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最下層

「ガロードさんの盾の使い方はすごいですね。ここぞってときに相手の体勢を崩してくれるから、すっごい戦いやすいですよ」


 洞窟の地面の上に座りながら、のんびりと話をしている。

 手に持つ物は刀ではなく、スープの入った器だ。

 今は最下層へとつながる通路を見つけ、その少し手前にあった水場で休憩をしているのだ。

 ここまでやってくるのに28日も経過してしまっている。

 幸いなことに、フィーリアはこの異界化しているダンジョン内でもかすかにだが火山の状態が分かるらしかった。

 今のところ噴火しそうな感じはないそうで、とりあえずホッとしたところだ。

 まだタイムリミットは残されている。


「いや、おまえのほうがすげえだろ。その刀っつう武器でスパスパと鎧騎士どもをぶった切っていくしよ。それだけじゃねえ。まさかダンジョン内で武器や防具の修理とか改造までできるとは思わなかったぜ」


 ガロードさんもスープをすすりながら返事をする。

 どうも、さっきの俺の言葉はお世辞か何かに聞こえたようだ。

 だが、すごく戦いやすいのは事実だ。

 俺はずっと刀を使ってきているが、両手で握って振り回すのが基本だから、Lvの高い相手だとどうしても攻撃を当てるためにあの手この手の駆け引きが必要になってくる。

 しかし、ガロードさんと組むようになってからは、ガロードさんが自慢の大盾で相手の動きを封じてくれるので、それに合わせて攻撃することになる。

 1人でモンスターを相手にするのと比べると、戦闘のしやすさは雲泥の差なのだ。


 そこで、13階層から下の階層を進むに当たっては、俺たちはずっとパーティーとして戦ってきた。

 もちろん、フィーリアやシリアたちも含めてだ。

 だが、そうすると鎧騎士の攻撃をガロードさんが一身に受け持つことになり、しまいには盾のほうがボロボロになってしまったのだ。

 万が一のことがあると、一気にパーティー全員に被害が波及する事も考えられる。

 俺はボロボロになった盾を修理することを提案した。

 最初はガロードさんは断ってきた。

 こんなダンジョン内で盾の修理が満足にできるとは到底思えず、しかも直そうというのが鍛冶屋でもなんでもない冒険者の俺だ。

 変に手を加えられて余計にひどくなってしまっては困ると言われれば俺も強くは言い出せなくなってしまう。


 ならば、ということで俺は鍛冶スキルをペイントして実際に何かを作るところを見てもらうことにした。

 使った材料は鎧騎士の体そのものとも言える、鎧の金属だ。

 この金属は鑑定すると鉄であることがわかった。

 だが、ただの鉄ではなかったのだ。

 耐魔物質アンチマジックマテリアルと呼ばれる、魔力に反発する性質を持った鉄らしい。

 実際、俺の魔法やフィーリアの精霊魔法による攻撃も少し効きにくかった。

 イメージとしては磁石の同じ極同士が反発する感じだろうか。

 フィーリアほどの強さがあれば押し切れるのだが、それでも変な抵抗がかかるため魔法攻撃が少しそれて当たったりしたものだ。

 この耐魔物質という属性を持つ鉄を鍛冶スキルで極細のワイヤーのようにしてから、裁縫スキルで服とズボンに仕立て上げた。

 手に持ってみると重さもさほどではなく、むしろ軽いくらいだ。

 なにせ生地を透かしてみると反対側が見えるくらい薄いのだから。

 この耐魔服をゴブリンキングの革鎧の下に着込む。

 これだけで魔法攻撃に耐性がつくという素晴らしいものが完成した。


 これを見せられると、さすがのガロードさんも俺の鍛冶の実力を信じざるを得なかったのだろう。

 まずは自分にも同じような服がほしいと言うのでそれを作って手渡す。

 ついでに他の服や鎧もガロードさんの体にピッタリと合うようにフィッティングし直してあげた。

 お次にようやく盾の修理だ。

 まずは鍛冶スキルで修理リペアを行う。

 だが、これだけでは面白くないと思ってしまった。

 修理した盾を試しに持ってもらい、その重量のバランスなどを確認してから、今度は耐魔物質を盾に加えてみることにしたのだ。

 あっという間に、耐魔大盾アンチマジックタワーシールドなるものへと変わってしまった。

 売ったら結構な金額で買い取ってもらえるんじゃないだろうか。

 ちなみに武器の大斧については普通に修理しただけだ。

 下手に魔法に反応して武器が反発し、動いてしまうと困るというのが理由だ。

 やはり防御に利用するのが一番いいのだろう。




 □  □  □  □




「よし、それじゃあ、ここで一晩休憩したら、明日はいよいよ溶岩竜との戦いだ。覚悟はいいな?」


 ガロードさんの言葉に首を縦に振って頷く。

 フィーリアも「うむ」といい、シリアは俺の背中を尻尾でペシペシ叩いて同意する。

 いよいよ最下層に陣取っている溶岩竜との戦いになる。

 最下層は18階層だったようで、下に降りようとしたときにシリアが止めたのだ。

 おそらくスキルの気配察知にでも反応したのだろう。

 そこで、俺はみんなを待機させて隠密スキルをペイントしてから、下の階層へと降りていった。

 そして、そこはまさしく最下層であることを確認した。


 通常は洞窟が続いているのがこのダンジョンの特徴だ。

 だが、次の階層はその様子が違っていたのだ。

 スロープになった通路をしばらく歩いて降りていくと、急に大きく開けたところへと出た。

 かなりの広さだと思う。

 ドーム球場の広さの10個分以上はあるのではないかと思った。

 そして、その空間の中心にはバレーボールくらいの大きさの魔石が宙に浮かんでいたのだ。

 今まで見てきた魔石はクレイゴーレムやサンドゴーレムだと小指の先くらいで、金属ゴーレムだとピンポン玉くらい、そして鎧騎士になると握りこぶしほどの大きさだった。

 それらとは一線を画す大きさの魔石。

 あれこそがこのダンジョンにおけるダンジョンコアなのであろう。


 だが、宙に浮かぶダンジョンコアの下で、まるでコアを守るかのように寝そべっている存在がいる。

 あいつがこのダンジョンの中で一番の実力を持つモンスターにしてこのダンジョンの主の溶岩竜で間違いないだろう。

 てっきり名前のイメージから岩でできているのかと思っていたが、そうではないらしい。

 少し赤黒い色をしているが、岩とは違い磨かれた金属のような艶のある物質が体を構成している。

 おそらくあれも何らかの金属で、岩などよりも遥かに硬いのだろう。

 さらに溶岩竜を観察する。

 赤黒い体をした四足歩行のモンスター。

 やはり竜というだけあってドラゴンのイメージ通り、トカゲのような姿に近い体つきだ。

 頭は口元が少し長く突き出るように伸びており、そこからは太い牙がいくつも見える。

 胴体も長めでそこに手足が付いているが、溶岩竜には翼に当たるものはないようだ。

 多分空をとぶことは出来ない種族なのだろう。

 そして、体のお尻からは長い尻尾が伸びている。

 胴体の長さが4〜5mくらいで、尻尾もそれと同じくらいの長さではないだろうか。

 まっすぐ体を伸ばせば10m以上もあるため、戦うにあたり相手との位置関係や仲間の居場所の把握も重要になるだろう。


 俺としてはできればこのまま隠密で気づかれないようにダンジョンコアだけを持ち逃げできないかとも考えた。

 だが、そう考えた瞬間、溶岩竜はピクリと反応して体を起こし周りを見回しだした。

 もしかして、俺の気配でも感じ取ったのだろうか。

 それともダンジョンコアを狙うものの考えでもわかったのか。

 どちらにせよ、すんなりとダンジョンコアを渡すつもりはないということだろう。

 やはり、正面から打ち破って持ち帰るしか方法はなさそうだ。


 最下層の様子を確認した俺はそっとその場を離れた。

 本当ならばここで鑑定眼で強さも確認しておきたかったのだが、それはまずい気がしたのだ。

 隠密スキルを使ってもこちらの存在に気が付きかける強敵。

 きっと隠密を外した瞬間に俺に襲い掛かってくるに違いない。

 ならば、ここは一旦引き下がり、万全の準備を整えたあとの戦いに集中する方がいいだろうと判断した。

 最下層の様子やダンジョンの主の特徴などをみんなに報告し、いよいよ明日、ここでダンジョンコアを手に入れる。

 興奮した頭を無理やり鎮めて眠りにつくのには少し苦労してしまった。

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