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ファーストアタック

「よっしゃ。それじゃあ、これからいよいよダンジョンの主を倒しに行くぞ。運び屋は荷物をまとめて通路の入口付近で待機しておいてくれ」


 最下層へとつながる通路の手前にあった水場、そこでの最後の休憩が今終わった。

 朝食を食べて少し腹休めをしてから、ついに溶岩竜の元へとむかうことになったのだ。

 いつもならば一緒に行動する運び屋たちだが、今回は待っていてもらうことにした。

 俺が最下層を偵察した際、ダンジョンの主である溶岩竜は明らかにダンジョンコアに執着していたからだ。

 多分一緒に最下層に降りてしまうと、運び屋たちまで狙われてしまう可能性が高い。

 そこで、不安ではあるだろうが上の階で待っていてもらうことに決めたのだ。


 突入するのは俺とフィーリア、シリア、そしてガロードさんの4人だ。

 基本的な戦術はこれまでの階層と同じでガロードさんが相手をひきつけて、フィーリアが遠距離攻撃、そして俺とシリアが遊撃として溶岩竜にダメージを与えることになる。

 もっとも、金属でできている体を持つ溶岩竜の攻撃をガロードさんが防ぎきれる保証はどこにもない。

 噛みつきや爪のある腕の攻撃よりもむしろ、口から岩を飛ばすことがあるそうなのでその攻撃からフィーリアを守るという意味合いのほうが強くなりそうだ。

 多分、8年前にもガロードさんの立ち回りは似たような感じだったのではないだろうか。

 溶岩竜から魔法使いを守るための防御役として働いたら、攻撃してないからダンジョン攻略の役に立ってないとかそんな感じで言われたのではないかと推測してみた。

 少し遠慮気味に確認してみたところ、話をそらされたのでおそらくその考えであっていると思う。

 もしもそうなら、防御だけではなく攻撃もしたいと考えてしまうかもしれない。

 そのことをフィーリアにも伝えて、気をつけてみていてもらうことにした。




 □  □  □  □




 4人みんなで最下層に向かう通路を歩いて行く。

 スロープになった道をしばらく無言で喋ることもなく歩き続けると、それまでの洞窟から大きく開けたドーム状の場所へと出ることになる。

 空間の中心部に目を向けると、前回は寝そべっていた溶岩竜がその巨体を4つの足で持ち上げて、こちらへと顔を向けた。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 種族:溶岩竜ラヴァ・ドラゴン

 Lv:138

 スキル:硬化Lv4・土魔法Lv3・雄叫び・火竜弾


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 鑑定眼でステータスを見てみると、溶岩竜のLvは俺たちの中で最強のフィーリアのものよりも高いことがわかった。

 正直、ここまで高いとは思っていなかった。

 前に氷霜巨人の姿を見て、俺の恐怖心が麻痺でもしていたのだろうか。

 無意識のうちに比べてしまっていて、溶岩竜に怖さを感じていなかったのかもしれない。

 だが、それは大きな間違いだ。

 俺の強さは真っ向から戦うとシリアといい勝負というだけで、それもアーツを使ってなんとか互角の戦いに持ち込めるだけのものでしかない。

 ガロードさんもベテラン冒険者としてリンドの中でもトップクラスの実力の持ち主だとは思うが、鎧騎士と1対1で戦うと厳しいものがあるだろう。

 というか、本当に8年前、こんな強さのモンスターを冒険者たちは倒したんだろうかと疑問に思ってしまう。


「グオオオオオオオォォォォォォォォ!!」


 寝そべっていた体を立ち上がらせた溶岩竜が雄叫びを上げる。

 そのあまりの大声によって、ドームの中のすべてが揺れているように感じた。

 いや、それ以上かもしれない。

 今の雄叫びだけでダンジョンが崩れてしまうのではないかと思ってしまった。


 音、というのは空気の動きによって脳が認識するものだという。

 それはつまり、俺たちは今の雄叫びによって空気の波をぶつけられたことになる。

 雄叫びを聞きながら、意識がフッとなくなってしまったのだ。

 俺たちはそろって体から力が抜け、地面へと倒れてしまった。

 まさか、雄叫び一発でここまでの力があるのか。

 ドラゴンと呼ばれるものがどれほどの存在なのかを見せつけられた気分だった。

 おそらく倒れたなかでは俺が一番早く目を覚ましたに違いない。

 その俺の眼には今まさにとどめを刺して、最下層への侵入者を排除しようと溶岩竜が走り寄ってきていた。

 全長10mはある巨体。

 遠目に見てもその存在の大きさは分かったが、近づいてくるとさらに大きく見える。

 腕も足も胴体もすべてが分厚く、太いのだ。

 そして他のゴーレムや鎧騎士たちの体ともまた違う。

 どちらかと言えば氷霜巨人に似た雰囲気を感じた。

 金属で出来ているはずなのに、その体にはずっしりとした筋肉が詰まっているようで、走る姿は躍動感にあふれていた。


 体を起こそうと地面へと両手をついて力を入れようとする。

 だが、そこから起き上がれない。

 気絶状態から覚めたばかりの俺の体は全く言うことをきかないうえに、走る溶岩竜によってドスンドスンと地面が揺れるのだ。

 振動で地面に当てた手を揺らされて、起き上がるどころかその状態を維持するだけでも難しい。

 そして、そんな俺にも構わずに溶岩竜は目の前へと迫ってきていた。


 大きな口が開かれる。

 全身の赤黒い金属の肌とはまた違った、獲物を切り裂くために尖ったいくつもの歯が見える。

 これはもうだめだと思った。

 この世界へと来ていろんな経験をしてきたが、この時が本気で一番死を覚悟したかもしれない。

 だが、俺の命運はまだ尽きていなかったみたいだ。


 俺の後ろから幾つもの飛翔物が飛んでいき、溶岩竜へとぶち当てられる。

 しかもそれは1つだけではない。

 数え切れないほどの無数の氷柱が溶岩竜の攻撃を止めたのだった。


「なにをしておるのじゃ。ダンジョンコアを手に入れて妾を助けてくれるのじゃろう? こんなところで倒れておる場合ではなかろう」


 かけられた言葉に思わず後ろを振り返ってしまう。

 そこには、いつもと同じように宙をフワフワと浮いているフィーリアの姿があった。

 真っ白な体からは冷気が漏れ出ている。

 すでに全力モードに入っているフィーリアの姿をみて、俺はさっきまでの自分が情けなくなった。

 間違いなく、俺はあの瞬間諦めてしまっていた。

 だが、フィーリアは全く諦めるなどという様子はない。

 そうだ、そのとおりだ。

 俺たちがここにいる理由はダンジョンの主を倒したいからではない。

 俺たちの目的は火山の噴火を止めることにある。

 ここにいる溶岩竜などはその通過点にしか過ぎないのだ。

 いくらやつのLvが高く強かろうとも、俺が1人で戦うわけではない。

 諦めるようなことなど1つもないということに気がついた。

 そう思うと、フッと体が軽くなったような気がした。

 俺は勢い良く地面から飛び起きて、刀を抜く。


「ああ、そのとおりだ。行くぞ、フィーリア」


 俺はすかさず刀術スキルをペイントして、溶岩竜へと向かって駆けていった。

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