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帰還後の一幕

 新しく閻魔刀を手に入れて嬉しくなってしまいはしゃいでしまったが、ようやくそれも落ち着いてきた。

 刀を鞘へと戻して、次はいよいよ本命へと目を向ける。

 本命とは当然のことながら、このダンジョン最下層で宙に浮いているダンジョンコアのことだ。

 ダンジョンの主である溶岩竜がいなくなっても、気にすることなどないと言わんばかりに変化も何もなく浮いている。

 俺がダンジョンコアに近づいていくとフィーリアとシリアも一緒になって歩いてきた。


「ふむ。きれいなものじゃな。それに高密度の魔力が凝縮されておるのじゃ」


「普通の魔石なんかとはやっぱり違うものなのか?」


「当然じゃろう。質そのものが違うのじゃ。ダンジョン内に存在する魔力を吸い取って凝縮し、さらにその凝縮された魔力を原動力により多くの魔力を吸収しているみたいじゃな。たとえ他の魔石と同じ大きさに揃えたとしても、その内包する魔力量は桁違いになるはずじゃ」


 やっぱりダンジョンコアというのは特別なんだな。

 だいぶ時間と手間がかかったがようやくこれを手に入れた。

 だが、これで終わりではない。

 このダンジョンコアを利用して、火山の噴火を防ぐ方法を見つけないといけないのだ。

 とにかく今はダンジョンからさっさと退散するに限る。

 俺はまるで宝石を手にするような気持ちで宙に浮かぶダンジョンコアに触れて、引き寄せる。

 バレーボールほどの大きさの薄っすらと青い光を放つダンジョンコアだが、手に触れているとほんのりと暖かい。

 こいつだけは運び屋に任せる気もなかったので、丁寧に梱包して自分で背負って持って帰ることにした。

 そうこうしていると、向こうも溶岩竜の頭を切り取れたようだ。

 その頭と、ついでに持てるだけのマグナタイトを背負って、再び歩き出す。

 地図を見ながら最下層からダンジョンを脱出するにはさらに17日もかかってしまった。




 □  □  □  □




「すごいです。本当にダンジョンを攻略してきたんですね。あれから連絡もつかないから、ずっと心配していたんですよ」


 現在、俺たちがいるのは冒険者ギルドの一室だ。

 さっきから興奮しっぱなしなのは受付嬢のフランさんだ。

 ちょうどギルドへと顔を出したときに受付にいたので、開いている部屋へと通してもらいダンジョンを攻略したことを報告したというわけだ。

 ギルド内は大いに沸き立っている。

 なにせ8年間誰もなし得なかったダンジョン攻略の証明として溶岩竜の頭がギルドに持ち込まれたのだから当然だろう。

 次から次へと見物客が押し寄せることになってしまって、受付ではとても話をするどころではなくなってしまったほどだ。

 今はひっきりなしに押し寄せる人に対して、運び屋連中がダンジョン内のことを話しているみたいだった。

 最終決戦を彼らは見ていないはずなのだが、そのあたりをどう話をしているのかは少し気になるところでもある。


「それで、ヤマトさん。ダンジョンコアをオークションに出すのはダメですか? きっとすごい値段になりますよ。一生遊んで暮らせるくらいだと思います。あっ、盗難が心配であればリンド冒険者ギルドが責任を持ってお預かりすることも出来ますので、ご安心下さい」


「いや、悪いんですけどあれは俺たちにとっても必要なんで売りませんよ。ギルドも溶岩竜の素材があれば十分でしょう」


「そ、そんな〜。なんとか考え直して下さいよ〜」


「ダメです。お断りします」


 さっきからずっと押し問答が続いている。

 もっとも、最初と比べればようやくフランさんの口調が軽くなってきているので、もう俺の意思が硬いことはわかったのだろう。


「なら、せめてパレードを。ダンジョン攻略者はギルドが宣伝するために必ずパレードをしているんですよ。せめて、そっちだけでも参加して下さい」


「それもパスで。準備だけでも時間がかかりそうですし」


 ここからもまた長々と話し合いが続くことになった。

 とにかく、ギルドは自分のところに所属する冒険者がいかに実力があるかということを周りに示したいという思いがあるのだろう。

 だが、こちらも無駄に時間を消費するわけにもいかない。

 結局、今日のところは盛大な宴会を行うことにして、後日あらためてパレードを開こうということになった。

 俺が出られるかわからないが、そのときはガロードさんになんとかしてもらうしかない。

 数合わせに運び屋たちを後ろにつけて歩かせるだけでも雰囲気は出るだろう。

 彼らは一切戦いには参加しなかったが、危険な未到達階層にまでついてくる仕事を受けただけあり肝が座っている。

 ガロードさんいわくこのリンドの冒険者の中でも今後の期待枠という位置づけらしいので、パレードで注目を集めてやる気がアップすればそれはそれでいいのではないかと思う。


「う〜。ヤマトさんがこんなに頑固だとは思いもしなかったです。さすが雪の降る中フィランに行くだけはありますね。普通じゃありません。でも、宴会だけは絶対に参加してくださいよ」


 フランさんにそんなことを言われながらようやくリンドでの後処理が終わった。

 ダンジョンの攻略というのは最下層でダンジョンの主を倒すだけでは終わりではないのだということがよくわかった。

 今後そんな経験があるかどうか知らないが、いい経験をしたと思うことにして無理やり自分を納得させた。




 □  □  □  □




「それでだ、問題はこっからなんだよな。このダンジョンコアをどう使って火山の噴火を止めるかなんだが……」


 結局宴会は三日三晩続いた。

 一応青河を利用すれば冬の間でもリーンなどと行き来はできるのだが、ほとんどのリンドの住人は街の中に閉じ込められた状態だ。

 そこにものすごい大きくて強そうな竜の頭が登場したものだから、リンド中から見物人が集まってきてしまった。

 そこにはとりあえず飲めればいい、騒げればいいという奴らが一定数存在する。

 誰でも飲み食いオーケーの宴会だったこともあり、朝から晩までが3日間続いてしまったのだ。

「宴会に参加する」と言ってしまったので断りにくく最後まで残る羽目になってしまったというわけだ。

 ようやくそこから解放されて、シリアも泊まれる宿で体を休めながら話をしている。


 火山の噴火を鎮静化するための方法として、フィーリアが自分の体を吹雪へと変えて長い時間その場を冷やし続けるという方法がある。

 なんとかそれを止めるために、代わりとなる道具が作れないかと考えて目をつけたのが氷の女神像だった。

 この氷の女神像を【読心サイコメトリー】スキルで調べてみると、氷霜巨人フロストジャイアントの心臓と氷などを材料として魔法陣を作動させることで、周囲の冷気を吸収し続ける性質のある氷の女神像が作られたということが分かった。

 だが、肝心の氷霜巨人はあまりにも格が違いすぎて、手を出すことすらできない。

 そのため、氷霜巨人の心臓とは別に大量の魔力を内包したものとしてダンジョンコアに目をつけたというのが、ここまでの流れだった。


「うーん、でもこのダンジョンコアだけだと別に冷気を集める効果なんてないんだよな。これを材料にするにしても、他に冷気吸収の特性があるものもあったほうがいいのかもしれない」


「冷気を吸収するものか。そうじゃな、それじゃと氷喰鳥の卵くらいしかないのではないか?」


「氷喰鳥? それって確か北の山脈で出てきた鳥型のモンスターだよな。あいつって氷を食べるだけじゃないのか?」


「その考えは間違っておらんよ。成長した氷喰鳥は氷を食べるだけで冷気を吸収するようなことはないのじゃ。だが、卵のときは別じゃ。氷喰鳥の卵は、周りの冷気を吸い取って大きくなるのじゃ」


「へー、そうなんだ。よく知っているな」


「初めて山脈を出て他の土地に行ったときに、食べようと思って持っていった卵が大きくならんかったからのう。そのときに気がついたのじゃ」


 それって、ベガと精霊契約したときのことか?

 割と最近になって気がついたってことじゃないか。

 どうせ、火山の噴火を鎮めるためにももう一度北の山脈に行かないといけない。

 役に立つかもしれないし、その卵も素材候補として集めておくことにしよう。

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