合成獣
「うまい! 久々に食べたが、やはり氷喰鳥の卵はいいな。精霊様、ありがとうございます」
現在は雪の街フィランへと戻ってきている。
オリビアさんにも氷喰鳥の卵をプレゼントしてみたところ、たいそうお気に召したようだ。
これは味がいいのは知られているが、取ってくるには危険過ぎるため、なかなか口にすることが出来ないらしい。
そのため、氷喰鳥の卵は「フィランの珍味」という扱いになっているらしい。
兵士を指揮しているときのキリッとしたオリビアさんとはまた違う、ほんわかと頬を緩めた顔つきでフィーリアと一緒にデザートを楽しんでいた。
「ふう、ごちそうさま。ヤマト殿には服までもらってしまって悪いな」
「いえいえ、結構な日数をこの屋敷に泊めてもらったりしているんで、その御礼ですよ。気にしないでください」
「そうか。ならば遠慮なく頂戴しておこう。それで、この後はどうするんだ。ダンジョンコアと氷喰鳥の卵で何か作ることになるのか?」
「一応そのつもりです。まあ、何が作れるのかはこれから確認しないといけませんが」
フィーリアによると火山の活動が少し活発化してきているらしい。
早いところ、鎮静化の役に立ちそうなものを作り出しておく必要がある。
できれば今日中には作ってしまいたいところなのだが、どうなるかは分からない。
俺は食事を口にしながらも、この後のことが心配であまり味を感じなかった。
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食事を終えた俺たちは、あてがわれている一室に戻ってきた。
ここにはダンジョンコアを始めとした、俺の持つ素材や荷物などがすべて揃っている。
そして、その部屋の中央には大きな羊皮紙に描き込まれた魔法陣が設置されている。
これは氷の女神像を【読心】スキルで過去の光景を読み取ったときに見た魔法陣だ。
誰だかは知らないが、1人の女性がこの魔法陣の上に氷霜巨人の心臓と氷を置いて氷の女神像を作っていた。
この魔法陣もうまいこと利用できないかと思ってペイントスキルを使って用意しておいたのだ。
そして、その上に俺の持ち物をすべて乗せている。
ぶっちゃけた話、この魔法陣が一体どういうものであり、他の素材からでも「冷気を吸収することのできるアイテム」を作り出せるかは分からない。
だが、俺の場合はスキルを使う前に、ステータス画面から何を作ることができるのか、一覧表示で確認することが可能だ。
俺はあと1ヶ月もない期間で日本へと帰ることになる。
たとえ閻魔刀が素材として必要になったとしてもかまわないとさえ考えて、武器以外にもゴブリンキングの革鎧や、大蛇のラバースーツなどの防具も魔法陣の上に置いている。
「昔の人が魔法陣で氷の女神像をつくったってことは、あれは多分錬金術だよな?」
――ステータスオープン:ペイント・スキル【錬金】
誰も答えようがないことをつぶやいてから、返事を待たずに【錬金】スキルをペイントした。
そして、ステータス画面を操作して、錬金スキルで作ることのできるものを表示させる。
俺の予想ではいくつもある選択肢の中から最適なものを選び出さなければならないと思っていた。
だが、その予想は大きく間違っていた。
錬金スキルによって作ることができるのは、たった1つしかなかったからだ。
【合成獣】
これのみである。
果たしてこれで火山の問題が解決できるのか、甚だ疑問であると言わざるをえない。
ここまでの苦労がすべて無意味だったかのように感じて、俺は思わずため息が漏れ出て、体から力が抜けてしまった。
立っていた状態からフラフラっと倒れ込むようにして、床へと座り込んでしまう。
「ど、どうしたのじゃ、ヤマト。何かあったのか?」
「ごめん、フィーリア。この材料だと火山の鎮静化に役立つものが作れそうにない。本当にごめん、今まであっちこっちに引っ張り回して手伝ってらったのに」
自分が犠牲になって火山の噴火を止めると言っていたフィーリアは、これまでもあまり深刻そうな感じにはならずにあっけらかんとして過ごしていた。
だが、俺がなんとかすると言って希望をもたせたことは間違いないだろう。
期待させておいて結局何も出来ない自分が歯がゆかった。
グッと握った手に自分の指の爪が当たって血が滲んでくる。
だが、それでも力を緩められず手はプルプルと震えてしまっていた。
「そうか。なに、気にすることはないと何度も言ってきたであろう。妾が自分の意志で決めたことにお主が責任を感じることはないのじゃ」
「すまん」
「だから何度も言わすでない。気にするなというておろうに。じゃが、せっかく集めた素材で何も作れんとなるともったいなく感じるの。どうじゃ、ヤマトよ。全部売ってしまって、甘いものをたくさん買って食べると言うのはどうじゃ。いい考えではないかのう」
「……え、ああうん。いや、作れるものはあるんだけどな。合成獣なんだけど」
「ん? そうなのか。ならばそれをつくってみればよいではないか」
「えっ、だって合成獣を作っても火山の噴火なんかどうしようもないだろう」
「なにを言うとる。それこそ、やってみないことには分からんじゃろうが。作ってみてダメじゃったらそれはそれで別にいいではないか。今と変わらんのだし」
そういうもんかな?
まあ、たしかに作ってみても損はしないのか。
いや、一応ほかの生産系スキルで何かいいものを作ることが出来ないかもチェックしておいたほうがいいな。
あまりに期待していたことと違って、思考が停止していたようだ。
フィーリアとの会話で落ち着きを取り戻した俺は、それからしばらくステータス画面とにらめっこを始めた。
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「うーん、やっぱりダンジョンコアを素材に何かを作るには錬金術くらいしかないみたいだな。ここは合成獣に賭けてみるしかないと思う」
1時間ほどウンウンと唸りながら出した結論は、結局錬金スキルで合成獣を作るというものだった。
他に作れそうなものといえば武器や防具、薬品などがあったが今更それらが役に立つということもないだろう。
再び錬金スキルをペイントして、必要な素材を魔法陣の上に並べていく。
・ダンジョンコア
・氷喰鳥の卵
・閻魔刀
・大蛇のラバースーツ
・マグナタイト
・フィラン産ホットエール
合成獣を錬金するにはこれらの素材が必要となるらしい。
ホットエールまでも使うらしいが、一体どんなモンスターが出来上がるのだろうか。
いざ、作るとなると別の意味でもドキドキしてきた。
なんというか、超高額のガチャでも引くような気になってくる。
「よし、やるぞ」
そう言って、俺は錬金スキルを発動する。
最初に床に敷いた羊皮紙の上に描かれている魔法陣が光り輝く。
そして、それに続くようにして各素材がパアッと光り輝いた。
いつもよりも少しだけ光っている時間が長い。
だが、それもだんだんと落ち着いてきて、光がなくなった頃には魔法陣の上に素材となったものは無くなっており、新たに大きな卵が1つだけ残されていた。
素材に使った氷喰鳥の卵よりも大きめで、赤と青の縞模様になっている卵だ。
思わず、フィーリアの方に視線を向けるが彼女もこれが何かは分からない様子だった。
合成獣というとてっきりいろんなモンスターの素材を継ぎ接ぎした生き物ができるとばかり思っていたのだが、まさか卵ができるとは。
卵型のモンスターということもないだろうから、ここから羽化するってことでいいんだよな?
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】
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種族:氷炎龍
Lv:0
スキル:火魔法Lv0・水魔法Lv0・風魔法Lv0
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何かわからないため、調べるために鑑定眼を使って卵を見た。
なんだこれ?
氷炎龍ってなんだ?
名前からしてもすっごい強そうなんだけど。
ていうか、この名前だとどう考えても合成獣とは言わないんじゃないだろうか。
なんか、とんでもないものを作ってしまった気がする。
卵から孵った氷炎龍のせいでフィランが滅亡とかならないよな?
問題を解決しようとして、新しい問題を作ってしまったのではないかと思わず頭を抱えてしまうことになったのだった。




