集落の発見
上位種の存在を確認してからも、俺はエイダさんと一緒に森の調査を続けた。
森に入るたびにゴブリンと遭遇する。
しかも、だんだんとより強いゴブリンが現れ始めてきていた。
ゴブリンリーダーやマジシャン、アーチャーの他にも、ゴブリンナイトやホブゴブリンと言った種族と遭遇していた。
ホブゴブリンなどは身長が160cmほどと、通常のゴブリンよりも大柄の個体だ。
当然、力も強くなっている。
基本的には俺が前衛に位置取り、後方からエイダさんが弓で支援を行う戦闘スタイルへと変わってきていた。
「なかなか見つからないもんだね。ここもハズレだ」
エイダさんがつぶやく。
俺達が探しているのはゴブリンの群れがあるはずの「ゴブリンの住処」だ。
だが、森の中に非常に多くのゴブリンがうろついていることを考えると、住処というのはどこでも良いというわけではない。
おそらくは飲み水を確保できる、水場の近くにあるのではないか。
そう予想をたてて、森の中を探し回っていたのだ。
しかし、これでエイダさんが知っている動物が集まる水場は全て回ってしまっていた。
いまだに住処を探しきれていない。
といっても、エイダさんの狩場はそこまで広範囲ではないようだった。
多くは日帰りできる範囲内で狩りを行っており、どうしても獲物が取れないときに一晩森のなかで過ごしていける範囲がせいぜいらしい。
ここまで見つかっていないことを考えると、森の中を最低3日間ほど野宿しながら探し回る必要がありそうだ。
ここまで何日も森の中の移動を繰り返し、狩り続けてきた。
それによって、森歩きや気配の察知は最初のときと比べれば、かなり改善してきていると思う。
さらに森の奥深くまで探しに行くのであれば1人で行ったほうが効率がいいかもしれない。
【隠密】を使えば滅多なことはないだろう。
「姐さん。ここからは俺1人で調査を続けます。狩りの仕事もあるでしょうし、後は任せて下さい」
そう言うと、頭をゴンと殴られてしまった。
みると、エイダさんが顔を真っ赤にしながら怒っている。
「馬鹿言ってんじゃないよ。下のものを守るのが上に立つものの務めだ。あんまりふざけたこと言うと殴るよ」
すでに殴ってんじゃねーか、とは思っても口には出さない。
適当に姐さん呼びを始めてしまったからか、見事に子分の扱いになっているようだ。
まあ、それなら仕方がないか。
俺は次善の策を披露する。
「それなら、ここからはゴブリンを見かけても無視して、住処だけを探しましょう」
今までは、悪即斬の法則に則って見つけたゴブリンは全滅させていた。
これを無視して先に進むという計画に見えるが、実際には少し違う。
最近は森歩きや気配察知の練習のために使用していなかった【探知】スキルを活用して、住処だけを探していこうという計画である。
もっとも、探知スキルで把握できるのは自分から半径100mくらいみたいだ。
ゴブリンと鉢合わせしないように避けながら、最終的には目視での確認が必要だと思う。
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「向こうに気配を感じる。あっちだ」
俺が指さした方向へ姿勢を低くしながら近づいていく。
森の調査を開始してからすでに10日以上が経過していた。
森の中は思ったよりも起伏に富んでいた。
山まではいかないが、丘のようになっているところが何ヶ所もある。
高い場所へと登るように移動して辺りを見渡したり、小川を見つけてそれを辿ったり。
そんなことを繰り返して、ようやく多くの気配がかたまっている場所を感じ取った。
「ヤマト、あそこを見ろ。集落があるぞ」
間違いない。
多くの気配を感じ取っていた場所には、たしかに集落が存在した。
少し離れた場所で、俺たち2人は木の上へと移動して、集落を見下ろしている。
森の中にあったチョロチョロと流れる小川が一部で広がり、小さな池のようになっている。
それを中心にするように、木で作られたテントのような家がいくつもあった。
周りに生えていたであろう木をへし折り、それを三角錐のような形にして地面に建てて、木と木の間の隙間は葉の付いた枝をかぶせている。
ゴブリンがこんな家を作れるとは思いもしなかった。
上位種の中に大工仕事のできる種族でもあるんだろうか。
「グオオオオオオオオ!!」
集落を見ながら、ゴブリンの種族について考えていると、恐ろしい雄叫びが響き渡る。
辺りの木の枝にいた鳥たちが一斉に飛び去って離れていく。
ビリビリという振動すら感じさせる雄叫びが聞こえてからしばらくすると、集落の反対側から何かが近寄ってきた。
……大きな毛むくじゃらの何かが来た。
ゴブリンの集落に他のモンスターがいるのだろうか。
そう思いながら、様子を見ていると自分が勘違いしていた事に気がついた。
毛むくじゃらの何かはすでに死んでいたのだ。
実際にはそれを持ち上げながら、ここまで運び込んでいる存在がいたのだ。
一番大きな家の近くまできたそいつは、地面にドスンと担いでいたもの落とした。
地面に置かれた毛むくじゃらの正体はクマだった。
「あれは、暴食熊じゃないか?」
一緒に見ていたエイダさんがつぶやく。
暴食熊というのは、なんでも口にする大食漢で、気性の荒いモンスターだそうだ。
発達した筋肉による圧倒的な力。
その力故に危険なモンスターとして認識されているという。
そんな危険なモンスターを狩ってきたのは、ゴブリンだった。
体の色は緑色だ。
しかし、その大きさは軽く2mを超えている。
ミシッと身体に詰まった筋肉からはヘビー級の格闘選手のようにも見える。
いや、その表現は正しくないのかもしれない。
頭から伸びる、他のゴブリンとは一味も二味も違う「角」。
それはまさしく、「鬼」と表現しても間違いのない姿だった。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】
鬼の姿を確認した俺は慌ててステータスを確認する。
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種族:ゴブリンキング
Lv:42
スキル:怪力Lv1、剣術Lv3、指揮Lv2
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どうやら、あの鬼の正体はゴブリンキングというらしい。
となると、やはりあいつがこの集落の主なのだろう。
鑑定していると、横から俺の袖が引っ張られる。
エイダさんだ。
どうしたのかと思い振り向くと、エイダさんは違う方向を見ていた。
なにかあるのか。
俺もそちらへと目を向ける。
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種族:ゴブリンジェネラル
Lv:34
スキル:槍術Lv2、指揮Lv2
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王様の他には将軍となる存在もいたらしい。
見た目はこちらも十分鬼と表現して差し支えないのではないだろうか。
ただ、ゴブリンキングがムキムキのゴリラだとすれば、ゴブリンジェネラルは少しスラッとしておりミドル級くらいに見えなくもない。
恐ろしいことに、この将軍様は1匹では足りなかったらしい。
確認できただけでもう1匹見つけることができた。
再び袖を動かされる。
今度はどうした、と思ってエイダさんをみると、カタカタと身体を震わせていた。
武者震いではない。
単純に恐怖によって、自身の身体を制御できていないのであろうことが一見してわかる。
顔が真っ青だ。
エイダさんを抱き寄せるようにして、背中を撫でる。
そうしながら、もう一度集落全体へと目を向けた。
ゴブリンの数は非常に多い。
全部で何匹いるのかすらわからないが、数百匹はいるに違いない。
毎日、森の中でゴブリン退治をしていたが一向に数が減った気がしなかったが、ここまで多かったのかと逆に納得してしまった。
そう考えていると、急に頭のなかで音がした。
「ピコーン」とでも言うような電子音のような音だ。
この世界へとやってきてから、機械のようなものは一度も見ていない。
ひどく懐かしいようにも思うが、急に音が聞こえたので身体がビクンとはねてしまった。
一体何だ。
そう思ったときに、俺の視界に文字が表示された。
――クエストが発生しました
なんのことかわからない。
ただ、森の調査で終わりという訳にはいかないということだけはなんとなくわかった。
俺は震えるエイダさんを抱きしめながら、しばらくの間、ゴブリンの集落を見つめ続けていた。




