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問題解決

 何の前触れもなく、達成不可能かとすら思っていたクエストが終わってしまった。

 なぜだろうか。

 俺の目の前に広がるマグマの海を見ていると、火山が落ち着いて噴火しなくなったと言える状況には程遠いように思う。

 だが、今までのクエストのことを思い返すのであれば、達成したと表示される以上は鎮静化に成功しているのだろう。

 よくは分からないが、とりあえずフィーリアにだけは報告しておこう。

 これでもう大丈夫なのだと。


 しばらくクエストのことを考えていたが、そろそろ限界だ。

 マグマに直接触れてはいないと言えどもあまりの熱気でフィーリアが施した結界の効果も弱まってきているように感じた。

 これ以上はここにいると危険かもしれない。

 あまり長い時間、アリシアを遊ばせてやれないというのは残念ではあるが仕方がない。

 一度上で待つフィーリアたちのところへと戻ることにした。


「おーい、アリシア。そろそろ一度上に戻ろう。暑くてこれ以上は無理だ」


 大きな声を張り上げるようにしてアリシアへと声をかける。

 果たして俺の声が届いたのだろうか。

 さっきからアリシアは燃え盛る溶岩の中へと潜水しているのだ。

 聞こえない可能性もありそうだ。

 だが、その心配は杞憂だったようだ。

 マグマの中に潜り込んでいたアリシアは下からまっすぐに上へと飛び出るようにして飛び出してきた。

 バシャっという音とともに姿を現すアリシア。

 その動きとともに超高温のマグマが飛び跳ねてくるため、俺は慌てて岩陰に隠れて避難する。


「おい、アリシア。こっちはおまえみたいに頑丈な体じゃないんだ。気をつけてくれ……よな……」


 ドシャ、バシャと飛んでくる灼熱の液体が落ち着いた頃を見計らって、俺は岩陰から隠していた体を出してアリシアへと文句を言う。

 だが、その言葉の勢いは最後まで続かなかった。

 俺の眼に予想外の光景が映し出されていたからだ。

 俺が見たのはアリシアだ。

 しかし、つい先程までの姿とは違ってしまっていた。

 それまでは尻尾の先までを含んでも1mほどしかなかった体が、3m程へと伸びていたからだ。

 全長だけではない。

 全長が3倍に増えたということは、縦にも横にも大きくなっている。

 さっきまでの可愛らしく、子どものような姿のフィーリアにぬいぐるみのように抱きしめられていたアリシアの姿ではなかった。

 縦にも横にも、さらに奥行きも3倍近く大きくなっているということは、体積や体重の増え方は3倍どころの話ではない。

 まだ溶岩竜と比べれば小さな体と言えるのかもしれないが、そこには立派な龍の姿をしたアリシアがいた。


「アリシアだよな? 俺のことはちゃんと分かるか?」


「キュウ!」


 よかった。

 本当によかった。

 こんな足場の悪い即死ステージみたいなところで、大きくなった氷炎龍に襲いかかられでもしたら対抗できなかったかもしれない。

 一応、姿は大きくなったものの俺のことは知り合い判定が出ているようだ。

 多分襲われることはないだろう、と思う。


「とにかく、アリシア。一回上に戻ろう。大きくなった姿をフィーリアに見てもらおうか」


「キュウ! キュウ!」


 嬉しそうに頷いて、上へと向かって飛んでいくアリシア。

 その姿はあっという間に見えなくなってしまった。

 俺を置いていくなよ、と小さくつぶやいてから俺は転げ落ちないように気をつけながら噴火口内部を登っていったのだった。




 □  □  □  □




「どうなっておるのじゃ。アリシアが大きくなっておるぞ。ヤマトよ、一体何をしたのじゃ?」


「俺はなんにもしてないよ。下に行って水浴びするみたいにマグマの中を泳いでいたと思ったら大きくなってたんだ」


 俺に聞かれても困る。

 答えようがない。

 何かをして大きくなったのか、それとも氷炎龍の成長スピードはこれくらいが普通なのかどうかも分からない。

 今気がついたのだが、成長したらどのくらいの大きさまでデカくなってしまうのかも俺は知らないのだ。


「まあ、けど大きくなってもフィーリアには懐いているみたいだな」


「当然じゃ。妾たちは固い絆で結ばれておるのじゃ」


「そうなの? いつの間にそんなことになったんだよ。まあいい、そう言えば他にも報告しないといけないことがあったんだ。どうも火山の噴火の方も落ち着く可能性が高そうなんだ」


「ほう? それは確かか?」


「たぶんね。そっちもなんでかは原因が分からないんだけどな」


「ふむ、それが本当であるとすれば原因はアリシアであろうな。さっきまでよりもこやつの体からは力が充実しておるのを感じる。アリシアが大地の熱を取り込んだのじゃろう」


「大地の熱を取り込んだ?」


「そうじゃ、妾も冷気を取り込むことができるように、アリシアは熱気を取り込んだのじゃろう。成長期じゃからまだまだ力を蓄え続けるのではないかのう」


 そうか、マグマで泳いでいるのを見たときは驚いたが、あれはアリシアにとって遊びではなく食事代わりだったのかもしれない。

 口から食べるというよりも全身をマグマの中に潜らせて、体全体で吸収していたのかもな。

 しかし、大地の熱を吸収する、か。

 多分それは正解で、アリシアが火山からエネルギーを吸い取ったことがきっかけとなって俺のクエストも達成扱いになったのだろう。

 ようするに、火山の熱を奪い取る氷炎龍がこの地に住み着いたということで、噴火が起こる可能性が低くなったのではないだろうか。

 行き当たりばったりでここまでやってきたが、結果としてみれば正解を引き当てていたということになる。

 終わりよければ全て良しだ。


 だが、それとは別にやっぱり他の方法もあったんじゃないかという気がしてきた。

 最初に火山の鎮静化と聞いて不可能だと思ってしまった。

 そこにフィーリアが自分の存在を吹雪に変えて、火山を冷却して噴火を止めると聞かされた。

 俺の頭はそれによって、「火山の鎮静化=火山を冷やす」となってしまっていたように思う。

 そして、そのために周囲の冷気を吸い取るアイテムを作って、そこから冷気を出して問題を解決しようと考えてしまった。

 しかし、今冷静になって考えてみれば冷やすものを作ってから火山を冷やすよりも、熱を吸収するものを見つけてきたほうが早かったのかもしれない。

 もうちょっと思考を柔らかくしていろんなことを考えるべきだったなと、内心で反省していた。


 まあ、けどいいか。

 結果としてうまくいったのだし、アリシアはかわいいし。

 それになによりフィーリアが犠牲になることが防げたんだから。

 俺は仲良さそうにして空を飛んでいるフィーリアとアリシアを見て、思わず口元を緩めて笑ってしまっていた。

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