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フィランでの再会

 リンドを出て、俺とフィーリアとシリアは移動を開始した。

 ダンジョン攻略だけでも2ヶ月近くかかっており、もう時間がない。

 俺はこの世界に1年間しかいられないのだが、その期限はあと1ヶ月ほどとなっているのだ。

 俺としては基本的に気まぐれで何をしでかすかわからないフィーリアには、自分の好きなように生きてもらいたいと思っている。

 だが、その俺の願いどおりにすれば、フィーリアは自分の力で火山の噴火を止めようとするだろう。

 リンドを出発して、一度フィランへとよって補給をすませて北の山脈へと向かう。

 そのため、俺が火山の鎮静化に挑戦できるのは実質的にこれが最後になるかもしれない。

 正直に言うと、ダンジョンコアを手に入れることに意味があったのかと考えてしまう。

 2ヶ月も時間があれば、もっと他にいい方法が思いついたのではないか。

 いまだ降り積もる雪の中を移動しながら、ずっと答えの出ない疑問について考え込んでしまっていた。


 6日ほどかけてフィランへと到着すると、以前にもお世話になったオリビアさんの屋敷へとお邪魔することにした。

 いきなり貴族の屋敷に行くことができるのも、フィーリアの姿を街の人がよく知っているからに他ならない。

 雪の街フィランでは歩いているだけでも、大人から子どもまでもがフィーリアへ話しかけていた。

 お年寄りからは軽く食べられるお菓子のようなものをもらい、成人男性からは好奇の目を、女性たちからは羨望の眼差しを受けるフィーリア。

 そして、子どもたちからは腕を引っ張られたり、足に抱きつかれたりしている。

 ちなみに女王雪豹であるシリアに近づく大人たちはいないのだが、子どもは気にせず近寄ってきて触っていく。

 意外と子どもの面倒見がいいシリアは自慢の白い毛や尻尾を引っ張られでもしない限りは、それなりに優しく相手をしてやっているようだ。

 そんな様子を見ながら歩くのだがゆっくりとしか進めない。

 しばらくフィランから姿を消していたからか、子どもたちのテンションが高く、なかなか先へと進めなくなってしまったのだ。


「精霊様? お久しぶりでございます。お戻りになられておられたのですね」


 フィーリアが子どもたちと一緒になって、甘いジャム付きのクッキーを食べていると、背後から声がかけられた。

 振り返ってみてみると、そこには見知った人が立っている。

 今まさにお邪魔しようとしていた家の家主であるオリビアさんだった。

 武装をしている兵士たちと一緒にいるところを見ると、今も仕事中ということになるのだろうか。

 だが、昔からの憧れである高位精霊のフィーリアを見てオリビアさんも嬉しくなってしまったのだろう。

 兵士たちに解散を告げて、一緒に屋敷へと向かうことになった。

 オリビアさんはきれいな青髪を三つ編みにして、上等な革鎧を身に着けている。

 だが、そんな戦うための姿であるはずの装いに反して、立ち居振る舞いからは高貴な身分の女性であるというのがよく分かる。

 だからだろうか、仕事に対して真面目な性格であっても特に怖いわけでもないのだが、子どもたちはあまりオリビアさんには気安く接しようとはしない。

 フィーリアに付き纏うようにしてへばりついていた子どもたちまでもが、サーと波が引くようにいなくなってしまった。

 歩きやすくなったのはいいことだが、それを見てオリビアさんもどこか悲しそうな表情をしているように見えた。


「それで、ヤマト殿。以前、リンドのダンジョン攻略を行うと言って出発したわけだが、ここにいるということは攻略に成功したのか」


「はい。運良く前回のダンジョン攻略者と一緒にダンジョンへ潜ることができて、なんとかダンジョン攻略に成功しましたよ」


「そうか、いやはや流石だな。精霊様やシリア殿がついているとは言え、こんな短期間でダンジョンを攻略して来るとは。よかったら、詳しく話を聞かせてほしい。屋敷に泊まっていくんだろう?」


「ええ、ご迷惑でなければ。まあ、また北の山脈に行くことになるのでゆっくりも出来ないかもしれませんが」


「なんだ、もう少しゆっくりしてもいいだろうに。まあいい。すぐに屋敷に連絡しておいて、もてなしの準備をさせてもらおう」


 そう言って屋敷に人を走らせてから、俺たちは一緒に歩いて行く。

 歩きながらちらりと湖の方をみると、以前と変わらない氷の女神像がそこにあった。

 この2ヶ月で再び冷気を吸収して大きくなっているはずだが、見ただけではわからないくらいの変化しかないようだ。

 少なくとも、遠目から見た限りでは以前フィーリアが冷気を吸収して小さくなった10mほどと同じくらいの高さに見える。

 だが、その女神像はこれからもずっとフィランの街を見守っていくはずだ。

 あれが実在する女神を偶像しているものなのかどうかは分からないが、無意識のうちに俺は火山の鎮静化がうまくいくように女神に祈っていた。




 □  □  □  □




「ダンジョンのことはこんな感じですかね。とにかく何と言ってもダンジョン用に作られたダンジョン飯がまずいのが一番困りましたね」


「ダンジョン飯か。私は食べたことがないが、聞いたことはある。腹は膨れるが、とても口にできないくらいの味だとな」


「そうですね。特にダンジョン以外では絶対に食べられないくらいだと思います。ただ、不思議なのがダンジョンの洞窟内に生えている茸と一緒に水で混ぜると味が良くなるんですよ。って言っても、絶対に食べられないやつが、我慢すればなんとか食べられるってくらいですけど」


 オリビアさんはかなり聞き上手な人でもあるので、俺は屋敷で用意された夕食を食べながらこれまであったことを色々と話していた。

 ダンジョン飯というのはいろんな肉や豆、薬草などを混ぜ合わせてつくったカロリーバーみたいなやつのことだ。

 小さくて保存性に優れる上に腹持ちがよく栄養価が高いという夢のような食料なのだ。

 もっとも、味がまずいという一点だけでダンジョン以外では全く流通していないのだが。

 ダンジョンに潜り始めた当初はこのダンジョン飯以外を俺が料理スキルで調理して美味いものも食べていた。

 だが、下層に至った頃からは食べられるものと言えばダンジョン飯か洞窟内の茸だけだった。

 冒険者たちが気軽に下層へと潜らない理由も、この辺の食糧事情があったりするらしい。


「なるほど。ダンジョンといえど、ただモンスターの相手をするだけではないということだな。いかに準備を行うかで生存率が大きく変わるというわけか。雪山に入ってモンスターと戦うのと似たようなものかもしれんな」


「そう言えば、こっちはどうなんですか? 以前と比べてモンスターの出現場所が変わったとかの変化があったりするんですか?」


「ああ、前よりも雪原人が出てくることが増えてきた。今のところ少数の群ればかりだから対応は出来ているが、ヤマト殿がいたときのように何十匹もの大きな群れが出ると兵士たちからも被害が出るかもしれん」


「やっぱり火山の影響があるんですかね?」


「かもしれん、としか言えないがな。雪原人以外にもここから数日の距離の場所に氷喰鳥の巣ができたという報告もある。やっかいなものだ」


「えっ、氷喰鳥の巣の場所が分かるんですか? どのへんか教えてもらえますか」


「別に構わんが、今度は氷喰鳥を倒しに行くのか? 精霊様もいるし滅多なことはないだろうが気をつけることだ。この時期は巣に卵があるために氷喰鳥はテリトリーに入ったものを徹底的に狙って襲ってくるからな」


 そんな習性があるのか。

 氷喰鳥自体は以前見たことがある。

 氷霜巨人の姿を確認しに雪山へと行ったときに、出てきたモンスターだ。

 山に生えている木の上に巣を作り、そこを中心に生活しているモンスターだが、基本的には他の生物を襲うことは少ないらしい。

 何と言っても氷を食べるだけでも生活できるからだ。

 戦う際に厄介な点は何と言っても空を飛ぶということだろうか。

 体長1mくらいの鳥が多数で襲ってきたら対処が難しいかもしれない。

 俺は更に詳しく氷喰鳥のことをオリビアさんやフィーリアに確認して、翌日には雪山へと入っていくことにした。

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