事に終了した際、そこで冒険者たちが手に入れたものをすぐに買い取りたいという思いもあるのだろう。

 気の早い者たちはすでに値段についてまで交渉をしている。

 盗賊団討伐の拠点となったここは、ものすごい熱気に包まれていた。


 さて、今日から俺たち冒険者も盗賊がいるであろうアジトを探し始めることとなる。

 南東方面のうちでも近場は騎士隊が従者などを使って探索していた。

 その範囲内では見つかっていないため、さらに奥地へと踏み込んで探すこととなる。


 探索の方法は昨日の作戦会議で決まった方法を、その日のうちにハイド教官が冒険者たちへ指示している。

 机に広げられていた大きな地図、この地図を縦と横に直線を引くようにして区切る。

 わかりやすく言うと、縦をA、B、C……として、横を1、2、3……とし、区切られたエリアをA1やC3などと呼ぶことにする。

 このように区分けしたエリアそれぞれに冒険者を配置してアジトを探すようだ。


 作戦参謀っぽい雰囲気を出していた騎士は、わかりやすくて効率的ないい探索法だろうと言っていた。

 確かにそれで盗賊の1人でも見つければ後はそのエリア内を重点的に探すだけでも良いので効率的とは言えるのかもしれない。


 だが、これはおそらく手がかりが見つからなくても構わない方法なのではないだろうか。

 各エリアに分けて探索した結果、手がかりが得られなかったとする。

 だが、状況証拠として荒れ地地帯の何処かに盗賊たちは潜伏しているはずだ。

 となると、手がかりが見つからないのは、それすなわち探索に出た冒険者が消されたことを意味するはずである。


 エリア分けして探索する場所を個別に決めておけば、いつまでたっても帰ってこないエリアが怪しいと考えることができる。

 探索担当エリア内にあるアジトを見逃していたら、今回の討伐が成功しても報酬が大幅に減額されてしまう決まりになっていたため、冒険者は必死に探すことだろう。

 うまく見つかればそれで良し、見つからなくてもそれで良し、殺されて帰ってこなければそれでも良し、となかなか冷酷なシステムのような気がする。


 もっとも、リスクを怖がっている冒険者はいないように見える。

 誰も彼もが、自分が手に入れることになる盗賊たちのお宝に思いを馳せているようだった。




 □  □  □  □




 朝食を食べ終わると探索が開始された。

 区切られた担当エリアのうち、遠いエリアのものから先に出発していき近いものほど遅れて出ることになっている。

 俺は全体から見れば近くも遠くも無いエリアが担当だった。

 朝食を食べ終えた後も、少しだけ休憩する時間があり、それからの出発となった。


 まずは宿場町から街道沿いに少し東に進んだ。

 交易都市とつながっている街道のため、横に何台も馬車が並んで通ることができる広さの道だ。

 徒歩で歩きながら遠くを見る。

 森が見えた。

 あの森の中を突っ切るように街道は続いているらしい。

 森の中と言っても、そこを通る道もかなり広くなるように木を切り開いて整地しているらしい。

 ただ、やはり森の中というのはそれだけで不気味な雰囲気があるのではないだろうか。

 襲われたキャラバンもようやく森を抜けてホッとしたところで襲撃を受けて混乱したのではないかと思う。


 森の近くまでは行かずに途中で南東方向へと向かうように街道を外れる。

 近くのエリアを担当している人たちと行動をともにしているのでそう迷うこともないだろう。

 人の後ろについていく形で、黙々と歩き続けた。


 しばらく進んでいくとだんだんと景色が変わってきた。

 街道近くは遠目には森が見え、それ以外はまばらに木が立っている草地という感じだった。

 しかし、南東に向かって進むとだんだんと草や木などの緑が少なくなってきたのだ。

 赤茶けた土が露出している部分も多く見られる。

 このあたりからが荒れ地地帯と呼ばれるところになるのだろうか。


 俺はさらにその先へと進んでいく。

 担当した地区になると今度は地面が隆起している地形へと変わってきた。

 2〜3mほどの高さの隆起で赤茶けた地面が目に映る。

 ただの荒れ地というよりは、なんとなく荒野をイメージしてしまう。


 この辺の土地はあまり水がないのかもしれない。

 しゃがみこんで土を触ってみると、少しサラサラした感じがする。

 リアナの街の近くは畑が広がり、さらに魔の森が存在していた。

 緑あふれる土地柄なのだろうとばかり思っていたが、わずか数日歩いた範囲にこんなところがあるとは驚かされた。

 こういうのは砂漠になったりしないのだろうか。

 なんとなく、とうもろこしくらいなら植えれば育つ気がするのだがどうなんだろう。


 それにしても、探しにくい。

 無駄に隆起があるというのも嫌なものだ。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【探知】


 盗賊団をバシッと追跡して居場所を割り出すようなスキルは持っていない。

 なので、探知スキルを使って探すことにした。

 探知スキルは半径100mであれば存在を感じることができる。

 隆起したところで見落とすようなこともないだろう。


 何か変わったものは落ちていないだろうかと辺りを物色しつつ、担当エリアをくまなく歩き回っていく。

 すると、突然探知スキルに反応を感じた。

 だが、今までとはなにかが違う。

 この違和感はなんだ。


 探知で存在を感じる方向へと目を向けるがなにも見えない。

 だが、そいつはこちらへと近づいてきていた。

 もしかして。

 そう思って上を見上げた。

 が、なにもいない。

 雲の少ない青空だけが広がっていた。


 そして、そいつはやってきた。

 俺が上を向いた瞬間に近づいた事自体はたまたまだったろう。

 ほんの少し、地面が動いたように感じた。

 慌ててその場から大きく跳躍するように飛び退く。


 揺れを感じた瞬間から一拍遅れるようにして、そいつは姿を現した。

 下から上に突き上げるようにして、体を地面から飛び出している。


 ワームだ。


 地球ではまず見かけないような、とても大きなミミズがそこにいた。

 だが、上に突き出した、おそらく頭部分をこちらに向けると、そこには円形の穴が開いており、歯が見えていた。

 三角形になった歯が円を描くように連なっている。

 見ただけで、鳥肌が立ってしまう。

 気持ち悪い。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【火魔法】


 俺はとっさに火魔法をペイントし、【火球ファイアーボール】を放っていた。

 直撃と同時にワームの体が燃え上がる。

 しばらく、燃え続けていた炎が消えたときには、ワームは黒焦げになって死んでしまっていた。

 ワームの全身を覆っていたヌメヌメした体液、あれはもしかしたら可燃性だったのかもしれない。

 効果は抜群だ、ということになるのだろう。


 ただし、俺の魔力では休憩なしだと最大でも火球10発しか打てないのが問題だ。

 ゲームならばともかく、全長3〜4mほどある巨大ミミズと戯れるような趣味は俺にはない。

 が、しょうがない。

 次からは刀で切るしかないだろう。

 若干盗賊討伐に来たのは失敗だったかと思うほど、テンションが下がってしまった。


 俺はその日、1日中くまなくエリア内を探索し続けた。

 結果として、このエリアには盗賊はいなかった。

 ここにいたのは数種類のモンスターだけだった。

 大鼠や穴兎といった小型のものや、それを狙う狼型モンスター、そしてワームなど。

 ワームは穴兎が好物なのだろう。

 発達した聴覚を持って外敵が近づく前に逃げてしまう穴兎を襲うため、土の中を移動しても体を覆う体液によってあまり音を出さずに移動できるワーム。

 見事に捕食者と非捕食者の関係になっているようだった。


 この辺の土地が隆起している原因ももしかしたらワームが土の中を移動して掘り進んでしまうからなのかもしれない。

 そんな盗賊とは関係のないことを考えながら、俺は宿場町へと帰ってきていた。

 なにも異常なく、日々是平穏なりと適当な報告をしておく。


 俺の他にもすでに帰ってきている冒険者がいたが、まだ盗賊団のアジトは発見されていないようだった。

 することもなかったので、宿場町でハイド教官に軽く模擬戦に付き合わされながら過ごす。

 それから2日ほどが経過した頃だった。

 宿場町めがけて1匹の馬に乗った男が伝令を伝えに来たのだ。


「報告。盗賊団のアジトを発見しました。荒れ地地帯の奥、F6にあるカルド遺跡にて、盗賊団の一味が出入りしているのが確認されました」


 訓練終わりで倒れ込んでいる俺の横に立つハイド教官に対して報告を上げる冒険者。

 どうやら、カルド遺跡なる場所に盗賊たちは潜伏しているようだ。

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