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鎧騎士

「フィーリア、あの鎧騎士とか言うやつは魔法に耐性があるみたいだぞ」


「ふむ、妾の魔法ならば問題ないと思うがのう。まあ、それならお主たちで相手をするが良いのじゃ」


 洞窟の奥から歩いて近づいてくる鎧騎士を見ながら、フィーリアと言葉を交わす。

 魔法がどのくらい効くのかもいずれ調べておいたほうがいいかもしれないが、いきなり初戦で実験することもないだろう。

 フィーリアは後方にいる運び屋たちを守るようにしてもらって、俺とシリア、そしてガロードさんで鎧騎士を相手にすることにした。


「ガロードさん、あいつは手に持っている剣を使う技量があるみたいです。危険かもしれませんけど、正面受け持ってもらってもいいですか」


「おう、任せとけ。俺の盾であいつの攻撃を防いでやるから、ヤマトと猫ちゃんでサクッと倒してくれよな」


 ガロードさんは一番危険な役割を受け持ってくれた。

 ちなみに猫ちゃんというのはシリアのことらしい。

 いくらまだ子どもだとはいえ、女王雪豹を猫扱いする勇気がすごいと思う。

 もっとも、シリアは猫と呼ばれてもあまり気にならないのか相手にはしないようだ。

 だというのに、俺が猫と呼ぼうとしたらガブリと噛み付いてきやがった。

 初めて出会ったときに使役されて、ゴロニャンと俺に懐いたという過去はシリアの中でいまだ消すことの出来ない黒歴史となっているようだ。

 まあ、あの後も何回か使役スキルを発動させて強制的にツンデレのデレ期として俺が楽しんだことがあるのもいけなかったのかもしれないが。


 ガチャリと音を立てながら、ガロードさんが盾を構える。

 正面に押し出すように構えると全身をカバーできるほどの大きさなのだが、ガロードさんはそれを左手だけで持ち上げている。

 一見すると盾というのは簡単そうに見えるが、そうではない。

 俺もリアナでハイド教官に模擬戦としてしごかれたときに盾を使った経験はあるが、スキル無しで使いこなすことはできなかった。

 単純に前に構えているだけでは、盾のないところから攻撃を受けてしまう。

 相手のフェイントを見極めて常に適切な場所へと盾を構え続けなければならないのだ。

 さらに言うと、相手の攻撃のインパクトの瞬間をずらすように盾を押し出す必要もある。

 これは例えば前に構えた盾に対して十分威力ののった攻撃がぶつけられた場合、押し負けてしまうからだ。

 インパクトの瞬間の手前でガンっと押し返すことで、自分が押し負けずに攻撃を受けきることができ、さらに相手の体勢を崩すことにもつながる。

 当たり前の話だが、盾で防いでいるだけでは勝利を手にすることは出来ない。

 あくまでも相手の攻撃を防ぎ、体勢を崩すことで反撃につなげることが出来なければ盾を使いこなせているとは言えないのだ。

 ガロードさんは乱暴な言葉づかいと、普段はお酒ばかり飲んでいるような人なのだが、盾の使い方は大胆にして繊細で模擬戦をすると相手にするのが大変なのだ。

 決してただの脳筋冒険者ではないと言える。


 盾を構えているガロードさんを標的と定めたのか、鎧騎士がそちらへと足を進めていく。

 鎧騎士は本当に全身を金属鎧で覆っている。

 それも見た感じ、鎧の分厚さがすごい。

 実物を見たことがないのでイメージでしかないのだが、拳銃の銃弾くらいなら全くダメージも通らないのではないかと思うくらいの厚みがある。

 そんな分厚い金属を鎧へと変えたかのように、頭の兜から胴体、腕や足まですべて鎧を纏っている。

 これ多分、人間なら重すぎて動けないよね?

 身長は高めの180cmくらいに見えるのだが、その足音からはヘビーゴーレムと同等以上の質量を感じた。

 であるのに、右手に握る長剣をスッと構える動作は流麗であり、一切の淀みも感じさせない。

 鎧騎士にとって自身を守る鎧には何ら不自由がないらしい。

 そして、正眼の構えで長剣を握り、ガロードさんを見つめている。

 今までのゴーレムたちと違い、敵を発見したら即攻撃といって突っ込んでくることもないらしい。

 もしそうならば、一撃目をガロードさんが防いだ瞬間に俺とシリアが左右から挟撃をしかけて勝負がついたかもしれないのに。

 あくまでも鎧騎士は冷静に状況を読んでいるようだった。


 ジリジリとお互いがすり足で距離を縮めていく。

 最初は完全に間合いの外だったガロードさんと鎧騎士だが、その距離はもうほんの少し進むだけで、お互いの武器が届く距離へと縮まっていた。

 場に緊張が伝わってくる。

 運び屋たちの1人だろうか。

 遠く距離を離れてこの戦いを見ているはずの運び屋の、ゴクリと喉を鳴らした音が聞こえてきたような気がする。

 そう思った瞬間、鎧騎士の方から動いた。

 前に構えていた長剣をスッと前方へと突き出した。

 恐るべき速さの突きがガロードさんを襲う。

 だが、集中していたガロードさんはその神速の突きにも反応した。

 ガンガンガンガンという音が洞窟内に響き渡る。

 決して単調にはならないように、突きのタイミングや狙う場所を細かく変えながら、鎧騎士の攻撃が続く。

 ガロードさんもうまくそれに合わせて盾の位置を微調整しながら、なんとか受け止めていた。

 本当ならば突きを受け流して体勢を崩し、そこで大斧の一撃をぶち込みたいことだろう。

 しかし、その反撃の機会は訪れることはなかった。


 シリアだ。

 いつのまにか、シリアは鎧騎士へと攻撃を行っていた。

 彼女の持つスキルのひとつである光魔法。

 この光魔法によって自分の姿を隠し、背後から強襲したようだ。

 もともとの野生の能力故か、スキルの体術スキルのおかげかは分からないが、足音も全く聞こえない。

 さらに鎧騎士がガロードさんに対して攻撃を行う瞬間をずっと狙っていたのだろう。

 完璧なタイミングでの攻撃が繰り出されていた。

 これは決まったかと思ったが、鎧騎士はそれを読んでいたらしい。

 後ろから襲ってくるシリアの右腕の爪を全く見ることもなく、自身の体を半歩左へとずらすだけでその攻撃を躱してしまったのだ。

 さらに、攻撃を避けただけでは終わらなかった。

 左へと避けた体の重心を今度は右へと移動させる。

 僅かな動作で行ったようには見えない強力なショルダータックルをシリアの胴体に向けてぶちかましたのだ。


「キャン」と声を上げてシリアが数mほど吹き飛ばされる。

 だが、ネコ型モンスターだからか、大きく吹き飛ばされたのに対して空中でクルリと体の向きを変え、四足を地面につけて着地した。

 ホッとしたときには、さらに状況に変化がもたらされていた。

 ガロードさんが攻撃に移行したのだ。

 と言っても、右手に持つ大斧を使ったわけではない。

 鎧騎士の持つ長剣はスピードの早い突きが可能だが、斧はどうしても振りかぶって使うために攻撃に時間がかかりスキが出来てしまう。

 そのため、ガロードさんが選択したのは先ほどの鎧騎士のショルダータックルに似た、盾を使ったタックルだった。

 自身の体を覆うほどの大盾の内側に対して肩を当て、体重をのせるようにしてタックルする。

 しかもこれはただ単にぶつかりに言ったわけではなく、少し下から上に力を加えていたようだ。

 ほんの僅か、鎧騎士の重い体がのけぞった。

 これを見逃すはずがない。


 ――示現断ち


 闇の腕輪による気配遮断で鎧騎士の持つ気配察知のスキルをごまかし、ヤツにとって武器を持たない左手側から近づく。

 そこで発動させたのは刀術スキルのアーツであり、全力で上から下へと振り下ろす一撃。

 鎧騎士の首の左側から股間にかけてを叩き切った。

 ミスリルで作られた鬼王丸による一撃でやつの身に纏っている分厚い鎧は大きく切り裂かれる。

 まさかこいつも一撃でそこまでの傷をつけられるとは思わなかったのだろう。

 鎧兜で表情など一切ないにも関わらず、驚いたという雰囲気が伝わってきた。

 その驚きの一瞬は致命的だった。

 先ほど吹き飛ばされたはずのシリアが猛然と鎧騎士へと襲いかかり、俺のつけた切り痕に腕を突っ込んで、体内の魔石をほじくり出してしまった。

 魔石によって体を動かしていた鎧騎士はそれによって、完全に機能を停止させたのだった。


 ここに来る途中はそれぞれが自分の力で戦って来ていたので、連携することもなかった。

 ようするにこれが初めてこのパーティーで力を合わせた戦いだったということになる。

 その割にはかなりいい連携プレーだったのではないかと思う。

 鎧騎士も1匹だけとは限らないだろう。

 最下層にいるはずの溶岩竜ではさらなる連携でお互いの力を合わせて戦う必要があるだろう。

 その後も何度も出てくる鎧騎士を相手に、フィーリアも入れたりしながらお互いの動きを確認して戦っていった。

 そして、ついに最下層へとつながる通路までたどり着いた。

 ダンジョンへ入ってすでに28日が経過していた。

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